チャは、年数回摘採を行なうために新芽が繰り返し生育し、病害虫発生には極めて好条件下にある。したがって、経営安定を図るためには、防除は欠くことの出来ない重要な管理作業である。
しかしながら、農薬使用を巡る環境は益々厳しくなっており、また、チャは毎日口にする嗜好飲料であることから、農薬散布に対しては細かい気配りが必要である。
鹿児島県では、1990年(平成2年)から「顆粒病ウイルス散布」を基幹とした総合防除体系を推進し、‘クリーンな’チャづくりに努めてきた。
本稿では、鹿児島県における防除の現状および問題点について述べ、参考に供したい。
1.鹿児島県における防除の現状
(1)基本的考え方
過去においては、良質チャ生産を追求するあまり、安易に農薬(化学的農薬)を使いがちであった。その結果、病害虫の多様化、耐性菌・抵抗性害虫の出現、潜在害虫の害虫化、散布回数の増加などの悪循環を招いたと思われる。
この反省に立って、鹿児島県における防除の基本は「経済的な被害を及ぼさない程度に病害虫発生を抑制する」とし、過度な防除や、無駄な防除は慎むこととしている。
(2)病害虫のランク付け
農家は、実害を及ぼさないにも関わらず過敏に反応し、安心防除やスケジュール防除をしがちである。これは、病害虫の生態を熟知していないことから生ずるもので、我々指導機関が農家への伝達を怠ってきたツケであるともいえる。かといって放置しておいては、減農薬は進まない。そこで、鹿児島県では、発生や被害の程度に応じた病害虫のランク付けを行なうよう指導している。一例を第1表に示した。
ランク
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発生および被害状況
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該当病害虫名
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防除暦上の
位置づけ
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A
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恒常的に発生し、
被害が大きい |
カンザワハダニ、チャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイ、ハマキムシ類、チャノホソガ、炭疽病、新梢枯死症 |
基幹防除
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B
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年や地域により発生し
被害が大きい |
クワシロカイガラムシ、ヨモギエダシャク、
輪斑病、赤焼病 |
補完防除
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C
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発生は少ないが、
被害が目立つこともある |
ウスミドリカスミカメ、ハスモンヨトウ、
網もち病、もち病 |
臨機防除
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▲第1表 病害虫のランク付け
(3)防除暦の作成
防除暦は防除の基本型である。過去においては、被害を恐れるあまり、13~14回の防除期が設定されていた。現在は、病害虫のランク付けに応じた暦が作成されており、防除回数は7回程度に削減されている。したがって、地区の防除暦を見る限り、鹿児島県においては50%減農薬が達成されている。
(4)実際の防除に当たって
減農薬推進のためには、発生予察および被害予測が不可欠である。防除する前に、病害の場合は、発生源となる摘採残葉や成葉にどの程度発病しているのか?害虫の場合は、たたき落とし法等によって、チャ園にどの虫が、どのステージ(齢)で、どの程度(発生量)いるのか?調査を行なう。ちなみに、チャ害虫の要防除密度を第2表に示したので参考にされたい。
害虫名
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調査時期および密度
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チャノコカクモンハマキ |
1世代誘殺数400頭(※1)以上
またはピーク時の誘殺数200頭以上 |
チャハマキ |
同上 |
チャノホソガ |
開葉直前から摘採10日前までの誘殺数50頭以上 |
カンザワハダニ |
3月上旬の密度 1葉当り0.1頭以上(卵・幼虫・成虫)
(=寄生葉率2%以上) |
チャノキイロアザミウマ |
摘採後10日間の補虫数 500~1,000頭以上(※2) |
チャノミドリヒメヨコバイ |
萌芽期前スィーピング50回振り(5m)10頭以上 |
クワシロカイガラムシ |
第三世代の雄虫数の最盛期6日の平均が100頭以上(※3) |
▲第2表 茶害虫の要防除密度
(注)
1.本表は、昭和57年武田薬品工業株式会社発行「茶樹の害虫とその防除」から引用した。
2. (※1)寄生蜂の活動状況によってさらに判断を加える。
(※2)吸引粘着トラップ。
(※3)吸引粘着トラップ、寄生蜂の寄生率が50%以上なら防除は必要ない。
次に、現在の生育状況を基に摘採までの期間を計算する。一番茶では5日、二・三番茶では3~4日で新葉が1枚開葉するので、これを指標とする。
そして、発生予察と生育状況調査結果から、被害程度を予測し、防除の要否を判定するのである。これらの調査は、農薬選定の際、特に使用基準を守るためにも重要である。
(5)天敵にやさしい農薬の選定
チャ園には多種多数の天敵が存在することから、天敵への影響が大きい薬剤の使用は避けた方が望ましい。鹿児島県では、1990年からカンザワハダニの天敵であるケナガカブリダニに影響の少ない薬剤(第3表)を選択使用する天敵保護防除体系を推進した。その結果、年間5回程度要したカンザワハダニの防除回数は2~3回に削減でき、発生量もさほど問題にならなくなった。
種類
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薬剤名
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殺虫剤
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DDVP乳剤、BPR乳剤、ブプロフェジン水和剤、ブプロフェジンフロアブル、
クロルフルアズロン乳剤、フルフェノクスロン乳剤、ジフルベンズロン水和剤、
BT剤、酸化フェンブタスズ水和剤、クロフェンテジンフロアブル、
ヘキシチアゾクス+DDVPフロアブル |
殺菌剤
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カスガマイシン銅水和剤、塩基性塩化銅水和剤、水酸化第二銅水和剤、
TPNフロアブル、チオファネートメチル水和剤、トリアジメホン水和剤、
フルアジナム、イミノクタジン酢酸塩+塩基性塩化銅水和剤 |
▲第3表 ケナガカブリダニに及ぼす影響が小さい薬剤一覧表
2.今後の問題点
(1)幼木園・更新園における効率的な防除体系の確立
鹿児島県では、現在も年に数100haのチャ園が新・改植されている。また、チャ園は4~5年間隔で中切り(切り戻し)更新を行なう。これらのチャ園では、一般成木園に比べ、新芽生育期間が長いことから、防除が難しい。しかしながら、現在の防除体系は一般成木園を対象に作成されているため適合性が低く、成園化が遅れたり、更新効果を十分発揮できない例も見られる。したがって、経営の安定・向上を図る上で重要な問題であり、もっと研究に力を注ぐ必要がある。
(2)地球温暖化の影響?に伴う病害虫発生状況の変化
近年、病害虫の発生パターンが変化しているように感ずる。カンザワハダニの冬期休眠率が低下していたり、チャノキイロアザミウマやチャノミドリヒメヨコバイの春期立ち上がりが早かったり、全般的に活動期間が長くなっているように思われる。また、輪斑病は、生育適温が25~32℃であり、夏期の病害であると認識されている。しかし、本年、輪斑病が一番茶摘採後から多発する茶園が見られ、問題となっている。これは、昨年(2000年)の秋整枝時期(10月中・下旬)の気温が平年よりも2~3℃高く、平均気温で23℃前後あったため、例年であれば発生しない輪斑病が、秋整枝後に発生したことによる思われる。この結果、輪斑病菌の越冬密度が高くなり、一番茶以降、枝枯れ・新梢枯死・輪斑症状が多発したものと思われる。特に、枝枯れ症状は第1図に見られるように、ダメージが大きく、樹勢の低下等が懸念される。
これらが地球温暖化の影響とは即断できないが、今後、従来の防除法では対応しきれない事態を生ずる可能性もあり、早期対応が望まれる。
(3)無農薬栽培技術に関する研究
農薬に対する誤解等から、消費者の‘安心・安全なお茶’を求める声が高まり、無農薬栽培に関する研究に取り組まざるを得ない状況になりつつある。
無農薬栽培では、一番茶はなんとか生産できるものの、二番茶以降は病害虫の発生が多くなるため、非常に生産が不安定になる。当場でも無農薬栽培チャ園を設けているが、一般防除園に比べ、チャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイ、チャノホソガ、ミノガ類、チャドクガ、炭疽病、輪斑病の発生が多い傾向にある。特にチャノミドリヒメヨコバイは、新芽のほとんどに寄生し、三番茶の摘採が不可能になることもある。また、現地では、ミノガ類が秋以降㎡当り50頭以上発生し、ひどく荒廃した例もある。
考えられる方法としては、二番茶摘採後に深刈り等を行ない、葉層をなくすことによって発生源を断つ耕種的防除法があるが、三番茶を摘採できないことから、収益性の低下は免れない。また、耐病性・耐虫性の強い品種に改植する方法は、新たな育成費用の支出となるため、規模の小さい農家では難がある。
以上のように、現在の収量・品質を維持できる無農薬栽培技術の確立は、非常に難しく対応に苦慮しているところである。
▲枝枯れ、輪斑症状発生状況
(鹿児島県茶業試験場) |