② 土壌有機物の分解
根粒菌はマメ科の根部に共生し、空中窒素を固定した後に肥料成分として植物に与えています。その代わりに根粒菌は植物から同化産物である糖分をもらっており、ギブアンドテイクの見事な関係が成立しています。アーバスキュラー菌根菌は土壌中の固定化されたリン酸を植物が吸収可能な形態に変換して与えています。
③ 植物ホルモンの生成
ある種の根圏微生物はオーキシン、ジベレリン、アブシジン酸などの植物ホルモンを生成していると考えられています。この植物ホルモンが植物の生長にどのように関与しているのか、まだ不明部分は多いそうですが、微生物が植物の生長そのものを制御しているとは実に興味深い話です。
主な有用土壌微生物を以下に示します。
・アーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌)
植物と共生する菌類。植物にはリン酸や窒素を供給します。植物からは光合成で作られた糖を受け取っています。菌根菌と共生する植物は成長が促進されます。
・根粒菌
マメ科植物の根に根粒を形成し、大気中から取り込んだ窒素をアンモニア態窒素に変換する土壌微生物。植物からは光合成産物が供給されます。
・バチルス(納豆菌など)
堆肥づくりに納豆菌を使用することにより、機能性のある堆肥を作ることができます。植物ホルモンであるサイトカイニンやビタミンを生成することが知られています。
・酵母菌
植物ホルモンであるオーキシンを生成し、花を大きくします。根の周辺で酵母菌が死ぬと、菌体から、アミノ酸、ミネラル、核酸、植物ホルモン、ビタミンなどの生理活性物質が放出されます。植物はこれらを容易に吸収することができると言われています。
・トリコデルマ菌
植物の根圏に共生できるカビの仲間です。幅広い種類が存在しますが、農業用資材で利用されているものには、VA菌根菌同様、植物のリン酸や鉄の吸収を助けているものもいます。土壌微生物に対する拮抗作用を利用して植物の健全化資材として利用されています。
・放線菌
抗生物質を出して糸状菌の菌糸を溶かし、伸長を抑制します。フザリウム菌やピシウム菌などの土壌病原菌の細胞壁(キチン質)を溶菌し発病を抑制します。カニガラはキチン質を豊富に含むので、カニガラを土壌に施用することで放線菌を増やすことが可能です。
・光合成細菌
水田に生息する嫌気性の微生物です。光合成を行うユニークな細菌で、アミノ酸やビタミン、酢酸物質を生成します。紅色硫黄細菌は、光合成に硫化水素を使うので、硫化水素による根の障害予防に期待が持たれます。
有用微生物を農業場面に利用するときの最大の問題は、製品の品質安定です。
菌濃度の規格化、冷蔵保存の問題など、課題は多数ありますが、微生物の幅広い効果に触れるにつけ生物が持つ力の豊かさに驚かされます。
6. 植物機能刺激成分(植物エキスなど)
植物機能刺激成分というグループ分けは、海藻もアミノ酸資材もこれにあたるので重複をしていますが、近年の植物生理学や工業生産技術の進歩により、新たなバイオスティミュラントの流れが生まれてきていますので、あえて別グループとして取り上げました。
植物エキスはもともと、植物が持っている栄養成分を利用する場合や、植物が身を守るための特定の成分を、農家が伝承的に活用していたものと考えます。その方法は、水抽出、アルコール抽出、煮沸、発酵などによるものです。植物の生命力をまるごと利用するという発想から始まった技術であると思います。
一方では近年の技術の進歩により、そのエキスの中の機能的な成分だけを取り出し、濃縮した資材も増えてきています。
植物生理学や分子生物学の進歩により、植物の内生サイトカイニンやオーキシンの合成につかさどる生化学経路や酵素に関わる遺伝子を刺激する天然物などの解明もさかんに行われるようになりました。中には乾燥や低日照、塩害などの環境ストレスに耐性を付与する植物エキスなども発見、開発されており、将来の人口爆発と地球温暖化による食糧不足に対抗するための技術革新になるかもしれません。
以上、バイオスティミュラント資材のグループ分けにチャレンジしてみました。
バイオスティミュラントの明確な定義がない中で、体系的に分類をすること自体に相当な無理があるとは思いますが、今後新しいグループなども生まれ、それぞれの資材が農業生産に有益なものとなることを望みます。
次回はバイオスティミュラントとはどうしても切り離せない、植物生理学との関係について説明を加えていきます。