アリスタ通信 「トリコデソイル」 を併用したビワ白紋羽病の温水治療技術
 
 
「トリコデソイル」 を併用したビワ白紋羽病の温水治療技術
 
千葉県農林水産部担い手支援課
専門普及指導室 髙橋 真秀

はじめに
白紋羽病は、糸状菌の病原菌である白紋羽病菌が果樹の根に寄生することにより、樹を衰弱、枯死させる難防除病害として知られている。千葉県内のナシ・ビワ産地では、近年、老木から若木への改植が進められているが、本病による若木の枯死が現地では散見される。ナシ白紋羽病に対する環境低負荷型の対策技術として、白紋羽病菌が熱に弱いことを利用した温水治療技術が開発されている。同技術は、50℃の温水を白紋羽病罹病樹の株元に点滴処理し、地下30㎝の地温が35℃に達するまで、もしくは地下10㎝の地温が45℃に達するまで処理を行う。これにより、地温を白紋羽病菌が死滅する35℃以上かつ、ナシの根が耐えられる45℃以下に1~2日間維持することができる(江口ら、2009)。一方、ビワはナシと比較し温水熱への耐性が低く、50℃温水を用いた点滴処理では、障害が出ることがあった。そのため、従来よりも低温の45℃温水を用いた点滴処理による治療技術が開発されたが、温水熱による死滅効果が低下することが懸念された。そこで、温水治療効果を向上させる手法について検討し、土壌改良資材 「トリコデソイル」を併用する方法を開発したので報告する。

温水治療の効果には、土壌中の拮抗菌も関与していた
過去のナシを対象とした温水治療の事例において、処理後、罹病根とその周辺土壌に拮抗菌のトリコデルマ属菌が増殖する様子が観察された(中村,2013)。また、Takahashi and Nakamura(2020)は、室内評価モデル 「爪楊枝法」 を用いて、白紋羽病の温水治療による殺菌効果には、温水だけではなく、土壌中の拮抗菌も寄与していることを明らかにした。また、同時に爪楊枝法を用いて土壌微生物が有する白紋羽病を抑止する力(白紋羽病抑止性)を評価できることを明らかにした。

土壌の白紋羽病抑止性を向上させる市販のトリコデルマ含有資材の選択
Takahashi and Nakamura(2020)の結果から、あらかじめ土壌中の白紋羽病菌に対する拮抗菌を増強することで温水治療の効果が向上する可能性が示された。そこで、Takahashi, et al.(2020)は、国内で入手可能な市販のトリコデルマ含有資材3種を供試し、爪楊枝法により、資材混和土壌の白紋羽病抑止性を評価した。その結果、トリコデソイル混和土壌の白紋羽病抑止性程度が最も高かった(図1)。

「トリコデソイル」 を併用したビワ白紋羽病の温水治療技術
次に、白紋羽病抑止性程度が最も高かったトリコデソイルについて、その効果が持続する期間を調査した。7月に果樹園(黒ボク土)にて、土壌表面を約5cm耕起し、トリコデソイル(2000倍希釈液)を1㎡の処理範囲にジョーロで4.4L灌注した。対照区は同様に耕起し、水を4.4L灌注した。施用から1日後、1週間後、1ヶ月後に土壌を採取し、白紋羽病抑止性程度を評価したところ、施用1日後から1週間後までは、対照区よりも有意に高い抑止性を維持したが、施用1ヶ月には、対照区と同程度となった(Takahashi et al. 2020)。これより、トリコデソイルは温水治療を実施する1週間前から前日に施用することが望ましいと考えられた。

圃場試験によるトリコデルマ資材と温水点滴処理の併用効果の検証
温水点滴処理前のトリコデソイル施用がビワ白紋羽病の温水治療効果に与える影響を検証した。まず、3年生ビワ実生苗を圃場に定植し、同時に根の地下30㎝の位置に白紋羽病菌培養枝片を5個接種した。接種から1ヶ月経過後、実生苗を中心とした1.5m×1.5mの範囲 (温水点滴処理の点滴チューブの設置予定箇所、2.25㎡)の地表面を5cm耕起し、トリコデソイル(2000倍希釈液)を10L灌注した。温水治療は、トリコデソイル施用から1~2日後に実施した。温水治療には、白紋羽病治療用温水点滴処理機EB-1000(エムケー精工株式会社)を用いて、45℃温水を地下30㎝の地温が32℃になるまで点滴を行った。その結果、トリコデソイルを施用した場合は、施用しなかった場合と比較し、根部の発病程度が有意に低くなった(表1)。これより、トリコデソイルを併用することによって温水治療の効果が向上することが明らかになった。なお、温水点滴処理を行わなかった場合は、トリコデソイル施用による発病程度の低下は認められなかった(Takahashi et al. 2020)。

「トリコデソイル」 を併用したビワ白紋羽病の温水治療技術

おわりに
弱熱耐性果樹であるビワ、オウトウ、モモを対象とした45℃の温水を用いた温水治療の手順は、「白紋羽病 温水治療マニュアル 2018年速報版」 として農研機構のホームページに掲載されている。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/080205.html
前述の圃場試験では、45℃温水を地下30㎝の地温が32℃になるまで点滴を行ったが、マニュアルでは、治療効果を安定させるために35℃に到達するまで点滴処理を行うこととしている。治療効果が安定しない場合には、今回紹介したトリコデソイルを併用することにより治療効果の向上が期待できる。本報が、白紋羽病に悩まされている果樹産地の課題解決に役立てられれば幸いである。
「トリコデソイル」 を併用したビワ白紋羽病の温水治療技術
引用文献
江口直樹ら(2009).温水点滴処理によるナシ白紋羽病罹病樹の治療.植物防疫 63:127~130.
中村仁(2013).温水治療技術の概要と展望.植物防疫 67:463~467.
Takahashi, M. and Nakamura, H.(2020). Toothpick method to evaluate soil antagonism against the white root rot fungus, Rosellinia necatrix. J. Gen. Plant Pathol. 86:55~59.
Takahashi, M et al.(2020). Selection of Trichoderma products to enhance the control of loquat white root rot by hot water drip irrigation. J. Gen. Plant Pathol. 86:419~422.



※2022年5月16日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。