アリスタ通信 〈コラム〉飽差管理とは
 
 
〈コラム〉飽差管理とは
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー(IPM担当) 田中 栄嗣


近年、施設栽培で用いられる管理指標に『飽差』ということばがあります。植物生長、特に蒸散作用(呼吸)に大きな影響をあたえる環境条件になります。今回は、栽培管理技術の一つとして標準化されつつある『飽差』を管理指標とした『飽差管理』について、お話をさせていただきたいと思います。

『飽差』と呼ばれるものには、単位が「hPa」のものと「g/m3」のものがあります。いずれも値が高いほうが乾燥していることを示します。

① 飽差(VDP): Vapour Pressure Dificit (単位:hPa)
② 飽差(HD): Humidity Deficit (単位:g/ m3)

日本における飽差管理では、②飽差(HD)を使用することが一般的になっております。飽差(HD)は、1m3の空気の中に、あと何グラムの水蒸気を含むことができるかを示す数値です。

例に挙げると、湿度70%の空気が二つある場合(表1. 飽差管理表)、一方は15℃の温度環境では水蒸気をあと3.9gしか含むことはできません(飽差3.9g/ m3)。同じ湿度70%でももう一方は30℃の温度環境では、約9.1gもの水蒸気を含むことができます(飽差9.1g/ m3)。たくさん水蒸気を含むことができる空気は「水蒸気を奪うことができる乾きやすい空気」と言い換えることができます。単に湿度だけで乾燥した状態か、状態でないかを判断することはできません。



植物は日中気孔を開き蒸散を行い、蒸散した水分を補うために根から吸水し同時に養分を吸収しています。適切な飽差レベルであればこの蒸散→吸水が円滑に行われます。但し、植物は乾燥した環境(飽差値が高い)にさらされると、自己防衛のために気孔を閉じてしまいます。気孔を閉じることで呼吸や根からの吸水が止まり、花芽・細胞分化異常、生育障害、樹勢が落ちることで発病などにつながることがあります。
施設栽培における一般的な適正飽差値は、作物の種類ごとに適正な値が異なりますが、一般的にトマトで3~7g/ m3、イチゴで3~6g/ m3程度と言われております(表1. 飽差管理表)。


また、植物は適正飽差値を少々超える環境でも、そこまでの環境に至る変化が緩やかであれば、環境に適応し蒸散を継続することができます。

遮光や側窓、天窓の管理を適切に行うことで「気孔を閉じさせない」基本的な管理ができていれば、蒸散→加湿→気孔開口を維持→吸水→光合成維持というように生育を好循環させることが可能です。また、近年、細霧冷房やドライミストなど強制的に飽差を調節するシステムの導入機会も増加しており、自動制御による管理も可能になっております。壁掛けタイプの飽差計、ハンディ形飽差計や温湿度・飽差値を継続的にサンプリングできるデーターロガーも5千~3万円程度で市販されており、気軽に導入することができます。

最後に、栽培管理技術の一つとして標準化されつつある飽差管理は、弊社が販売している生物農薬やバイオスティミュラントの効率的利用にも応用することができる技術です。飽差を適切に管理することで、飽差が低い環境(葉面に結露が発生する様な高湿度)を好む病原性糸状菌の増殖抑制、飽差が高い環境で発生し易いうどんこ病の原因となる糸状菌繁殖抑制、蒸散が促されることで葉裏の湿度が適度に保たれカブリダニ卵の孵化率向上による定着率のアップや昆虫寄生菌の効果促進につながります。

次回以降のIPM通信で、これら応用できる技術に関して、もう少し詳しくお話をさせて頂きたいと思います。


※2018年8月31日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。