日本生物防除協議会(以下JBCA)の第2回目の講演会が、「生物農薬の未来を語ろう」というスローガンのもと、約250名の参集者を得て開催されました。
基調講演として、帯広畜産大学の小池正徳教授が 「昆虫病原菌のファイトバイオーム(仮訳:植物・微生物・昆虫生態系、農生態系とも訳されている)における生態学」
を主題として、メタリジウム菌、ボーベリア菌、レカニシリウム菌、ペキロミセス菌、BT菌などの昆虫病原菌が、植物病害を抑制すること、PGPF(植物生育促進菌類)あるいはバイオファーティライザーとしての効果があることを自らの研究および文献より解説。
昆虫病原糸状菌と植物病原菌の多くは同じ子嚢菌類であり、分子系統樹でみると近縁にあることが挙げられ、植物との共存関係を維持するため、植物の生存に有利になるように進化したことが示唆された。またメタリジウム菌についてはタマネギに散布後、植物体内から検出され、ネギアザミウマや乾腐病の抑制傾向が観察されている。
さらに、レカニシリウム菌やBT菌は、「株元処理」によって灰色かび病、うどんこ病の発病を抑制することが観察された。BT菌あるいはB.スブチリス菌はバイオフィルムを形成し、枯死率の低下をもたらし、またPGPRとしてトマトの青枯病、萎凋病への効果も認められている。
以上のように、昆虫病原性糸状菌と昆虫病原性細菌はファイトバイオームにおいて農薬としてだけでなく、微生物資材、バイオスティミュラントとしての利用の可能性が指摘された。
東北大学の堀 雅敏教授からは、IPM資材としての青色LEDの光殺虫効果についての紹介で、農業場面のみならず、食品産業、衛生、貯水槽等の水処理などの場面での虫害に対しての利用が提示された。
長野県野菜花き試験場の石山佳幸氏より、バイオキーパー水和剤、ベジキーパー水和剤、マスタピース水和剤の葉菜類の細菌性病害に対しての効果、利用の現状について報告があった。体系防除に比較して遜色のないブロッコリーの花蕾腐敗病試験、キャベツの黒斑細菌病試験結果の紹介など。
宮城県農業・園芸総合試験場の関根崇行氏は、宮城県におけるIPMについて、イチゴのハダニ防除についてカブリダニの利用面積パーセンテージ(約90%)やと気門封鎖剤の防除効果について詳述。
島根県農業技術センターの澤村信生氏は、カキの害虫防除に使用されているマシニッサルア剤、シナンセルア剤、トートリアルア剤の効果について解説。
高知県農業技術センターの下元満喜氏は、イチゴのヒラズハナアザミウマに対する防除体系について、各種薬剤の抵抗性の発現のパーセンテージ、アカメガシワクダアザミウマの5月中旬までの高い防除効果について詳述。
鹿児島県農業開発総合センターの柿元一樹氏は、本会での常連演者であるが、前回のシンポジウムの継続として低温時期における土着天敵の利用法、すなわち、低温時でも利用できる天敵温存植物の探索と、その結果エンドウなどの天敵が定着しにくい作物でのIPM技術の確立、タイベックの利用なども含め考察。
宮崎県総合農業試験場の黒木修一氏は、宮崎方式のICM、すなわち総合的作物管理方法について解説。IPMの実現のためには、まず施肥、土作りの基礎が整ったうえで、適正な水管理があり、その次に、微生物殺菌剤を利用すべき。その次に、昆虫寄生菌(昆虫病原菌)を利用し、完成形として、天敵昆虫を利用するという独自の戦略を説明。
バチルス・スブチリス剤や天敵への農薬散布の影響をミニマイズするために紙コップを使って天敵を温存するユニークな方法などを紹介。この宮崎ICM方式実践の結果、キュウリの収量は34%増加という注目すべき結果が得られた。化学農薬の散布回数は県指針の76回から平成24年では、29回と60%減となっている。
最後に日本生物防除協議会より日本の生物農薬の利用促進に関する声明 「築地宣言」
について説明。
その骨子は以下のとおり。
「日本の生物農薬の出荷額が長期的に農薬出荷額の5%(150億円程度)を目指す。まず2020年までに生物農薬の出荷額が日本の農薬出荷額の2%(60億円程度)を越えることを目標とする。」
(参考: 2015年の農薬出荷額3,700億円 生物農薬+フェロモン出荷額37億円で約1%である。)
その根拠として、下記の情報が示された。南ヨーロッパと北ヨーロッパでの例。
・イタリア 農薬マーケット 750億円 (内除草剤 250億円)
・イタリア 生物農薬マーケット 30億円 生物農薬比率 3%~6%
・オランダ 農薬マーケット 750億円 (内除草剤230億円)
・オランダ 生物農薬マーケット 50億円 生物農薬は全体の 6%~10%
講演後、会場内では、恒例の講演者によるポスターセッションとなり、30分以上熱心に質問する参加者と演者との活発な質疑応答が見られた。