アリスタIPM通信 天敵利用を中心とした花卉類のIPMプログラムの紹介
 
 
天敵利用を中心とした花卉類のIPMプログラムの紹介
 
花卉類栽培は作物、品種が多くて多岐にわたりますが、美しい花を栽培していくためには、多くの微小害虫や病害の防除が大変な作業であり、農薬や肥料を多用していく傾向にあります。このため、微小害虫の抵抗性の発達が著しく早く、さらに防除回数が多くなるため悪循環に陥ることになります。

このような状況下で国際的にも花卉生産の問題を解決するため「環境認証制度(MPS)」や「エコファーマー」の取得などで生産者が自らその基準に適合した栽培システムの構築を積極的に進めていく方向にあります。

私たちも、これまでの野菜類で確立してきたIPMプログラムを花卉生産に応用することで、より効果的で、省力的な病害虫プログラムを作り出すよう推進しているところです。今回は、昨年までに実施したいくつかのIPM実証試験結果をご紹介します。

(注:スワルスキーカブリダニ剤は、現在 「花卉類・観葉植物/アザミウマ類」に対する適用拡大申請を行なっており、現時点では花卉類に対して未登録です。本稿におけるスワルスキーカブリダニ剤の実証とプログラムでの利用可能性は、公的研究機関と実施した試験研究に基づいております。)

 
 
1. IPMプログラムを進めている作物
天敵、特にカブリダニを利用したIPMプログラムのメリットは、放飼後順調に密度増加して定着させることが出来るので、栽培期間中を通じて薬剤による防除回数を削減でき、省力化が期待できることです。このメリットを生かせる作物や栽培条件として以下の点が挙げられます。

(1)コナジラミ類、アザミウマ類、ハダニ類、チャノホコリダニが問題害虫となっており、さらに薬剤抵抗性が発達している作物や地域

(2)花卉類のうちその栽培期間が少なくとも半年以上になるような作物
このため、現在実証試験を進めているのは、カーネーション、ガーベラ、トルコギキョウ、バラ等です。このほかにも上記の条件に合う花卉類の作物もありますが、それらは今後進めていく予定にしています。
 
 
 
2. 基本的な技術(防虫ネットとホリバー)
IPMプログラムを実施するに当って外部からの害虫の侵入抑制、害虫の発生モニタリングや誘殺のために、必ず防虫ネットと有色粘着板ホリバー(黄色、青色)の設置を実施してください。防虫ネットは、栽培や作業に支障のない限りなるべく目合いの小さなものが適しています。
近年上市されたスリムホワイト30という光反射シートを織り込んだ製品は、目合いが大きく風通しが良い上に、アザミウマ等微小害虫の侵入抑制効果があります。
ホリバーの設置は誘殺を目的として使用してください。
  基本的な技術(防虫ネットとホリバー)
使用量は10a当り100枚~200枚が適当です。花卉類生産現場でのホリバーの設置は野菜類に比べて吊り下げにくいですが、現場に適した工夫をしていただくと効果が歴然と現れます。
 
 
3.カーネーション
カーネーションでは、いくつかの害虫が発生しますがハダニ類とアザミウマ類が主要害虫としてIPMプログラムの対象となります。使用する天敵、微生物農薬とIPMプログラムの概要は、以下のとおりです。
改植後に利用する
天敵と薬剤
1. スパイカルEX、スパイデックス、影響のない殺ダニ剤(ハダニ防除)
2. マイコタール、選択性殺虫剤(アザミウマ防除)
3. 選択性殺虫剤(その他の害虫)
4. 天敵に影響の少ない殺菌剤(茎葉病害)
IPMプログラム手順 1. 改植(6月頃)後、3ヶ月目からスパイカルEX、スパイデックスを同時放飼する。(ハダニ発生に応じ天敵に影響のない殺ダニ剤も利用可能)
2. 1~12月にスパイデックスの追加放飼
3. マイコタールと選択性殺虫剤の混用で適宜アザミウマ防除
4. 3月にスパイカルEX、スパイデックスを同時放飼
 
天敵利用を中心とした花卉類のIPMプログラムの紹介

左の図は、2010年度 (社)全国農業改良普及支援協会システム化研究会IPM実証調査における兵庫県北淡路農業改良普及センターで実施された試験結果です。

   
実証(IPM)区では9月上旬にスパイカルEX,10月中旬にスパイデックスを放飼しています(赤色矢印)。 また、黄色矢印は慣行(対照)区の薬剤防除、水色矢印は実証(IPM)区での薬剤防除です。

8月下旬から殺ダニ剤で低密度にした状態で天敵(スパイカルEX)放飼を行い、10月中旬にスパイデックスの追加放飼を行なった実証(IPM)区で長期間ハダニを低密度に抑えることが出来ました。慣行(対照)に比べて防除回数も軽減されています。イチゴにおけるIPMプログラムのように天敵の初期放飼にスパイカルEXとスパイデックスを同時放飼することでその後の影響のない薬剤によるレスキュー防除の回数も削減されると考え、現在は同時防除を推奨しています。

 
 
4.ガーベラ
ガーベラでは、ハダニ類とコナジラミ類、アザミウマ類に対して天敵を利用すること、ハモグリバエやその他の害虫に対しては影響のない薬剤を利用します。ガーベラでは、IPMプログラムの確立に向けて2年間の栽培期間での実証試験を行なっています。使用する天敵、微生物農薬とIPMプログラムの概要は、以下のとおりです。
改植後に利用する
天敵と薬剤
1. スワルスキーによるアザミウマ類、コナジラミ類の防除
2. スパイカルEX、スパイデックス、影響のない殺ダニ剤(ハダニ防除)
3. 選択性殺虫剤(その他の害虫)
4. 天敵に影響の少ない殺菌剤(茎葉病害)
IPMプログラム手順
1年目
1. 改植(5月頃)後、2ヶ月目からアザミウマ類、コナジラミ類の防除にはスワルスキーを、ハダニ防除にはスパイカルEXとスパイデックスの同時放飼を行なう。
2. 9月中旬~10月にスワルスキーとスパイカルEXを追加放飼
3. その他の害虫は適宜影響のない殺虫剤を利用する
2年目 1. 3月にスワルスキーとスパイカルEXを同時放飼する。
2. 9月中旬~10月にスワルスキーとスパイカルEXを追加放飼
3. その他の害虫は適宜影響のない殺虫剤を利用する
 
 
 
5.トルコギキョウ
トルコギキョウでは、秋口と春に発生するコナジラミ類とアザミウマ類の防除を目的として実証試験を行なっています。これは、この時期に発生するコナジラミやアザミウマが媒介するウィルス病の発症を抑制する目的も含まれています。
改植後に利用する
天敵と薬剤
1. スワルスキーによるアザミウマ類、コナジラミ類の防除と選択性殺虫剤を併用する
2. 選択性殺虫剤(その他の害虫)
3. 天敵に影響の少ない殺菌剤(茎葉病害)
IPMプログラム手順
1. 春からのアザミウマ類、コナジラミ類の防除のため、スワルスキーを3月中旬~4月上旬に放飼する。秋放飼では9月中旬~10月上旬に放飼する。
2. その他の害虫は適宜影響のない殺虫剤を利用する
 
天敵利用を中心とした花卉類のIPMプログラムの紹介
 
熊本における春放飼での実証試験※ではスワルスキー葉上放飼後、数回の選択性殺虫剤の散布でコナジラミ、アザミウマの密度を抑えることが出来ました。コナジラミは、慣行区で初期密度が高く、以降も密度抑制ができなかったものの、IPM区では、ハウスの一部に密度の高い部分があったものの、増殖は抑制されました。アザミウマは、慣行区で初期密度が低かったが、調査後期には開始時の26倍と激増しました。IPM区では、初期密度(放飼1週後)がかなり高かったものの、総合防除により調査後期には低密度になりました。
※熊本県農業技術課農業技術支援室、天草地域振興局農業普及・振興課で実施
 
 
 
6.その他の作物
バラ栽培においてもスパイカルEX、スパイデックスを用いてハダニ類の防除がうまくいきつつあります。まだ、マニュアルとして紹介できるだけの資料は揃っておりませんが、基本的にはカーネーションで示しましたプログラムを参考にして頂きたいと思います。
その他の作物に関しても、機会があるごとにIPM実証試験を実施して技術確立に向けて活動しております。ご紹介できるようになればまた報告させていただきます。
 
 
 
※2011年4月28日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。