アリスタ通信 天敵利用は、調査・観察から(アドバイザーの経験から)~見て・調べるための7つ道具~
 
 
天敵利用は、調査・観察から(アドバイザーの経験から)
~見て・調べるための7つ道具~
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
熊本フィールドアドバイザー 荒木 均

微小な天敵や害虫の観察に悪戦苦闘

天敵を利用するには、見て・調べ・害虫防除の要否を判断できるようになることが何より重要である。
害虫・天敵の大きさは、おおよそ、ハダニで0.5mm、コナジラミ類で0.8mm、アザミウマ類で1mm程度、さらに天敵のカブリダニ類になると0.3mmから0.4mmと本当に小さく、視力のある人は確認できるが、一般的に裸眼では十分観察できない大きさである。

定期調査でお邪魔すると、農家の皆さんからの第一声は「天敵が全然見つからん」が挨拶である。この挨拶に応え、つぶさに天敵を発見し、見ていただいて取りまとめるための観察手法として、いつも持ち歩くのが私の7つ道具である。

天敵利用は、調査・観察から(アドバイザーの経験から)~見て・調べるための7つ道具~

その1 ヘッドルーペ(帽子虫眼鏡)、タオル地ハンカチ

ハウス内で天敵や害虫の観察を始めたころは、小さいルーペ(虫眼鏡)で観察していたが、葉裏全体を見回すことができない。両手を使うので野帳への記録にも不便さがあり、ホームセンターでヘッドルーペを見つけた。ヘッドルーペには、レンズが倍数毎に何枚もあるが、私は2.5倍。

片手だと、キュウリやメロンなど葉が大きいものは折れやすいが、両手を使うことで葉折れも少なく、天敵も約1mmに拡大され、丁寧に見ることもができ害虫や食害痕を含めて全体をはっきり観察できる。日曜大工のち密な作業と併せて、一つあると重宝する。実証調査で訪問する農家のお母さんが、「針に糸を通すため」これは便利と早速購入。

また、促成作では、ハウス内に入った時のルーペのレンズの曇り度で、スワルスキーが増える環境(湿度が80%程度)にあるかどうかの一つの目安にしている。ただ、天敵に好環境であればあるほど、レンズの曇りがとれず、これを拭くためのタオル地ハンカチは必須となっている。お忘れなく。


その2 携帯電話カメラ(接写レンズ)・デジタルカメラ

微小昆虫の世界を、写真や動画で撮影するためデジタルカメラを利用していたが、観察中に微小昆虫の接写撮影は大変難しい。

そんな時、アリスタ営業社員からこれは便利と、携帯電話カメラ用接写レンズを薦めてもらった。なんと20倍にも拡大でき、写真も動画を撮れ、しかも音声まで入る。




促成キュウリ作での、冬場は、スワルスキーがなかなか観察できない。定期調査で訪問しては、丁寧に観察し見ていただくことで一安心される。アザミウマの食害痕や排泄物、コナジラミのリンク状の卵塊など、色々撮れて、暑い最中の調査でも楽しくなってくる。農業指導者の皆さんの調査研究成果用の写真撮影にも大変有効である。

接写レンズで撮影したチリカブリダニ
接写レンズで撮影したチリカブリダニ
花棲性ヒラズハナアザミウマのイチゴでの寄生状況。接写レンズで撮影
花棲性ヒラズハナアザミウマのイチゴでの寄生状況。接写レンズで撮影

その3 モニター用粘着板(ホリバー)、使い捨てビニール手袋、ラップ

野外やハウス内の害虫を、継続的に観察するには、黄色・青色のホリバー(粘着板)を設置しておくと、害虫の増殖傾向を把握することもできる。特に、野外での害虫の発生を監視・予測するためにも大変有効で「桜開花の標本木」ではないが、圃場野外の一角に定期・定点で設置しておけば、毎年の発生状況も把握できる。まさしく我が家の害虫発生予察が可能となる。
特に、私の今年の経験では、4月のイチゴ作で、ヒラズハナアザミウマがホリバーブルーに誘殺され、大変な効果を確認したところである。粘着力が強いので、付け替えのためのビニール手袋やラップのご用意を。
天敵利用は、調査・観察から(アドバイザーの経験から)~見て・調べるための7つ道具~

その4 黒色 用箋ばさみ(記録と虫見板兼用)、調査用紙
黒色の用箋ばさみは、虫見板として便利である。
放飼後、ボトルにわずかに残るスワルスキーを叩き落して農家の皆さんに見ていただく。また、葉が小さいものなどはこの用箋ばさみに払い落として観察するとよく見える。例えば、グリーンアスパラでの天敵利用はまだまだこれからの課題であるが、擬葉(ぎよう)の観察がむずかしく払落し方法だと良く観察できる。
また、調査用紙も工夫が必要だ。2週間に1回訪問し、A4調査用紙に、天敵と害虫の観察データ(一圃場で、3カ所、30葉程度)や特記事項(ハウス環境、農薬散布状況、害虫発生状況、農家等の意見)を書き込みまとめることとしている。

その5  目印用の支柱棒
ハダニやアブラムシなど、ハウス内でツボ的に発生する害虫の発生場所を確認するために30~40㎝の棒を立てて目印にする。
イチゴ作では、一畦の中で、ハダニが多発している所からいない所まで2本の支柱棒を立て、ハダニが広がっていかないか、農家の皆さんと共に観察する。

また、イチゴの調査では、ほぼ定点を決めて調査するが、皮肉なことに調査場所以外でハダニが発生していることが多く、その際には、必ず目印となる棒を立てておく。目印になるものであればカラーのテープでも十分である。
イチゴのハダニが多発している場所に支柱棒を立てる。
イチゴのハダニが多発している場所に支柱棒を立てる。そこから、天敵放飼後にどれくらい広がるかを農家や指導機関の皆さんと確認。

その6 フリーザーバッグ
重宝するのがフリーザーバッグである。
茎葉や根を新鮮なままに保存し持ち帰り、天敵・害虫、罹病葉などを観察することができる。冷蔵庫に入れておけば、袋も密閉されているので茎葉、果実や根もしおれず、新鮮なままに保存観察ができる。指導機関の皆さんと、合同巡回調査をよくするが、その際ビニール袋は準備されていても、フリーザーバックまではないため感謝される。 

その7 スケール、収穫ばさみ、小型のシャベル
その他、材料を採取するための収穫ばさみや小型のシャベルも車に入れておけば便利。
天敵が発泡スチロール箱で送られてくるが、梱包されたビニールテープを切ったり、被害茎葉を採取するために収穫ばさみを常用している。勿論、スケールは、畝幅、株間や草丈などを即尺するために当たり前のことではあるが。

以上のような調査観察用品などを自動車に積み込み、促成作農家では、定植から収穫終了まで約9か月、2週間に1回程度調査観察を続け、その時々に、農家や指導員の皆さんと天敵や害虫を現場で一緒に見ながら「2週間後にまた来ますので、ここはもう少し農薬散布を我慢して様子を見ましょう」などと話し合いが続く。

栽培が終了したら、天敵や害虫のデータをグラフ化し、写真と一緒に実証調査成果としてまとめ、農家や指導者の皆さんに提供し、総合検討を行いながら次作につながる活動に努めている。新規に天敵を利用する農家の皆さんや部会などでは、必須の活動と考えている。

天敵利用は、調査・観察から(アドバイザーの経験から)~見て・調べるための7つ道具~

地域に応じたIPMを普及させるためには、定植時・天敵放飼前の密度調査、放飼後の観察や防除経過など、栽培期間中の定期調査と情報交換を続けて、天敵・害虫密度データや農薬散布履歴と併せてグラフ化し、農家や関係機関に提供することで農家や関係機関の皆さんに納得、実感いただくことが重要。

※2017年8月9日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。