生物農薬といってまず思い起こされるのは、チリカブリダニやミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニなどといったカブリダニ製剤ではないでしょうか。それだけ様々な作物で一般的な防除資材として認知され利用されているということですが、一方、昆虫病原糸状菌製剤については、うまく使いこなしている方はまだまだ少ないように感じます。
例えば、宮城県での利用状況について、宮城県病害虫防除所が調査した農薬流通量から大まかに面積換算すると、ここ数年、ハダニなどを対象としたカブリダニ製剤は、主にイチゴやナスで延べ100~200ヘクタールで利用されていますが、糸状菌製剤については、農薬登録されて間もないうちは利用されても、その後、年々減少するといったパターンを辿っているようです。ボーベリア・バシアーナ製剤(商品名:ボタニガードES)が、せいぜい延べ処理面積で10ヘクタールを超えるくらいのレベルに至っているといったところです。カブリダニ製剤も、登録間もない頃は、放飼する量やタイミングについて試行錯誤しましたが、その結果、栽培現場でも今ではある程度の利用のイメージが定着したようです。
糸状菌製剤についても、より安定した防除効果が得られる処理方法などをこれまでに検討してきましたが、安定した防除効果を発揮させるための温湿度条件などが、カブリダニ製剤に比べてよりシビアに求められることなどから、なかなか体系化や普及の拡大につながっていません。そこで、昆虫病原糸状菌製剤の防除効果を高めることをねらいとした、殺虫剤や展着剤の混用による防除試験についてご紹介します。
●昆虫病原糸状菌製剤の防除効果向上の試み
2009年にミカンキイロアザミウマに対して、ボーベリア・バシアーナ製剤(ボタニガードES)に殺虫剤のフルフェノクスロン(カスケード乳剤)またはエマメクチン安息香酸塩(アファーム乳剤)を混用した防除試験を施設のナス圃場で行いました。さらに、バーティシリウム・レカニ製剤(マイコタール)については、数種の気門封鎖型薬剤を混用した試験を実施しました。なお、それぞれの散布は、あえて晴天日の日中に行いました。その結果が図1(次頁)です。
ボタニガードESについては、殺虫剤2剤のいずれについても、それを混用した方が、ボタニガードESまたは殺虫剤の単独散布に比べて防除効果は明らかに高くなりました。
これまでの事例としては、溝辺氏(2007)はバーティシリウム・レカニ製剤にアセタミプリド(モスピラン水溶剤)を混用することでミナミキイロアザミウマに対する殺虫効果が向上することを確認していますし、廣森ら(2001)はドウガネブイブイの幼虫に対して、メタリジウム・アニソプリエ菌とフェニトロチオン(MEP)またはテフルベンズロン(ノーモルト乳剤)を混用するとそれぞれ殺虫効果が向上することを確認しています。そして、その効果向上の要因について、昆虫体内の免疫機能の低下によるものと指摘しています。それに加えて、IGR剤であるテフルベンズロンと今回試験したカスケード乳剤については、脱皮を阻害することで、糸状菌が虫体へ侵入する時間的な余裕が増えたことも併せて考えられます。
次に、バーティシリウム・レカニ製剤については、5種の気門封鎖型薬剤(デンプン(粘着くん液剤)、還元澱粉糖化物(エコピタ液剤)、オレイン酸ナトリウム(オレート液剤)、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル(アカリタッチ乳剤)および脂肪酸グリセリド(サンクリスタル乳剤))または展着剤のポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル(アプローチBI)を加用しましたが、どれも防除効果の明らかな向上は認められませんでした(データ省略)。アザミウマを対象としましたので、その俊敏な動きにより、散布された気門封鎖型薬剤はすぐに振り払われてしまったのかもしれません。