【これまでの梨生産における課題】
梨栽培において、一番課題となっていたことは「ハダニ防除」でした。都市部で農業を営まれているため、周りがビル等に囲まれ、気温が上がりやすいことが原因で、ダニ発生が多い地域です。ダニ防除剤の散布回数は1シーズンで多いときには10回以上行う年もありました。このような状況の中、白井様が課題として挙げられたことが
① 殺虫剤抵抗性の発達が懸念されること
② 圃場周辺が、住宅地に囲まれており、薬剤散布には近隣住民への配慮が必要
この2点でした。
上記課題を解決するために、2016年より、他地域の梨生産者からの紹介を受け、新たなダニ防除対策として、天敵(スパイカルプラス)を利用した取り組みがスタートしました。
【スパイカルプラス使用時期・量】
6月上旬 1樹あたり1~5個 (10a当たり140個使用)
スパイカルプラス使用前に、ダニ剤を散布し、ダニ密度を減らしておく。
天敵導入中も定期的に観察を行い、場合によっては、レスキュー的に天敵に影響が少ないダニ剤を散布する。
【スパイカルプラスを導入して】
・「一番大きかったことは、ダニ剤の散布回数が圧倒的に減ったことです。上手に使いこなせば、スパイカルプラス設置前2回と、設置後レスキュー防除として1回の計3回程度の防除で済んでしまう」
とのことでした。
・天敵導入前は、ダニ剤の効果が落ちないように、天候に気を遣いながら薬剤散布のタイミングを考える必要があり、また、薬剤散布した直後の降雨で散布をやり直しされることもあったそうです。しかし、今は降雨で多少薬剤の効果が落ちたとしても、天敵が圃場で働いてくれているという安心感があり、「防除に対して精神的に楽になった」
とのことでした。
・天敵を導入することで防除に関する労力が軽減でき、余裕ができたこともあって圃場をより観察できるようになったそうです。「圃場に行く回数が多くなり、天敵やダニの様子を観察しながら、対処方法を考え、楽しみながら梨生産ができるようになった」
と嬉しそうに語ってくださいました。
また、環境保全型農業に取り組みながら、消費者により安心な梨を届けることができるようになったことについても、とても喜んでおられました。
・ダニ防除の課題が解決できたので、これからは、カメムシ対策へ力を入れていきたいとのことです。実際に取り組まれていることとして、黄色LED灯を用いたカメムシの物理的防除など様々な工夫をされています。
・昨年の梨生産では、降雪の影響もあり、着果率が悪かったという新たな課題も出てきました。そこで、着果率の向上を目的に、今シーズンは、クロマルハナバチによる交配試験を実施される予定です(クロマルハナバチを受粉に用いることで、着果率の向上や果実の形がよくなるという成果が得られています)。
【まとめ】
・白井様に取り組んでいただいた、スパイカルプラスを用いたハダニ防除技術は、川崎市、横浜市に広がり、新たな防除技術として地域に定着しつつあります。同地区では、ハダニ防除が課題となっており、天敵を利用していただいた方々からは、白井様同様、「ハダニ防除が圧倒的に楽になった」
という声を伺っています。今後、更にスパイカルプラスを使用した技術が広まり、ダニ防除がより楽になる方々が増えることが期待されます。