DDTなど塩素系殺虫剤が使用されなくなり、代わってMBCP、ベンゾエピンが用いられ、昭和48年(1973)にはオルトランがテンサイモグリハナバエ・ヨトウガに登録認可となり49年より使用されるようになり、DEP剤もヨトウガに使われるようになった。
昭和48年(1973)にマキバメクラガメが網走管内に多発したが、その後の多発は見られない。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
年次
|
作付面積
(ha) |
ha当り収量
(t) |
総収量
(t) |
根中糖分
(%) |
歩留
(%) |
産糖量
(t) |
うち原料糖
(t) |
| 昭和61(1986) |
72,132
|
53.54
|
3,861,848
|
17.2
|
16.32
|
630,143
|
|
| 昭和62(1987) |
71,377
|
53.62
|
3,827,243
|
16.9
|
16.36
|
626,115
|
|
| 昭和63(1988) |
71,829
|
53.58
|
3,848,511
|
17.3
|
16.85
|
648,623
|
|
| 平成1(1989) |
71,913
|
50.95
|
3,663,925
|
17.0
|
16.77
|
614,271
|
82,110
|
| 平成2(1990) |
71,952
|
55.50
|
3,993,571
|
16.4
|
16.12
|
643,607
|
116,640
|
| 平成3(1991) |
71,900
|
57.23
|
4,114,784
|
17.6
|
17.47
|
718,821
|
188,223
|
| 平成4(1992) |
70,560
|
50.75
|
3,580,605
|
17.6
|
17.49
|
626,175
|
113,050
|
| 平成5(1993) |
70,082
|
48.34
|
3,387,655
|
18.0
|
17.78
|
602,359
|
111,820
|
| 平成6(1994) |
69,752
|
55.23
|
3,852,569
|
15.6
|
15.14
|
583,318
|
82,791
|
| 平成7(1995) |
70,016
|
54.46
|
3,813,213
|
17.3
|
17.07
|
650,741
|
159,375
|
| 平成8(1996) |
69,664
|
47.30
|
3,295,192
|
17.6
|
17.39
|
573,144
|
90,212
|
| 平成9(1997) |
68,259
|
53.98
|
3,684,564
|
17.6
|
17.47
|
643,547
|
167,277
|
| 平成10(1998) |
70,000
|
59.49
|
4,164,421
|
16.6
|
16.32
|
679,829
|
226,432
|
| 平成11(1999) |
69,999
|
54.10
|
3,787,098
|
16.6
|
16.29
|
616,883
|
134,429
|
| 平成12(2000) |
69,109
|
53.15
|
3,673,429
|
15.7
|
15.50
|
569,200
|
123,651
|
昭和61年(1986)から平成12年(2000)まで
資料:北海道てん菜協会▲第8表 テンサイおよびテンサイ糖の生産推移(2)
|
年次
|
昭55
|
60
|
61
|
62
|
63
|
平2
|
5
|
7
|
9
|
11
|
|
株立本数(本/10a)
|
6333
|
6661
|
6910
|
6871
|
6914
|
6970
|
6899
|
6899
|
6828
|
6847
|
|
施肥量(kg/10a)N
|
20.1
|
18.6
|
17.3
|
17.0
|
16.7
|
16.6
|
16.8
|
17.1
|
17.4
|
17.6
|
|
P2O5
|
33.9
|
32.4
|
30.9
|
31.2
|
30.6
|
30.9
|
31.1
|
31.1
|
32.1
|
32.4
|
|
K2O
|
22.4
|
19.6
|
18.4
|
17.6
|
16.8
|
16.5
|
16.1
|
15.9
|
16.1
|
16.0
|
資料:北海道てん菜協会
▲第9表 株立本数・施肥量の推移
このように糖分取引により、昭和50年代にくらべ収量・歩留が向上、特に歩留は約3%程度も大幅に上昇した結果、産糖量は増大し製糖コストは低下した。しかし、昭和55年(1980)頃よりテンサイ糖は供給過剰の傾向となり、昭和60年(1985)以来、各作物の計画的生産を図るため農業団体による作物作付指標面積が設定されるようになった。糖分取引以降の産糖量は昭和50年後半の50万t台に比べ10万t程度増加し安定的に60万t台と多くなった。また、異性化糖の生産増大と加糖調製品の輸入増大等による砂糖の消費減少のためテンサイ糖の供給過剰は恒常的なものとなり、平成元年(1989)原料糖制度が始まった。しかし、この制度は糖業にとっては、原料糖買入価格が白糖より低く、かつその後原料糖が増加傾向となり、経営的には厳しいものとなった。一方、生産農家にとっても、原料価格は糖分取引後伸び悩み基準糖度帯の引き下げも昭和52年(1977)にあり、必ずしも糖分取引移行により収益が改善されたとは云えなかった。特に、平成6・10・11年のような低糖分、あるいは平成12年のような低収・低糖に遭遇すると収益性は低下し作付意欲の減退を招く事態となる。糖分取引以降、安定的に推移して来たと思われたテンサイ生産も以上のような不良条件にあうと、昔から耐冷性に優れた安定作物とされたテンサイは一転し「不安定作物」になってしまう。この不安定をもたらす要因としては、平成6年は旱魃と褐斑病・ひび割れテンサイ、平成11年は湿害と根腐症状テンサイ、平成12年は湿害・夏期高温と褐斑病・葉腐病・根腐症状テンサイ等の発生であり、いずれの年も天候不順とそれに伴う生理的障害および��害の多発であった。病害の影響としては特に盛夏期の高温多湿による褐斑病と初夏から秋期にかけての根腐症状テンサイの発生が最も重要であり、テンサイ生産を左右する。なお、「根腐症状テンサイ」とは根腐病・黒根病・ひび割れテンサイ・心腐病・生理的腐敗テンサイ等全ての根部の根腐症状を示すテンサイの総称であり、北海道のテンサイ品種試験における根部の調査基準に用いられている。
糖分取引移行後の昭和63年(1988)より高糖性品種が大幅に導入されたが、北海道農業試験場とオランダ・バンデルハーベ社との共同育種で育成された品種「モノホマレ」も同時に導入され、普及のピークの平成2年(1990)には27%に達した。「モノホマレ」の糖分は他の高糖性品種より劣ったが耐湿性が最も優り黒根病に強く、平成6年頃まで栽培された。皮肉なことに栽培を止めた平成7年以降、道内各地で黒根病の多発が目立つようになる。
その後、平成4年(1992)頃より糖量型の「メロディー」が普及し始め、「ハミング」、「サラ」等多くの糖量型が相次いで普及され、これら糖量型と従来の糖分型に加えて、更に糖分型と糖量型の中間的タイプ、あるいは「モノホマレ」より多収の根重型品種など多くの種類の品種が登場し、平成10年(1998)には14種類の品種が栽培された。なお、糖量型品種が増加したのは、現行の原料価格体系では糖量が多いと収益が向上し、高い糖量を得るには、収量がやや低い糖分型品種より、収量がやや高い糖量型品種の方が有利であることに起因する。また、糖量型品種の導入により、劣悪な条件下ではない年度では、高い産糖量が得られた。
平成2年(1990)・3年にそう根病抵抗性品種「エマ」、「リゾール」、「リゾホート」が登場したが作付割合は低かった。その後、収量性が改善されたそう根病抵抗性品種「シュベルト」(平成10年)、「モリーノ」(平成11年)、「きたさやか」(平成13年)が登場する。
褐斑病抵抗性品種「導入2号」の作付は昭和40年で終わり、その後欧州系多収型の罹病性品種が栽培されるようになるが、昭和57年(1982)に北海道農業試験場育成の国産品種「モノヒカリ」が認定され、58年以降道南地方を中心に普及された。ピーク時の昭和62年には全道の10%に作付され、糖分取引直後の高歩留に貢献した。「モノヒカリ」は「導入2号」よりやや弱いが褐斑病抵抗性があり、黒根病・そう根病にもやや抵抗性があり、かつ、非糖分が少なく製糖性が優れ品質は極めて良好等優れた特性を備えていたが、抽苔耐性が弱いこと、特に発芽不良が不評を招き作付は減少した。以降、北海道のテンサイは平成13年褐斑病抵抗性品種「スタウト」が現れるまで罹病性品種のみの栽培となる。
褐斑病防除薬剤のスズ剤が平成2年(1990)使用禁止となり、平成3年よりマンゼブ剤が使用されるようになる。新殺菌剤のDMI剤ピリフェノックスが平成元年、次いで平成5年ジフェノコナゾール、平成7年シプロコナゾール、平成10年(1998)にはホクガードが登場し、現在、DMI剤ではジフェノコナゾール、ホクガードが主に使用されている。なお、ホクガードは褐斑病防除効果が高いのみならず、増収効果あるいは糖分向上効果が得られた試験例が道内やイタリーで見られている。
葉腐病の防除には初めはTPTA、TPN等が使用されていたが、防除効果は低く効果的防除薬剤の出現が望まれていた。昭和57年(1982)に防除効果の高いメプロニルが登場し、更に防除効果の良好なペンシクロンが61年、62年にはフルトラニル、63年にトルクロホスメチルが現れる。
根腐病防除薬剤は初めPCNB粉剤が使用されたが、昭和50年(1975)からTPNまたはPCNB水和剤の200l/10aの株元散布による防除が行なわれるようになり、次いで59年(1984)にはメプロニル剤、62年にはペンシクロン・トルクロホスメチル等が登場した。平成元年(1989)には、移植栽培においてペンシクロンの定植前苗床灌注により根腐病防除を行なう方法が開発された。この方法は、従来の本圃株元散布の散布水量が200l/10aと多く、散布作業効率が低く普及が限られていたのにくらべ、極めて省力的に防除が可能となり、移植栽培で広く普及しており、現在はトリクロホスメチルも使われている。
そう根病菌に汚染されている育苗土を消毒するには、殺線虫剤のD-Dが用いられてきたが、平成2年(1990)新たに登場したダゾメット剤はD-D以上の防除効果を示し作業性も優るため、育苗土消毒の他にテンサイ育苗用ビニールハウスの床表面土壌の消毒にも用いられた。
殺菌剤に劣らず、当時の合成化学の進歩は目覚ましく、多くの殺虫剤が主にヨトウガを対象として開発され、昭和60年(1985)には有機リン・合成ピレスロイドのジメトエート・フェンバレレート、次いでエトフェンプロックス・フルシトリネート等多くの合成ピレスロイド剤が多数現れ、平成元年(1989)にはIGRのクロルフルアズロンが登場し、現在テンサイ害虫に適用されている薬剤は約30種類に及んでいる。それぞれの薬剤の使用方法・特長・価格を十分把握し薬剤を選択、使用することが必要である。
萎黄病は昭和30年代から見られ、昭和40年代前半および昭和50年(1975)には発生が多く、当時、増加が懸念されたが、その後の増加は見られなかった。しかし、平成元年(1989)頃より石狩・後志などに発生が目立ち、平成3年(1991)、伊達市およびその周辺で突然多発し、特に伊達市で激発し著しい被害を及ぼした。しかし、他の地区には多発は見られず、十勝管内の一部の畑でごく僅か見られたが、網走管内にはほとんど見られず、多発は伊達市周辺に限定された。なお、当時発生の萎黄病の病原は西部萎黄病(Beet western yellow virus)であることが確認されている。伊達市およびその周辺では定植前イミダクロプリド苗床灌注により防除を行なって発生を抑え、現在はほとんど発生は見られない。他の地区ではイミダクロプリドによる防除は行なわれなかったが、その後増加は見られず、現在はほとんど問題とされていない。
珍しい症状の病害としては、平成11・12年に見られた心腐病、平成6年に多かったひび割れテンサイがあるが、Erwinia菌に起因すると思われる心腐病は夏期が高温・多湿の時に多いが、高温でなくとも湿害時にしばしば軽い症状株は見られる。Rhizoctonia
solani によると推測されるひび割れテンサイは高温旱魃時に見られるが、R.solani による根腐病は発生時の土壌水分によって、典型的な地際部からの感染部位でない場合が見られる。
平成3年には、うどんこ病の発生が倶知安町などで見られた。本病はヨーロッパではポピュラーな重要病害の一つであるが道内では珍しく、温室では発生が見られたこともあるが屋外では見られていなかった。当時の発生はごく僅かで被害はほとんどなかった。なお、うどんこ病に対しては硫黄剤・DMI剤が効果的とされている。ナミハダニの発生が旱魃時に多く見られ、昭和52年(1977)・59年、最近では平成6年に発生が多かった。被害を抑えるには、葉の黄化が目立つ前の8月上旬頃に薬剤を予防的に散布する必要があるので、気象予報に注意し発生を予測する必要がある。ゴミムシ類により移植播種直後のペレット種子が食害された事例が平成7年(1995)喜茂別で見られた。しかし、その後発生は見られていない。
▲株元散布による根腐病防除(畦上散布機により根際部のみに散布)
▲西部萎黄病の全面発生
▲西部萎黄病特有の脈間黄化葉テンサイ
▲倶知安町に見られたうどんこ病
▲ナミハダニによる黄化
▲ゴミムシ類により食害されたペレット種子
▲ゴミムシ類成虫、体長約10~14㎜
▲黄化しているそう根病罹病性品種と健全なそう根病抵抗性品種
7.テンサイ生産・病害虫防除の現状と今後の対策
(1)現状
テンサイの作付面積は近年、7万ha前後で推移してきたが、農家戸数の減少・労働力不足・最近の低糖分による収益性低下等により今後の面積確保は厳しい状況にある。収量は昭和61年から平成12年の平均でha当り53.41t、買入糖分は同じく17.0%である。最近の品種の動向は、ごく最近までは種類が多かったが、現在はかなり集約され、現在の主要品種は糖量型の「アーベント」、「めぐみ」、「のぞみ」、「スコーネ」等である。現在の糖量型主体の品種構成が続くと今後とも収量はやや上向き、糖分は下向きに推移するものと思われる。道内畑作物の作付状況は第10表の通りで、昭和60年以降、麦類の増加、豆類・バレイショの減少が見られるが、テンサイはほとんど変わらず、昭和60年頃よりテンサイの輪作年次はほぼ安定しているが、場所によって小麦の連作、テンサイ・バレイショの交互作など短期輪作が行なわれている。最近、施肥量の漸増が見られているが(第9表)、これも品種と同じく増肥による高糖量が収益向上になるためである。
テンサイ生産量増加を図るため導入された移植栽培は他作物にくらべて作業労働時間が長く、全自動移植機など高性能機械導入等によって労働時間は減少傾向にはあるものの機械化の限界もあり減少程度は極めて低い。そのため、収益性は改善されず、テンサイ作付が不安定となる要因の一つになっている。このような低い収益性と労働力の減少・農業者の老齢化・後継者不足等により結果的にテンサイ栽培農家戸数は大幅に減少しつつあり、規模の拡大が進行しているが、大規模作付が限界に達する農家が増加すると作付面積は停滞して来る。
病害虫の被害は近年著しく、特に高温年の平成12年(2000)は同じ高温年の昭和53年(1978)に類似し、褐斑病・葉腐病の被害が著しかった。また、平成7年から黒根病を主体とする根腐症状テンサイの発生が多く、特に平成10・11・12年の低糖分をもたらした。
なお、根腐症状テンサイにはRhizoctonia菌による根腐病と、Aphanomyces 菌による黒根病が混在して主要病原となっているが、両病害とも高温条件下で発生が多いが、黒根病は多湿になるとさらに発病が助長される。最近は多湿気味の気象条件等のためからか、黒根病の発生はテンサイ栽培史上、かつてない程に多いと思われる。また、黒根病に対する薬剤防除は現在行なわれていない。最大の主要病害である褐斑病に対しては、ジマンダイセン・カスガマイシン・ホクガード等DMI剤等が耐性菌発生防止のため組合わされて使用されている。葉腐病の発生は気象によって大きく異なり、これまでの長い歴史の中でも多発した年度は昭和36・38・49・50・53年などと限られ、他の年度ではほとんど被害は見られなかったが、最近は、被害は少ないが発生が見られた平成6・8・10年、やや多発した平成7・11年、かなり多発した平成12年などと、発生は目立って多くなっている。そう根病の発生も平成12年にはやや多かったが、その他の年度では小康状態を保っている。
|
区分
|
作付面積(ha)
|
作付比率(%)
|
||
|
昭和60年
|
平成12年
|
昭和60年
|
平成12年
|
|
|
麦類
|
98,400
|
106,639
|
23.1
|
25.8
|
|
豆類
|
80,696
|
57,500
|
28.9
|
13.9
|
|
テンサイ
|
72,500
|
69,200
|
17.0
|
16.7
|
|
バレイショ
|
75,900
|
59,100
|
17.8
|
14.3
|
|
合計
|
327,496
|
292,439
|
-
|
-
|
|
普通耕地畑
|
426,400
|
413,700
|
100
|
100
|
資料:農林水産省「作物統計」
(注)作付比率=作付面積/普通耕地畑(%)▲第10表 北海道畑作物の作付状況
(2)今後の対策
テンサイ生産の収益性改善を図るには、現行移植栽培における労働時間の短縮・重労働改善を図る必要がある。また、最近の直播栽培は栽培技術が改善されてきており(たとえば、単胚ペレット種子による無間引栽培、播種機性能向上、殺虫殺菌剤混入ペレット種子による発芽向上・病害虫防除、作条混和・狭畦栽培による増収、除草剤の効果向上など)、省力栽培が可能なので、直播の導入を積極的に行なうべきである。そのためには、生育期間延長の効果を発揮できるような早生型品種の開発および更なる病害虫防除効果が得られるペレット種子加工技術の向上が期待される。
しかし、現時点では、一般的に直播栽培では移植栽培に比べて病害虫に対して抵抗力は劣るので注意する必要がある。なお、直播用として求められる早生型品種は根重型ないし糖量型となる可能性があり、これを移植に用いるとさらに産糖量は増加するので使用に亜当たっては注意する必要がある。
輪作は近年、安定的に保たれているが、今後さらに作付大規模化が進むと輪作体系は崩れる可能性があり、地力向上のためにも緑肥作物を導入し現状以上の短期輪作化防止に努める必要がある。
産糖量増加が必ずしも現在のテンサイ産業に好ましいとはいえない状況から、今後の品種は現在の糖量型よりはやや糖分型が望ましいと思われるが、これに先立って糖分重視の原料価格体系の検討が施肥量低減のためにも必要である。なお、今後、糖分が高いのみならず、非糖分の少ない製糖性の優れた高品質型品種・テンサイが望まれる。また、湿害に伴う黒根病による収益性低下が大きいので、耐湿性・耐病性を備えた品種が強く要望される。
明治以来発生が多く、テンサイ生産を左右してきた褐斑病に対し、紆余曲折を経て現在の防除方法に到りほぼ満足すべき防除技術が確立されたと思われていたが、平成12年、各地で褐斑病の多発を見た。多発の要因は夏期の記録的猛暑等気象条件であるが、平成12年と同じく夏期猛暑で多発した昭和53年はスズ剤の防除効果が不十分でスズ剤に耐性を持つ菌株の発生が認められたが、平成12年も昭和53年類似の薬剤散布効果が不十分な圃場が多く観察され、多くの圃場でDMIに対する感受性の低下した菌株の存在が認められた(2001工藤ら)。褐斑病は既にチオファネート・スズ・カスガマイシン等薬剤に対する耐性菌が見られており、褐斑病菌は薬剤耐性菌を作り易いと考えられ、DMI剤に対しても耐性菌発生の可能性があり、今後、新しい化学構造と作用機作を持った褐斑病防除薬剤の開発が切望される。平成13年に認定された褐斑病抵抗性品種「スタウト」は「モノヒカリ」より抵抗性は強く「導入2号」並で、慣行罹病性品種に比べて薬剤散布回数を1~2回程度減らすことが可能である(2001有田ら)。今後、安定的生産を得るための防除対策並びに薬剤経費節減のため、抵抗性品種の活用が必要である。
葉腐病は通常年では発生が少ないためほとんど専用薬剤による防除が行なわれないので、平成12年のように多発すると散布時期を逸して被害が著しくなる。つねづね天候予報に注意し、初期病斑の観察などの発生予察を行ない、防除の必要性・散布時期について判断する必要がある。
生産性に大きく影響する根腐症状テンサイのうち、主要病害である黒根病については、現在、北海道立十勝農業試験場で防除対策について検討されており、その成果が期待されている。根腐病に対しては、移植栽培の場合、定植前薬剤苗床灌注の実施を徹底する必要がある。
そう根病は近年増加の傾向は見られないが、潜在的にウイルスに汚染されている圃場が多いので、最近登場してきた「きたさやか」、「モリーノ」等収量を改善したタイプの抵抗性品種を活用すべきで、特に、そう根病が圃場のごく一部に発生する場合は、生産性の劣る従来の抵抗性品種に比べ減収しないので作付が奨められる。しかし、これら新しいタイプの抵抗性品種は糖分が低いので更に性能改善を期待したい。
重要病害の発生には当然警戒しなければならないが、通常年では発生の少ない病害虫の突発的発生、(たとえば昭和41年のテンサイモグリハナバエ、48年のマキバメクラガメ、平成3年の西部萎黄病など)に注意する必要がある。また、現在わが国では発生は見られていないが、海外では発生・被害が多い病害虫(たとえばシストセンチュウなど)にも注意が必要である。なお、最近話題となっている地球温暖化は、諸々のデータから推測すると着実に進行する可能性が高いと思われるので、将来は温暖化に伴う病害虫の多発について警戒する必要があろう。
わが国のテンサイ生産費コストを高くしている要因の一つに肥料・農薬等農業資材が海外に比べて使用量が多いことが挙げられる。欧米では殺虫殺菌剤のみならず除草剤も日本の1/5~1/10の散布水量で少量散布を行なっており、コスト低減となっている。北海道でも昭和50年代初めに少量散布試験が行なわれ、オルトラン3~10l/10a等が道指導参考になったが、残念ながら未登録に終わった。しかし、最近道内で再び試験が行なわれており、今後の実用化が期待される。また、オルトラン散布で良好な防除効果を示した、究極の少量散布である無人ヘリ散布はさらに省力的であり請負防除など今後の新しい防除体制での普及を期待したい。
▲根腐症状テンサイの全面発生(湿害と併発する場合が多い)
▲Rhizoctoniaによる根腐病
▲Rhizoctoniaによると推測されるひび割れテンサイ
▲Aphanomycesによる黒根病
▲Erwiniaによると推測される心腐病(軽度発生の場合は冠部にくぼみを生じる)
▲最近多く見られる病徴の根腐症状テンサイ
▲葉腐病
▲葉腐病の初期病斑
▲無人ヘリによる薬剤散布
▲最近多くなっている大型スプレーヤ
|
散布装置
|
散布量(l/10a)
|
発病度
|
防除価
|
|
慣行ブーム
|
25
|
33.9
|
62.2
|
|
スプレーヤ
|
50
|
23.2
|
74.1
|
|
慣行ブーム
|
25
|
37.6
|
58.0
|
|
スプレーヤ
|
50
|
25.3
|
71.7
|
|
慣行ブーム
|
100
|
35.7
|
60.1
|
|
スプレーヤ
|
|||
|
無散布
|
-
|
89.6
|
-
|
(注)薬剤は保護剤とDMI剤との組み合わせ
▲第11表 褐斑病に対する薬剤少量散布の防除効果
(1999、道立十勝農業試験場)
|
区分
|
希釈倍数(散布水量)
|
食害程度
|
||
|
散布4日後
|
散布10日後
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散布18日後
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オルトラン水和剤
(無人ヘリ散布区) |
16倍
(16l/ha) |
2.9
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2.5
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5.8
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オルトラン水和剤
(地上散布区) |
1,000倍
(1,000l/ha) |
5.4
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10.4
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8.8
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無処理区
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-
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13.8
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26.3
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35.4
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(注)散布 6/26
▲第12表 無人ヘリ散布によるオルトランのヨトウガに対する防除効果
(2000、北海道病害虫防除所)
8.おわりに
砂糖消費低迷に伴う輸入粗糖減少等により糖価安定制度の運用が難しくなり、平成12年10月、長く続いた糖安法から「砂糖の価格調整に関する法律」に変わり、施行されることになった。その中で、最低生産者価格はテンサイの再生産を確保できるように定めるとされたが、本法律に先立って平成11年7月に制定された「食糧・農業・農村基本法」の中では食糧自給率向上および市場原理重視の理念が明示されており、今後の原料価格の上昇は期待できず生産農家の収益向上はかなり難しい状況にある。一方、異性化糖や新人工甘味料の出現とその需要増加・安価な海外の加糖調製品輸入増加およびわが国特有の現象の低甘味嗜好等により砂糖需要は大幅に減少し、糖価は低迷・原料糖は増加し、テンサイ糖企業の経営は悪化している。この砂糖需要を妨げている人工甘味料・加糖調製品輸入・低甘味嗜好は今後更に増える可能性があり、砂糖需要の回復は期待できない。このような厳しい情勢から北海道テンサイ糖業は製糖コスト削減を図るとともに需要動向に応じた生産を図る必要があるとされ、工場の在り方につても論じられるようになってきた。
テンサイは北海道畑作農業の基幹的輪作作物として不可欠であり、今後も栽培を継続しなければならない作物であるが、現在、生産されるテンサイ糖の内外価格差は約2倍強もあり、如何にコストを下げるかが、大きな命題となっている。コスト低減に向けて多くの分野で懸命に努力されているが、病害虫防除の観点からいえば、収益性に大きく影響する褐斑病・根腐症状テンサイに対し、徹底した対策を講じる必要があり、更に一層のコスト低減に向けて、耐病性を備えた高品質品種の開発・防除効果が高く安価な新農薬の開発・高性能散布機械の開発・効率的防除技術の開発と普及等について、関係者が一丸となり総力を挙げて取組む必要があると考える。
(元 北海道てん菜協会)
参考文献
甜菜の知識(簑島眞一郎)
甜菜(細川定治)
北海道の甜菜生産と糖業に関する「覚書」(斎藤高宏)
てん菜及びさとうきびの価格等をめぐる事情(農林水産省)
北海道病害虫防除提要(北海道植物防疫協会)
てん菜研究会報(甘味資源振興会)
てん菜試験成績(北海道糖業株式会社)
Compendium of Beet Diseases and Insects (The American Phytopathological
Society)
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