はじめに
世界の農業が大きく変わろうとしている。アメリカ合衆国は、2020年2月に 「農業イノベーションアジェンダ (Agriculture
Innovation Agenda)」 を発表し、目標として2050年までに農業生産量の40%増加と、エコロジカル・フットプリント50%削減を同時に達成することを掲げている。また、欧州連合(EU)は、2020年5月に
「Farm to Fork (農場から食卓まで) 戦略」 を発表し、目標として2030年までに化学農薬の使⽤量とリスクを50%削減および全農地の少なくとも25%を有機農業とするための開発促進が掲げられている。
日本においても、2021年5月に農林水産省が主導し、「みどりの食料システム戦略」を策定し、目標として低リスク農薬での転換、総合的病害虫・雑草管理体系の確立・普及に加え、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬などの開発により化学農薬の使用量
(リスク換算) を50%低減、耕作面積に占める有機農業の取組面積の割合25% (100ha) を掲げている。これらミッションを成し遂げることは容易ではなく、投資に見合う価値の創出と様々な技術革新が必要とされており、その中でも重要になるものが生物農薬を利用した総合的病害虫・雑草管理技術の確立と考える。
アリスタ ライフイエンス株式会社 (以下、アリスタと称する) は、旧トーメン(現 豊田通商)の時代1992年にオランダ・ロッテルダムに本社を置くコパート社
(天敵・マルハナバチでは世界トップのシェアを誇る昆虫・微生物製造の専業メーカー) と提携を開始し、日本国内において生物農薬ビジネスに着手した。1995年3月にスパイデックス
(チリカブリダニ剤)、エンストリップ (オンシツツヤコバチ剤) が天敵殺虫剤として登録されて以降、現在、天敵殺虫剤(13製品)、微生物殺虫殺菌剤(1製品)、微生物殺虫剤(4製品)、微生物殺菌剤(1製品)、物理的害虫捕獲資材(ホリバー)、受粉資材(マルハナバチ3製品)
のポートフォリオを管理し、生物農薬事業の拡大に向け、事業を継続している。
本文は、世界の生物農薬ビジネスの動向、生物農薬ビジネスの更なる発展および今後農業が大きく変化する上で生物農薬ビジネスが貢献していくための必要な技術革新について、アリスタの30年以上の生物農薬ビジネス経験を踏まえ、情報をまとめたものである。
I. 生物農薬ビジネスの動向
生物農薬市場規模をさがしてみると様々な数字が報告されている。特に近年バイオスティミュラントに位置づけられる製品が上市され、生物資材ビジネスの規模や幅が大きくなる一方で、統一性のある数字を把握することが難しくなっている状況である。はじめに、農業資材と利用されている生物資材をカテゴリーに分け整理した上
(図-1)で、世界の生物農薬市場の動向を調べてみた。
図-1は、生物資材をカテゴリー別に分け整理した図である。植物生育管理で用いる資材と農薬に位置づけられる病害虫・雑草管理で用いられる資材の大きな二つのカテゴリーに分けられる。今回の生物農薬ビジネスの動向は、図-1の右側
「病害虫・雑草管理」 に分類される 「バイオ農薬」 および 「天敵農薬」 に焦点を当てた構成である。本文では、「バイオ農薬」
および 「天敵農薬」 を 「生物農薬」 と総称で呼ぶことにした。なお、日本においては、天然物由来成分の農薬を生物資材と呼ぶかは疑問であるが、海外では生物資材として位置付けており、海外のビジネスを見ていく上で、本認識は必要である。