はじめに
栃木県のスプレーギク産地では、3年ほど前から秋彼岸向けの作型においてキク萎凋病が疑われる病害が増加していました。しかし、既知のキク萎凋病と比較して病徴が激しく、発病株率も高いことから、親株が栽培されている海外圃場からの新たな萎凋病レースの侵入が疑われていました。
このようなフザリウム属菌による萎凋・枯死症状は、愛知県などのキクの主産地でも同様に発生しており、対応策が課題となっていました。
県では蒸気消毒を中心にこの病害の防除対策について検討を続けていますが、同時にバイオスティミュラント資材である 「トリコデソイル(有用微生物入り土壌改良材)」
の補完的な利用方法についても目を向けています。今回、県の農業革新支援専門員、普及指導員と協力してこれらの検証をスタートしました。
スプレーギク生産の現状と問題点
スプレーギクは連棟ハウスで栽培され、年間を通して切れ目なく出荷できるように数ベッドずつ定植(挿し穂)するので、同一ハウス内に異なる栽培ステージのキクが管理されています。
そのため、栽培後の土壌消毒にはクロルピクリン等のガス化する資材を使用することができず、一般的にボイラーとキャンバスホースを用いた蒸気消毒が行われています。
キャンバスホースを用いた蒸気消毒は土壌深部までは熱が伝わりにくく、2時間以上の処理が推奨されていますが、それでも地表下10cm以下では消毒効果が期待できません。加えて、燃料価格が高騰する中、処理時間を短縮する生産者も少なくありません。
また、産地では10年以上連作されているハウスも多く、塩類集積や線虫等の対策も課題となっています。
病原菌の特定
県農業革新支援専門員により、発病株から病原菌が分離、同定されました。発病株から検出されたのは、一般的なキク萎凋病の病原であるFusarium
oxysporumではなく、F. solani でした。このことから栃木県内で増加している萎凋・枯死の原因の一つが、キクフザリウム立枯病であることが明らかになりました。
病原菌の特長と対策
様々な作物の土壌病害の病原菌であるフザリウム属菌は、根に傷があると感染しやすくなります。今回キクから検出されたF.
solani はキク萎凋病の病原であるF. oxysporumと比較すると侵入力が弱いと言われていますが、乾湿ストレスや塩類集積による根の障害、線虫による食害等が、発病を助長します。
蒸気消毒では、土壌表面から10cm以下には効果が見込めないことから、土壌深部に病原菌や線虫が残存する可能性があります。また、蒸気消毒は、土壌中のアンモニア態窒素の増加や塩類集積の原因ともなります。
生産者からは 「病気の株を引っこ抜くとまわりの株も病気になる」 との声もありました。土壌中の菌密度を下げるためには、病株の除去は必要ですが、引き抜くことで絡み合った周囲の株の根を傷付け、発病を助長していると考えられます。
これらのことから、キクフザリウム立枯病の対策には、土壌消毒や殺菌剤の使用だけでなく、以下の複数の対策を組み合わせた総合的なアプローチが必要になります。