岩手県の春まきタマネギ栽培では、ネギアザミウマThrips tabaciによる葉身への激しい食害により（図1）、収量が2割～4割低下し、腐敗球が増加します（横田・福田，2016）。腐敗球は外見による識別が困難であることが多いため、市場に出回る腐敗球の増加により産地としての信頼が低下する恐れがあります。
このため、商品収量を最大化し、産地としての信頼性を低下させないためには10～15 日間隔で殺虫剤を散布する必要があります（横田ら，2019）。

図1　ネギアザミウマによる被害（葉枯れ）		図2　タマネギにおけるネギアザミウマの寄生（中心部を開いて撮影）

 

タマネギにおけるネギアザミウマの生息部位は芯葉であり（図2）、薬剤が虫体には直接かかりにくい場所です。このため、ネギアザミウマに対する各殺虫剤の効果が他品目とは異なり、適切な薬剤選択が重要となります。そこで、2013～2019年に岩手県で実施した7事例の試験成績を元に各種殺虫剤の防除効果について再評価を行ったところ、プロチオホス乳剤（トクチオン乳剤）の高い効果が認められましたので（横田ら、2020）、今回御紹介いたします。

試験は岩手県農業研究センター県北農業研究所 （軽米町：2013～2016年、2018年） ならびに岩手県農業研究センター （北上市：2019年）で行いました。いずれの年もタマネギを4月20日前後に定植しました。薬剤は実用濃度の殺虫剤に展着剤（ミックスパワー） を加用（3,000 倍） して散布しました。殺虫剤はアセフェート水和剤（オルトラン水和剤） 1,000倍、クロルピリホス乳剤 1,000倍、プロチオホス乳剤（トクチオン乳剤） 1,000倍、シペルメトリン乳剤 2,000倍、トラロメトリン水和剤 2,000倍・3,000倍、シハロトリン・ジフルベンズロン水和剤 1,500倍、アセタミプリド水溶剤 2,000倍、イミダクロプリド水和剤 5,000倍、スピネトラム水和剤 2,500倍・5,000倍、チオシクラム水和剤 1,500倍、カルタップ水溶剤 1,500倍、シアントラニリプロール水和剤 2,000倍、フルキサメタミド乳剤 2,000倍・3,000倍、フロメトキン水和剤 1,000倍・2,000倍、ピリフルキナゾン水和剤 2,000倍の計15剤を供試しました。なお、試験地ではネギアザミウマの産雄単為生殖系統は確認されていません。

試験例として、2019年の試験結果を表１に示します。防除効果を散布14日後の補正密度指数で判定したところ、プロチオホス乳剤（トクチオン乳剤） 1,000倍の補正密度指数は6となり、最も高い効果を示しました。

 

次に、各種殺虫剤の効果を「◎」（散布6～15日後の補正密度指数0～10）　・「〇」（同11～30）　 ・「△」（同30以上）　に分類し、それらの試験評価数を元に、「◎」・「〇」・「△」　の総合評価を行ったものを表2に示します。

 

その結果、総合評価「◎」だったのはプロチオホス乳剤（トクチオン乳剤） 1,000倍とフロメトキン水和
1,000倍でした。フルキサメタミド乳剤 2,000倍、同 3,000倍、スピネトラム水和剤 2,500倍、クロルピリホ
ス乳剤 1,000倍、フロメトキン水和剤 2,000倍はそれらに次ぐ効果 「〇」 を示しました。それに対して、ア
セタミプリド水溶剤（顆粒水溶剤）、イミダクロプリド水和剤、チオシクラム水和剤、カルタップ水溶剤、ピリフ
ルキナゾン水和剤の防除効果は 「△」評価となりました。各種殺虫剤の防除効果は大きく異なることがわ
かるかと思います。
春まきタマネギ栽培では5月から7月にかけてネギアザミウマが急増するため、プロチオホス乳剤（トクチオン乳剤）を中心とした効果の高い殺虫剤の活用が不可欠です。また、薬剤散布時には機能性展着剤を加用することも重要です。適切な殺虫剤の使用によりネギアザミウマ被害を抑え、腐敗の少ない高品質のタマネギが安定的に生産されることを願っています。

引用文献
・ 横田啓・福田拓斗（2016）岩手県のタマネギ春まき作型におけるネギアザミウマ被害実態と有効薬剤　北日本病害虫研究会報. 67, 154-158.
・ 横田啓・熊谷初美・福田拓斗・荻内謙吾（2019）岩手県の春まきタマネギ栽培におけるネギアザミウマの適切な殺虫剤散布間隔．北日本病害虫研究会報．70，152―157．
・ 横田啓・熊谷初美・佐々木達史（2020）春まきタマネギ栽培のネギアザミウマに対する各種殺虫剤の評価．北日本病害虫研究会報．71，210．

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