施設のトマトやイチゴ等果菜類の受粉で利用されることが知られているマルハナバチですが、近年は施設オウトウ、モモ、多目的防災網を展張した日本ナシなどバラ科果樹での利用も見られるようになってきました。これらの作物では一部のミツバチあるいはマメコバチなどを利用されている圃場も見られますが、多くは人の手による
「人工授粉」 が主な受粉方法となっているようです。人工授粉の方が 「結実が安定する」 「果実の形が良好になる」
と記載されている技術指導書なども見られます。
人工授粉は高収量、高品質な作物を生産するために、労力を厭わない勤勉な日本の生産者の皆さんならではの技術と言えます。ただし、人工授粉に利用する花粉を自家採取するのに大変な労力がかかったり、輸入花粉の供給が不安定だったりという問題点があります。加えて、何よりもバラ科果樹の開花期間は短いため、短期間に集約して作業を行わなければなりません。
経営規模が大きい場合には、ご家族だけでなく周辺の生産者の方々の協力を得たり、一時的に雇用を必要とする場合もあります。またオウトウなど樹高がある場合には、高所での作業を伴う場合もあります。世界的には、施設、露地問わずバラ科の果樹を人工授粉している国は珍しいと考えられます。一生産者当たりの作付面積が大きいこともあるかとは思いますが、欧米のみならず中国、韓国などの近隣の国でも、バラ科果樹の受粉にはミツバチやマルハナバチが利用されることも少なくありません。
そこで、アリスタでは近年 在来種クロマルハナバチ製品 「ナチュポール・ブラック」 を用いて、施設のオウトウ、モモ、アンズ、ナシや多目的防災網を展張した露地のナシでの受粉効果を確認してきました。すると、受粉労力の削減だけではない効果や一方で課題となることも見つかってきましたので、少し紹介させていただこうと思います。
まず、結実率ですが 「人工授粉の方が結実は安定する」 という点についてはまったく問題がなく、クロマルハナバチで受粉しても結実率の低下や不安定さはまったくみられませんでした。
これまではミツバチとの比較において、上記のような評価がなされてきたことが不安定さの一因ではなかったかと考えられます。マルハナバチは低温
(6℃以上)、低照度 (曇天時や少雨時) でも活動します。そのため、好天さらに気温の上昇を伴わないと活動しないミツバチに比べて、極端な悪天でなければ、春の不安定な天候に左右されることなくマルハナバチは訪花活動できます。このことから、次頁図のように人工授粉と遜色のない、あるいはそれ以上の結実率が得られたものと考えられます。
また、果実の形状についてもデータを取ることができた日本ナシ (幸水) において、マルハナバチで受粉すると果実高が高くなり、人工授粉よりも円形に近づくことがわかりました。特に幸水は果実の横径が縦径よりも長い扁円型、つまり扁平のナシです。マルハナバチで受粉したことにより、この扁平傾向が解消され、丸い果実になることがわかってきました。その要因は現在調査中ですが、人工授粉に比べてマルハナバチが花を念入りに触れる物理的な刺激が、果実の肥大になんらかの影響を与えるのではないかと考えています。