アリスタ通信 タマネギ・葉ネギにおけるネギアザミウマに対する各種薬剤の殺虫効果
 
 
タマネギ・葉ネギにおけるネギアザミウマに対する各種薬剤の殺虫効果
 
兵庫県立農林水産技術総合センター
冨原 工弥

兵庫県では秋播き春穫りのタマネギの生産が盛んに行われており、2021年度の生産面積は1,600ha  (全国3位)、出荷量は78,700t (全国2位) という国内有数の生産地となっています (農林水産省、2022)。

2020年春、県内のタマネギ産地 (以下、同産地)において、葉が急速に枯れ込む症状 (図1左) が見られ、広域に発生が認められました。兵庫県病害虫防除所で調査を行ったところ、ネギアザミウマ (図2) が媒介するアイリス黄斑ウイルス(Iris yellow spot virus: 以下、IYSVと略記) によるタマネギえそ条斑病 (図1右) であることがわかりました。

また、同産地において近年、作付けが増加している、周年栽培の葉ネギ圃場においても、ネギアザミウマの食害による収穫物の品質低下が問題となっており、ネギえそ条斑病による被害も多く発生していました。
タマネギ・葉ネギにおけるネギアザミウマに対する各種薬剤の殺虫効果

IYSVの感染拡大を防ぐためには、タマネギ、葉ネギ含め、地域全体でネギアザミウマの密度を低く抑える必要があります。しかし、同産地における、各薬剤のネギアザミウマに対する殺虫効果は10年以上調査されていなかったため、プロチオホス乳剤 (商品名:トクチオン乳剤) やアセフェート水和剤 (商品名:オルトラン水和剤) を含め、近年、使用されている主な薬剤の殺虫効果は不明でした。そこで、タマネギ、葉ネギ栽培の現地指導に供することを目的に、ネギアザミウマ雌成虫に対する各薬剤の殺虫効果を調査しました。

2021年4月中旬から5月上旬にかけて、同産地内のタマネギ圃場6地区からネギアザミウマを採集しました。そのうち3地区(地区①~③) については、同一地区内に葉ネギ圃場が混在しており、採集を行ったタマネギ圃場と近接する圃場から採集を行いました。
殺虫効果の評価は、柴尾 (2013) に準じて、インゲンマメ葉片を用いた食餌浸漬法と容器内部に供試薬液を処理するドライフィルム法を組み合わせて行い、採集した当代または次世代を供試虫としました。

各薬剤の殺虫効果は次ページの表の通りとなりました (冨原・田中、2022)。
全地区で補正死虫率が90%以上の殺虫効果を示した薬剤は、プロチオホス乳剤 (トクチオン乳剤)、アセフェート水和剤 (オルトラン水和剤※注)、フルキサメタミド乳剤およびフロメトキン水和剤の計4剤でした。

※注 オルトラン水和剤は、2023年6月現在、「ねぎ」での作物登録はないため、使用しないこと。


一方、合成ピレスロイド系のA乳剤 (IRACコード: 3A)、ネオニコチノイド系のB水溶剤 (同: 4A)、スピノシン系のC水和剤 (同: 5) は、殺虫効果に地区間で差が認められました。特にタマネギ圃場と葉ネギ圃場が混在する地区 (地区①~③) では、両作物ともに殺虫効果が低くなりました。

また、若干のばらつきはありますが、同一地区内のタマネギと葉ネギ圃場における3剤の補正死虫率は同程度となる傾向が認められました。その要因として、両作物間をネギアザミウマが行き来することにより、各圃場における殺虫効果に影響を与えたことが考えられました。

タマネギ・葉ネギにおけるネギアザミウマに対する各種薬剤の殺虫効果


殺虫効果が低い薬剤が認められた要因の1つとして、各地区での殺虫剤の散布履歴がネギアザミウマに対する殺虫効果に影響を与えた可能性が考えられます。これら3剤は、同産地では、タマネギ以外の農作物でも広く使用されており、特に葉ネギ圃場においては、多様な作型に利用されているため、周年で淘汰圧が高くなっていた可能性があります。全ての地区で検証した訳ではありませんが、今回採集を実施した圃場においても、これらの薬剤の使用頻度が高かったことが確認されています。

また、生殖様式が違うネギアザミウマが、殺虫効果に影響を与えている可能性も考えられます。1990年以降、日本国内では、在来の産雌性単為生殖系統 (産雌性系統)とは異なる生殖型の産雄性単為生殖系統(産雄性系統)が確認されています (三浦ら、2013)。産雄性系統を含む個体群では、合成ピレスロイド剤をはじめとする殺虫剤に対する感受性が低い傾向を示すことが報告されています  (柴尾・田中、2012他)。同産地でも2010年に産雄性系統が認められており (二井、未発表)、今回の調査でもその存在が認められました  (冨原、未発表)。産雄性系統の構成比率が変化したことで、薬剤感受性が変化した可能性がありますが、詳細は不明であるため、今後は生殖型の構成割合の調査を行い、殺虫効果との関連性についても明らかにする必要があります。

以上のように、一部の薬剤については、殺虫効果が低い地区が認められましたが、プロチオホス乳剤(トクチオン乳剤)  やアセフェート水和剤 (オルトラン水和剤) は、いずれの地区においても高い殺虫効果を示しました。本結果を現地普及センターやJAと共有し、防除暦の改変等による防除指導を行うことで、地域全体でのネギアザミウマの密度抑制に取り組んでいます。

殺虫効果が高い薬剤を継続的に使用するためにも、今後も各薬剤の殺虫効果のモニタリングを継続し、薬剤抵抗性管理の視点に基づいた総合防除体系の構築に取り組んでいきます。

【参考文献】
・ 三浦一芸・十川和士・渡邊丈夫・伊藤政雄(2013) 植物防疫 67:662-665.
・ 農林水産省(2022)「令和4年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量」
・ 柴尾 学(2013) 植物防疫 67:248-251.
・ 柴尾 学・田中 寛(2012) 関西病虫研報 54:185-186.
・ 冨原工弥・田中雅也(2022) 関西病虫研報 64:147-150.

 
※2023年8月8日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。