前号では、代表的なバイオスティミュラント資材について説明しました。今回は普段植物生理学にあまり接点のない方にとっては懐かしい話になります。植物が行う最も重要な生命反応である「光合成」にスポットを当てます。
植物は複雑な生化学反応の組み合わせによってその生命を維持しています。ところが既に述べてきたように、植物をとりまく様々な環境ストレスが植物の生理機能を阻害しています。とても興味深い点はどんなストレスであっても最終的には光合成の活動を阻害するようになります。正常な光合成ができなくなると、植物は萎れたり、小型化したり、最悪の場合には枯死に至ってしまいます。光合成反応をスムーズ行なうことが、まずは植物の生理を最適化することの第一歩になります。
光合成とは何か?
そのためには、今一度「光合成」とは何かを復習するする必要があります。「光合成」は小中学校では「植物が光によってデンプンなどを作る働き」として習います。高校では、「植物が光によって水を分解して酸素を発生し、二酸化炭素を有機物に固定する反応」として捉えられています。また、光合成細菌と呼ばれる微生物たちは、水を使うことなく(硫化水素を使用)光合成を行いますので、より正確に表現すると「光によって環境中の物質から還元力を取り出し、その還元力とエネルギーによって二酸化炭素を有機物に固定する反応」ということができます。合成された炭水化物(ショ糖やデンプン)は光エネルギーの貯蔵物質であり、最終的には「呼吸」という光合成とは逆の反応(酸化反応)によってこのエネルギーを利用します。
光合成の反応は幾重にも複雑な化学反応の連続ですが、その収支を表した反応式は次のとおりです。
6CO2(二酸化炭素) + 12H2O(水) → C6H12O6(ブドウ糖)
+ 6H2O(水) + 6O2(酸素)
光合成の反応は、実際の農業場面ではどのように関わっているのでしょうか。
植物に水をやらないと枯れてしまうことは、おそらく子供でも知っています。しかし植物はなぜ枯れるのでしょうか。いろいろな答えが返ってきます。細胞を支える水の圧力がなくなるからでしょうか?植物体内の液体の流れが滞って、肥料の吸収や同化産物の輸送ができなくなるからでしょうか?まさか、植物の喉が渇くからではないはずですが。しかし、前述の反応式をよく見てください。水が介在して初めて光合成は正常に反応するのです。
つまり水不足になれば光のエネルギーを使ってブドウ糖やでんぷんを合成すること自体が抑制されてしまいます。実際には植物は常にその細胞内に水を蓄えていますので、水不足になったから直ぐに光合成に悪影響が出るわけではありません。しかし極端な水不足が続けばいくら日当たりの良い場所で育っていても正常な光合成は継続できなくなるのです。