アリスタ通信 オルトランはなぜ使い続けられるのか?
 
 
オルトランはなぜ使い続けられるのか?
 
日本曹達株式会社
農林害虫防除研究会 「殺虫剤抵抗性対策タスクフォース」
山本 敦司 ・ 平田 晃一

はじめに
オルトランはアセフェートを有効成分とする有機リン系殺虫剤(IRACコード:1B)だ。日本では1973年に登録・販売され、これまで約50年間も日本の害虫防除に貢献して走り続けている。日本の殺虫剤のトップランナーの一つだ。有機リン剤が42剤ある中、売上は2022年現在でもトップの座を譲らない。オルトランへはその販売キャラクターにちなんで、グレートタイガーのニックネームを贈りたい。
そもそもどうして、このグレートタイガー「オルトラン」は走り続けられるのか?殺虫剤抵抗性問題がありながらもつまずかないのか?アリスタ  ライフサイエンス㈱さんとは別の会社で殺虫剤を研究し開発普及してきた私たちが、羨望を込めて気楽に考えてみた。

選択毒性へのイノベーション
有機リン系殺虫剤の登場は1950年代前半に遡る。パラチオンなどが水稲ウンカ類に高性能で農業生産に貢献したが、哺乳類への毒性が高いためやむなく登録が無くなった。ここで気づいて欲しい。オルトランの登場(登録販売)は、パラチオンなどの約20年後の世代だ。新しい世代の有機リン剤「オルトラン」は、哺乳類に対する低毒化、すなわち選択毒性を実現したのだ。この選択毒性へのイノベーション(技術革新)が時代のニーズに応え、走り始める原動力となった。

殺虫剤抵抗性の発達リスク
どんな殺虫剤であれ抵抗性発達のリスクは避けられない。それは殺虫剤を使う環境の中での害虫たちの適応現象(進化)だからだ。一方、抵抗性発達リスクが大きい薬剤と小さい薬剤があるのも事実。有機リン剤は抵抗性による効力低下の事例が多いので、抵抗性発達リスクの大きい薬剤グループに分類されている。一方、オルトランもコナガやアブラムシ類で抵抗性発達の事例があるが、近年ではオルトラン抵抗性害虫は騒がれていないようでもある。新世代の有機リン剤でもあり、これまでの有機リン剤とは異なり抵抗性発達リスクが低い特別なタイプかもしれない。それはどうしてか?考えてみたい。

オルトランは比較的単純な顔をしている
害虫たちは殺虫剤を処理されると、それを解毒分解して効かなくしようと体内の酵素を働かせる。一般的に、薬剤の解毒分解力が高まるのは、殺虫剤抵抗性のしくみの重要なポイントだ。一方、オルトランは化合物としてのサイズが小さく比較的単純な化学構造(いわゆる顔)である。すなわち、オルトランは害虫に解毒分解され難く、薬剤のカギ穴である作用点(アセチルコリンエステラーゼ)へ十分な量の有効成分が届いて効きやすい。そのために抵抗性発達が穏やかなのだろう。

オルトランの大特長: 植物体内に浸わたる
オルトランのもう一つの大特長。それは水に溶けやすく、処理された作物の体内でも比較的分解されないで拡散できること、すなわち浸透移行性という特長・イノベーション(技術革新)だ。葉への薬液散布や、粒剤の土壌処理では根からオルトランが作物へ取込まれる。そして、取込まれたオルトランは雨による流失や太陽光による分解から守られるので、防除効果も安定する。また、粒剤処理では害虫には効力を示すが、一般的に天敵類や有用昆虫への影響を軽減できる。オルトランが粒剤で土壌処理できることは、薬剤抵抗性対策に貢献する天敵類を保護する意味で、大きなメリットだろう。

オルトランは害虫に対して高濃度に保たれる
やや専門的な説明で小難しくなってきた。オルトランの害虫に対する圃場での使用濃度は、その害虫への基本的な最低限界濃度よりも、十分に高いのではないだろうか。すなわち、濃度に余裕があるということ。濃度に余裕があると、抵抗性がだんだんと発達している最中の害虫も叩くことができて薬剤抵抗性発達を遅らせることができる、と数理モデルのシミュレーションで予測されている。特に、オルトラン粒剤の土壌処理では有効成分が高濃度に保たれている可能性が高い。

1980年代以降に新しい系統の殺虫剤がでてきた
1980年代、日本の農薬企業は技術力をつけ、新しい効き方をする新タイプの殺虫剤を次々と開発する時代が来た。1973年に登録販売のオルトランにとっては競争相手の登場でヤバイ。しかし、逆転の発想をしよう。「これまでの同じ薬剤を一気に使い抵抗性発達でダメになってしまうよりも、違う系統の殺虫剤を組み合わせて薬剤ローテーションや混用で使えるようになった」と考え直してみる。競争相手ではなくパートナー(仲間)が増えた。これは「長い目で見て農家さんも農薬企業にとってもみんなが得をする」考え方で、薬剤抵抗性管理という。こうなると、オルトラン自身が持つ特長に加えて、薬剤の使い方もミスが少なくなるので、オルトランにとっても抵抗性対策を踏まえた害虫防除ができるようになる。

おわりに… これからも走り続けて欲しい!
今回、あらためてオルトランの特長などから、トップランナーでつまずかずに走り、抵抗性発達リスクが小さいことも考えてみた。全てが科学的根拠に基づいた説明とは言えないかも知れない。しかし、オルトランが約50年も使われ続けているコメントになれば嬉しい。
グレートタイガー、オルトラン! これからも走り続けて農業生産に貢献して欲しい。

(記:2022年1月)

※2022年2月2日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。