アリスタ通信 技術と普及 11月号 一部転載 「世界の生物農薬ビジネスの動向について」
 
 
技術と普及 11月号 一部転載 「世界の生物農薬ビジネスの動向について」
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
NPPプロダクトマネージャー 田中 栄嗣

はじめに
世界の農業が大きく変わろうとしている。アメリカ合衆国は、2020年2月に 「農業イノベーションアジェンダ (Agriculture Innovation Agenda)」 を発表し、目標として2050年までに農業生産量の40%増加と、エコロジカル・フットプリント50%削減を同時に達成することを掲げている。また、欧州連合(EU)は、2020年5月に 「Farm to Fork (農場から食卓まで) 戦略」 を発表し、目標として2030年までに化学農薬の使⽤量とリスクを50%削減および全農地の少なくとも25%を有機農業とするための開発促進が掲げられている。
日本においても、2021年5月に農林水産省が主導し、「みどりの食料システム戦略」を策定し、目標として低リスク農薬での転換、総合的病害虫・雑草管理体系の確立・普及に加え、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬などの開発により化学農薬の使用量 (リスク換算) を50%低減、耕作面積に占める有機農業の取組面積の割合25% (100ha) を掲げている。これらミッションを成し遂げることは容易ではなく、投資に見合う価値の創出と様々な技術革新が必要とされており、その中でも重要になるものが生物農薬を利用した総合的病害虫・雑草管理技術の確立と考える。
アリスタ ライフイエンス株式会社 (以下、アリスタと称する) は、旧トーメン(現 豊田通商)の時代1992年にオランダ・ロッテルダムに本社を置くコパート社 (天敵・マルハナバチでは世界トップのシェアを誇る昆虫・微生物製造の専業メーカー) と提携を開始し、日本国内において生物農薬ビジネスに着手した。1995年3月にスパイデックス (チリカブリダニ剤)、エンストリップ (オンシツツヤコバチ剤) が天敵殺虫剤として登録されて以降、現在、天敵殺虫剤(13製品)、微生物殺虫殺菌剤(1製品)、微生物殺虫剤(4製品)、微生物殺菌剤(1製品)、物理的害虫捕獲資材(ホリバー)、受粉資材(マルハナバチ3製品) のポートフォリオを管理し、生物農薬事業の拡大に向け、事業を継続している。
本文は、世界の生物農薬ビジネスの動向、生物農薬ビジネスの更なる発展および今後農業が大きく変化する上で生物農薬ビジネスが貢献していくための必要な技術革新について、アリスタの30年以上の生物農薬ビジネス経験を踏まえ、情報をまとめたものである。

I. 生物農薬ビジネスの動向
生物農薬市場規模をさがしてみると様々な数字が報告されている。特に近年バイオスティミュラントに位置づけられる製品が上市され、生物資材ビジネスの規模や幅が大きくなる一方で、統一性のある数字を把握することが難しくなっている状況である。はじめに、農業資材と利用されている生物資材をカテゴリーに分け整理した上 (図-1)で、世界の生物農薬市場の動向を調べてみた。
図-1は、生物資材をカテゴリー別に分け整理した図である。植物生育管理で用いる資材と農薬に位置づけられる病害虫・雑草管理で用いられる資材の大きな二つのカテゴリーに分けられる。今回の生物農薬ビジネスの動向は、図-1の右側 「病害虫・雑草管理」 に分類される 「バイオ農薬」 および 「天敵農薬」 に焦点を当てた構成である。本文では、「バイオ農薬」 および 「天敵農薬」 を 「生物農薬」 と総称で呼ぶことにした。なお、日本においては、天然物由来成分の農薬を生物資材と呼ぶかは疑問であるが、海外では生物資材として位置付けており、海外のビジネスを見ていく上で、本認識は必要である。

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生物農薬市場は、近年15 年間において主要国で着実に成長しており、特に直近5年間の成長は著しい。主要国の多くでは、各国において生物農薬事業に取り組んでいる企業によって協議会が発足されている(図-2)。 なお、世界の生物農薬市場の80%は、9か国に構成されており、今回報告する定量的な分析は、以下の主要国の情報を参考したものである。

<主要国>
アメリカ合衆国、カナダ、ブラジル連邦共和国、メキシコ合衆国、アルゼンチン共和国、フランス共和国、スペイン王国、イタリア共和国、ドイツ連邦共和国、オランダ王国、中華人民共和国、インド、日本、オーストリア共和国、南アフリカ共和国

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アメリカ
・Biological Products Industry Alliance (BPIA)
・Association of Natural Biocontrol (ANBP)
コロンビア
・Colombia Association of Biological Control Companies (AsoBioCol)
ブラジル
・Brazilian Association of Biological Control Companies (ABCBio)
ヨーロッパ
・International Biocontrol Manufactures Association (IBMA)
南アフリカ
・South Africa Bioproduct Organization (SABO)
インド
・Pesticides Manufactures and Formulators Association of India (PMFAI)
日本
・日本生物防除部会 (JBCA)
国際連盟
・BioProtection Global (BPG)

表-1は、生物農薬市場規模を製品カテゴリー別に2015年からの推移、2025年までの予測を表したものである。カテゴリーは、微生物農薬、天然物由来成分  (アザジラクチン、ピレトリン、シトラスオイルなどを含む)、天敵農薬、その他に分けられる。市場成長率は、16.5%  (CAGR 2015-2025) と予測され、更なる成長が期待されている。
その中でも微生物農薬市場への期待は高く、成長率は17.3% (CAGR 2015-2025) と予測されている。冒頭に述べた通り、アメリカやEUが主導し、世界的に減農薬に向けた施策が立案される中、Bacillus thuringiensis を有効成分とする殺虫剤やBacillus spp. を有効成分とする微生物殺菌剤が市場を牽引し、成長が期待されている。天敵農薬市場は、カブリダニを含む捕食性昆虫を有効成分とした製品がカテゴリー内で最も割合が大きく、昆虫病原性線虫市場が大きく成長している。なお、天敵農薬メーカーの多くは、受粉昆虫資材マルハナバチの生産、供給を行ており、天敵農薬の市場の中に含まれていることもある。

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表-2は、生物農薬市場規模を地域別に2015年からの推移、2025年までの予測を表したものである。データの対象となった全ての地域において、成長率は16% (CAGR2015-2025) を越えており、ラテンアメリカにおいては、17.9%と高い成長が予測されている。その中でもブラジルは、生物農薬制度の規制緩和や農場内での微生物増殖が推進されており、果樹類や野菜類以外の畑作でも生物農薬の利用機会が増えることが期待されている。なお、アジア太平洋地域は、各国で生物農薬登録制度が大きく異なり、最も生物農薬市場へのアプローチが多様化していると言える。

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表-3は、生物農薬市場規模を使用方法別に2015年からの推移、2025年までの予測を表したものである。市場の約50%は茎葉処理剤、約35%土壌処理剤が市場を占有している。種子処理市場は10%以下ではあるが、成長率は18.3% (CAGR 2015-2025) と高く、大きな成長が期待されている。種子処理剤市場をエリア別でみるとアメリカ/カナダが最大の市場であるが、近年ラテンアメリカにおいて、畑作を含め生物農薬の普及が進んでおり、種子処理剤市場での成長率が20% (CAGR 2015-2025) を越えると予測されている。

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表-4は、生物農薬市場規模を作物別に2015年からの推移、2025年までの予測を表したものである。市場の約76%は、Fruits & Vegetablesが占有している。一方、Row crops & CerealsおよびSeed treatment市場の成長は、Fruits & Vegetablesより早く、2025年のRow crops & CerealsおよびSeed treatment合計の占有率は、市場全体の20%程度になる見込みである。なお、Non-cropには、衛生害虫、森林、工業での使用を目的とした剤、Othersは、大麻、コーヒー、タバコでの使用を目的とした剤が含まれる。

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おわりに
世界の生物農薬市場の成長率は、16.5% (CAGR 2015-2025) と予測され、更なる成長が期待されている中、日本の生物農薬市場を見ると、ここ数年ほぼ横這いとなっている。その理由としては、微生物農薬市場の低迷が挙げられる。BT剤はほぼ横這い、微生物殺菌剤市場に関しては、いくつかの剤が製造中止したこともあり、縮小している状況である。「みどりの食料システム戦略」 の目標として掲げられている 「2050年までに化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減を目指す。」 を達成するために必要な技術として、「新規生物農薬」の技術開発が含まれるおり、微生物殺虫剤/殺菌剤やバクテリオファージを用いた殺菌剤、生物農薬をより安定・効果的に利用するための総合的病害虫・雑草管理技術、補助資材の開発が重要になると考える。また、冒頭にも述べた通り、これら投資に見合う農産物の価値および市場の創出が必要である。日本を含め農業先進国は、同じ方向を向いて進んでいる今、化学農薬のみに依存しない総合的な病害虫管理体系が基幹体系になることに強く期待し、UPLグループ※1を含めアリスタは、生物農薬事業が農業ビジネスにおいて大きく貢献できる様、製品・技術開発と普及に引き続き注力する。

※1:アリスタ ライフサイエンス株式会社は、インドに本社を持つ農薬メーカーであるUPLグループの一員です。

引用文献
DunhamTrimmer®s’ Global Biocontorl Report 2019
食品安全委員会: https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu01380080333 
HortiDaily.com 2021: https://www.hortidaily.com/article/9281782/new-rearing-method-allows-for-better-production-predatory-mite/ 
RocketReach: https://rocketreach.co/koppert-biological-systems-rofile_b5c78bb4f42e0d7f
Companyweb: https://www.companyweb.be/en/0893948337/biobest-group
Bizzy: https://bizzy.org/en/be/0893948337/biobest-group/financials

 
 
※2023年12月15日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。