熊本県のイチゴ作。県育成品種「ゆうべに」はじめ約320ha (全国第3位) 作付けされている。他県と同様、最大の害虫問題はハダニ対策であり、近年、天敵のミヤコカブリダニ
(以下 ミヤコ) 、チリカブリダニ(以下 チリ) を利用したハダニ防除技術が本県でも急速に普及定着してきた。
半信半疑の天敵防除 ~~マユツバではないか~~
天敵の利用が進んでいない地域で、JAや農家の皆さんに、ミヤコ・チリといった天敵を利用したハダニ防除について説明する。皆さんからは、異口同音に
「農薬を1週間に1回かけてもハダニを抑えることができない。0. 3mm程度の虫 (ミヤコ・チリ) を1万頭程度入れたところで防除できるもんか。」
と半信半疑の失笑の声が返ってくる。特に高齢農家の皆さんには、これまでハダニ防除に苦労し泣かされた経験からなおさらである。そこで、指導員や農家リーダーの皆さんに
「地域で一番ハダニに困っている農家を紹介いただき天敵を試してみましょう」 と実証展示圃の設置を提案する。
県の普及指導員やJA営農指導員の皆さんと濃密的な実証展示活動
実証展示活動は 「天敵防除技術」 普及活動の基本である。化学農薬防除だと、効果の有無を調査し結果となるが、天敵による防除だと、天敵の定着・増殖度、害虫密度や栽培環境などを、現地でつぶさに調査・観察し、その都度、天敵による防除効果を維持、向上させるか、その経過観察と判断が必要となる。とは言っても、ポイントつかめばそう難しいことでもない。利用する人の天敵に対する理解と信頼の持ち方が重要である。
当たり前のことであるが実証展示活動は、基本的に失敗は許されない。チリ・ミヤコが生存のために必死にハダニを捕食するのと同様、実証展示の取り組みも必至の努力が問われることになる。
失敗すれば 「ほれ見たことか」 と即ソッポを向かれ、ましてや失敗談の風評を取り除き再認識してもらうには相当の時間を要する。
関係機関とハダニ撲滅プロジェクト ~~平成30年作の取り組み事例から~~
JA指導員から、実証農家として 「ここ3年連続ナミハダニが多発し、3月下旬には収穫終了を余儀なくされている」
という農家を紹介いただき、普及センター、JAの指導員、生産農家の皆さんと共に 「ハダニ撲滅プロジェクト」に取り組んだ。
当社の 「イチゴ天敵利用カレンダー」 などを技術マニュアルとして、天敵利用技術や農薬の使用のしかたなどについて技術情報を共有化し、栽培期間中、2週間に1回、普及指導員、JA指導員と共に、農家立会いの下の合同観察調査を実施。
育苗期から天敵利用 ~~少しずつ天敵効果に気づいてくれる~~
熊本では、雨よけハウスでの育苗が中心で、4~5月の親株設置段階から、巡回したハウスの8割程度でハダニが見られた。もちろん、この農家も同様で、①育苗期にスーパ―ハダニ(農薬抵抗性のついたハダニ)を育てない。②定植時にハダニを持ち込まない。ことを目標に、5月の親株設置段階から、ミヤコ・チリを放飼し、2週間に1回の調査観察を実施。
本圃への定植後も、調査活動は続き、収穫が終わる5月まで調査観察するという足掛け1年の長丁場となった。普及指導員の皆さんと、①イチゴ60株の一複葉、一花、一果について害虫数、被害果数、病害の発生について調査、観察、記録
②農家でのこれまでの防除管理やこれからの農薬散布や栽培管理予定の聞き取り ③調査観察結果の農家への報告と今後の防除管理についての話し合い
などを毎回実施。また、ハダニが発生している場所には、テープや棒で目印をつけて、ハダニや天敵の発生消長を農家と共に確認しあうなどの工夫を行ってきた。
「今回の調査では、ハダニは見られません。2週間後まで殺虫剤の散布はしなくても良いのでは」 「ハダニが少し見られますが、ミヤコもチリもいますので様子を見ましょう」
とか 「ハダニが局所的に多いので気門封鎖剤をスポット的に散布しましょう」 などのアドバイスを関係指導者の皆さんと共に行う。でも、農家からすると殺虫剤の散布をしないことが心配で
「殺菌剤を散布するので殺ダニ剤を混用して予防的で散布したい」 と独断で散布されることもある。
予想以上の防除効果に実証農家も目から鱗・満面の笑みが
実証展示活動の結果、この圃場では、定植時にハダニの持ち込みもなく、天敵放飼前のゼロ放飼防除を徹底し、11月初旬にミヤコとチリを放飼、3月はじめにチリを追加放飼した。
この結果、15aのハウスで、12月中旬1ヶ所にハダニが発生、2月には、5カ所程度スポット的にハダニ発生場所が増えたが、特徴的なのは「そこからハダニが殆ど広がらず、増えもしないで完全に抑えられている」
これが天敵効果だということを理解いただいた。
天敵放飼後の殺ダニ剤の散布はどうだったかというと、収穫終了時まで、気門封鎖剤のスポット散布を含め3回程度で済み5月の連休まで予定どおり収穫でき
「収量は上がるし農薬散布作業からは解放される」 と前年まで、殺ダニ剤をかけてもかけても死なず、泣くに泣けない苦労を振り返りながら満面の笑みで感謝いただいた。
一戸の実証活動が部会ぐるみの天敵利用へ~~ハダニを年越しさせない~~
この地域では、他にも実証圃を設置し共に調査観察を行ってきたが 「天敵を放飼して、3月まで全くハダニの防除をしなかった」
など、全体的に天敵防除の効果が確認できた。
このような取り組みの中で、JAの指導員、普及指導員の皆さんも、天敵利用に自信をつけられ、他地域の取り組み状況等も情報収集しながら
「今年は県の補助事業を活用し、部会ぐるみで天敵を導入しよう」 とJAから提案がなされ、部会ぐるみで取り組むこととなっている。令和元年のイチゴ作も本格的に始まるが、とにかく
「天敵利用でハダニとヒラズハナアザミウマを年越しさせない」をモットーに気合を入れているところである。