<海外ニュース> ニュージーランドのハイテクのイチゴ栽培稼働か?
ニュージーランドでは、年間を通じて、農薬散布の必要のない栽培が可能になりつつあります。これは、同国の一次産業省
(MPI) のプロジェクトで、持続可能かつ生産性の高い栽培技術の革新によってもたらされるようです。
イチゴが収穫できる期間が非常に短いのですが、環境コントロールできる閉鎖的環境での水耕栽培において、移動可能な垂直型の栽培方法とパルス型ライティングにより、農薬の散布が必要でなくなります。現在首都のウェリントンにて、スモールスケールのパイロット閉鎖施設で1000株のイチゴを育成中とのこと。今後8000株から20万株のスケールに拡大予定。この閉鎖環境での栽培では、90%以上の水を節約し、栽培する面積も従来の十分の一で8ヶ月間生産を実現できる予定
(ホーティデイリー誌より)。
(訳者注: どうやって農薬散布をなくすことができるのか、閉鎖環境でも灰色カビ病などは発生するので、疑義は残ります。日本でも閉鎖環境での栽培研究は多くなされていますが、太陽光利用型に比べ、優位性がある施設はまだないようです。エネルギー効率としても、太陽光を使わないことにはクエスチョンマークがつくところです。)
<IPM随想録> 天敵、農薬、微生物、バイオスティミュラント
IPMと食料生産の関係
言うまでもありませんが、人間の食料の原料は、主に植物です。牛や、豚も鶏も、その餌はコーンなどや、牧草などの植物によって育っているわけです。魚は違うというご意見もあるかもしれませんが、プランクトンなどから始まる魚類の生活環は、プランクトンを育てる大地からの植物の残渣などが河川から海に流れ出ていく栄養分に多くを頼っています。
もっと広く言えば、植物が光合成を行って酸素を供給してくれるわけですが、海洋の藻類、プランクトンからの酸素の生産の多くは、植物とつながっているわけです。
前置きが長くなりましたが、IPM(総合的病害虫防除=総合的作物保護=Integrated Pest Management)とは、人間にとって重要な植物や、その一部である作物を病気や、害虫や雑草から守るために20世紀に生まれたメソッド、つまり戦術です。
IPMと天敵と農薬の関係
IPMというと、一般的に、農薬の使用を反対視する考え方 と思う方々も多いかもしれません。でも、実はそういうことではないのです。20世紀依頼、世界のこの大量な食料生産を下支えしているのは、化学農薬であることに間違いはありません。化学農薬なくして、世界の人口を維持することは、きわめて困難と考えられます。もちろん、品種改良、栽培技術の進歩、物理的な病害虫雑草防除、バイオスティミュラントなども貢献していることは確かです。そのような様々な手段のなかで、化学農薬に頼るだけでなく、天敵昆虫や、微生物農薬などの、20世紀には、さほど使われてこなかったバイオロジカルコントロール、つまり、生物的防除も取り入れて、病害虫防除をしていきましょう、というのが、IPMの考え方の発端です。化学農薬はIPMでの重要な手段、道具であることを忘れてはいけません。
IPMは最初、アメリカのカリフォルニア州にあるカリフォルニア大学のリバーサイド校の研究者であるポール・デバック博士によって提唱されました。1974年に出版された
「バイオロジカルコントロール」 という著書がIPMの聖書のように世界の研究者のあいだで読まれたのです。当初は主に、野外のオレンジの害虫防除での天敵昆虫利用について研究がなされていました。
ということは、IPMが提唱されてからまだ50年程度しかたっていないという事実にも驚きますが、この考え方は、アメリカからヨーロッパにも伝わり、そして日本にも、同時期に伝わり、各県の農業試験場などでは、チリカブリダニを増殖して、農家に配布するというような事業も行われました。
ただそれは、全国的に、一般的な技術とはならず、オランダの天敵増殖技術に基づいた大量増殖が可能になった1980年代後半になって、オランダとイギリスなどでのハウス栽培でのオンシツツヤコバチの利用などでだんだんと普及してきたのです。
ちなみに、オンシツツヤコバチはイギリスで最初に研究されてから実用化が始まったとのことです。
現在日本は、ヨーロッパ各国に続く、天敵利用の盛んな国になっていることはご承知の通りですが、特に、海外は日本ほど、ハウスでのイチゴ栽培などは盛んでなく、イチゴでの天敵利用は、日本が世界で一番進んでいるといいう現実は日本人が、IPM技術を理解していることを示しているといえるのではないでしょうか?
今後日本では、野外での果樹、野菜類でのIPMへの利用がより盛んになる可能性があります。そのためには、更なる技術革新が引き続き必要になるでしょう。
(IPM研究家 和田 哲夫)