2018年7月17日、日本ではじめてのバイオスティミュラントについての講演会が
東京大学農学部の弥生講堂で開催されました。
遠藤 協議会会長の挨拶のあと、須藤事務局長より これまであまり馴染みのなかったバイオスティミュラント(以下BSとします)協議会の設立目的、BSの定義とその効果、BSの世界市場、法的位置づけ、課題や将来展望について説明があり、和田技術委員より
海外での現状と製品の種類、法令、各国登録、標準化規格の設定の必要について解説後、錚々たる講師陣よりの専門的、かつ具体的な報告がありました。
応用を知るまえに基礎的な解説が重要なので、このような構成になりました。
以下各演者よりの講演のサマリーです。
横浜市立大学 嶋田 幸久教授 「植物生理学から見た農作物の成長促進」
● 近年明らかになった花を咲かせるホルモン フロリゲンについて
● 植物の葉の気孔を増やすペプチド ストマジェンについて
● 最新の植物ホルモン ストリゴラクトン 発芽誘導、枝分かれホルモン
● オーキシン 生合成阻害剤、サイトカイニンについてのハイブラウな解説
● 収量・品質と遺伝子発現のハイスループットの実現による開発が可能になること
詳しくは氏の著作 「植物の体の中では何が起こっているのか」 を参照お願いします。
東北大学 齋藤 雅典名誉教授 「菌根菌を活かす」
アーバスキュラー菌根菌を利用することにより、リン酸肥料の削減が可能となる。
近年植物を使わなくても増殖する技術が開発されコストダウンが可能になりつつある。
アブラナ科とアカザ科以外の作物で利用できるが、近年はリン酸消費量の多い長ネギでの利用が注目を浴びている。菌根菌はリン酸吸収以外にも乾燥ストレスなどの環境ストレスへの抵抗性が高まることが知られている。PGPR(植物成長促進根圏微生物)との共接種も効果が上がることが報告されている。
東京大学大学院農学生命科学研究科 二瓶 直登准教授 「植物のアミノ酸吸収」
これまでは、無機態の窒素が植物に利用されるとされていたが、アミノ酸としても植物が窒素を吸収できることが判明した。水稲ではアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸はアンモニアより肥効が良かった。根から与えたグルタミンは茎葉部まで移行したことが同位元素を用いた試験で確認された。アミノ酸合成の上流にあるアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンなどが吸収されやすいことが判明した。
帯広畜産大学 小池 正徳教授 「バイオスティミュラントとしての微生物資材」
メタリジウム菌、バーティシリウム菌、バチルス菌(Bt菌、Bs菌など)などは昆虫に寄生するだけでなく、抵抗性誘導をすることは知られていたが、それに加え、収量が向上することも報告された。植物の根圏における相互作用により、植物体内に入り、エンドファイトとして活動していることが明らかになってきている。
高知大学 西村 安代准教授 「低温期のピーマン栽培におけるトレハロースの効果」
赤外線を吸収するフィルムと通常のフィルムを使用したハウスにおいてトレハロースを0.02%、0.1%、0.5%の濃度で毎週散布した結果、収量が対照区に比べ有意に(20%程度)高くなることが判明した。また赤外線フィルム下での減収も抑えられた。
東京大学大学院農学生命科学研究科 中西 啓仁講師 「5-アミノレブリン酸投与による水吸収の促進」
植物用ポジトロンイメージング装置を使うことにより、ALAを処理すると植物体内で水の分子の移動が活発化することが確認された。伝統的な外観からの判断だけでなく、物理的な手法によるALAの効果の確認をすることができた。
広島大学 正岡 淑邦名誉教授 「鉄の投与によるカンキツグリーニング病(CG)症状への改善効果」
治療法のないCG病に対して二価鉄を土壌処理することによりカンキツ類のCG病による枯死を防ぐことを解明した。これはゲッキツなどの鉄の吸収の良い植物の研究の結果得られたものである。
北海道大学大学院 山口 淳二教授 「乳酸菌培養液の植物に対する機能性について」
乳酸菌Lactobacillus paracaseiを液体培養して得た上清をキャベツ苗に処理した結果、総根長が有意に増加した。その発根促進物質はフェニル乳酸であると考えられた。ぼかし肥料などの有効成分の一部はフェニル乳酸に基づいている可能性がある。また乳酸菌培養液はシロイヌナズナの15度および34度での発芽率が向上した。水稲の湛水条件においても欠株率の減少が認められた。