アリスタ通信 バイオスティミュラントの作用の体系化に挑戦
 
 
バイオスティミュラントの作用の体系化に挑戦
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー 須藤 修


これまでの連載で、「バイオスティミュラントとは何か?」 をいろいろな角度から語ってきました。今回は一度それらを整理して、その作用を体系化することに挑戦したいと思います。

既に、海藻やアミノ酸や腐植酸などがバイオスティミュラントに当たるということは述べました。単独の資材の効果は、それぞれの資材提供メーカーが有用性を説いています。ところが、これらが植物にどのような作用を発揮しているかを系統的に説明している著作にはなかなか出会うことができません。バイオスティミュラントは植物の生理や土壌・根圏環境になんらかの有益な刺激を与えますが、その作用は多種多様です。

そのため、まずその作用の全容を体系的に整理しておくことは、実際の栽培場面において、いつどの資材を使ったらよいのか、どうすれば増収や品質改善が期待できるのかを理解する上で大変役に立つことでしょう。

バイオスティミュラントのベネフィットを4つに分類
まず、バイオスティミュラントに求められる便益を大きく4つのグループに分類しました。

① 植物の栄養吸収強化
② 生長刺激
③ 増収
④ 非生物的ストレスに対する抵抗性



① 植物の栄養吸収の強化

植物自体が常に良好な栄養状態であることは当然の事ながら必要です。しかし、ただ単に土壌に豊富な栄養素が存在していることは十分な条件とは言えません。即ちそれらの栄養素を植物が容易に吸収する環境が備わっているか、さらに植物自体が栄養素を吸収する力を備えているか、この2つが重要です。そのためには、不可給態の塩基性栄養分を可溶化し、栄養吸収に関する酵素の活性化を行うことが大切になります。また、水の吸収をスムーズに行うことも忘れてはなりません。イオン化して初めて吸収される元素は、いくら豊富に土壌中に存在しても水がなければ移動できません。カルシウムが豊富にある土壌でもトマトの尻腐れ症が起きるのはこのためです。


② 生長刺激

バイオスティミュラントの言葉は 「刺激する(stimulate)」 から来ています。植物がその生命活動を維持するためには、様々な生理活動が連続的に行われなければなりません。特に発芽と発根に影響する刺激は初期ステージにおいて大切です。根の初期発育はその後の生長の要になる一大イベントです。また、植物の根圏に生きる有用微生物との有益な関係性を構築させることは、バイオスティミュラントならではの効果です。次のステージでは健全な栄養生長が求められます。即ち光合成を効率的に行い、一次、二次同化産物をスムーズに生産することです。葉菜類では光合成がダイレクトに収量に影響します。果菜類や根菜類、果樹においても光合成の影響は大変重要です。植物は常に内因性の複数のホルモンのバランスによって、生長の質と量が変化しています。バイオスティミュラントの投与によりあるホルモンの生産が活性化される事実は、様々な研究で実証されています。バイオスティミュラントによるホルモンバランスのコントロールは今後より細やかな技術体系が開発されるでしょう。



③ 増収

農業技術の最終目標の1つに、「経済的な優位性」を外すことはできません。即ち、優れた品質の農作物を多く得ることです。ここではそれを量的な効果と質的な効果に分類しています。メロンなどの1果採りや果樹の摘果の場面を除けば、ほとんどの作物は1個体に多くの花を咲かせ、多くの果実を成らせれば単純に増収に向かいます。開花から収穫までの各ステージ(開花、受粉、結実、肥大)に適したホルモンバランスに誘導することで増収の足がかりとなります。特に受粉直後の不稔現象や落花(落果)を減らせることはバイオスティミュラントが経済的な貢献を行う重要な場面です。
質的アクションはどうでしょう。収穫物の品質を向上させることは、その収穫物の価値を上げ、取引価格を引き上げることに貢献します。特に日本では見た目の品質が収穫物の良し悪しを大きく左右します。果実の着色や糖度、食感などの品質要素はその作物ごとに多種多様に要求が異なるので、どんなバイオスティミュラントが何に適しているのかは、さらに細分化して考察する必要がありそうです。また、収穫物の保存性の向上も経済効果のファクターとなります。


④ 非生物的ストレスに対する抵抗性
近年の極端な気候により、異常高温、日照不足、土壌の乾燥、湿害などの好ましくない環境がめまぐるしく起きるようになりました。水ストレスや塩ストレスは最終的には植物体内の活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)を増加させ、作物にダメージを与えます。植物体内の水分が減ると、植物は水の損失を回避するために気孔を閉じます。このことが二酸化炭素の取り込みを抑制し、光合成の活性低下、即ちエネルギー不足の状態へ追い込んでいきます。そのため、気孔を開き、細胞内の水分を保持し、抗酸化活性を強くすることがバイオスティミュラントに求められます。
土壌の塩ストレスは植物の浸透圧バランスを悪化させます。さらに土壌中のミネラル分が拮抗作用によって吸収できない現象も現れます。プロリンやベタイン、マンニトールなどの適合溶質と呼ばれる物質をコントロールすることによって、植物体内の浸透圧は維持され、細胞へのダメージも軽減されるでしょう。

 


次なる課題

以上、バイオスティミュラントの植物への係わり合いを4つのグループに分けて考察しました。ではどのバイオスティミュラントが各々の作用を発揮するのか、割り当て作業を行わなければなりません。ひとつの例として、表中に期待されるバイオスティミュラントの例を記しましたが、今後バイオスティミュラントの研究者や長年使用してきた生産者の声を集めて1つずつ考察することが求められます。

実際の農業現場では前述のすべての植物生理機能を同時に改善することは実用的であるとは言えません。今植物が直面している問題、その土地で将来起こるであろう課題に対して、ここぞという場面でバイオスティミュラントは使われるべきだと考えます。そのために、健全な植物になるための4つの便益を理解することはバイオスティミュラントの失敗しない使用方法を学ぶことに役立っていくだろうと考えます。これらの表の最終的な完成は今後の連載でお示しできればと考えています。

 

※2019年7月31日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。