アリスタ通信 第4回農業普及活動高度化全国研究大会 農林水産大臣賞受賞事例
 
 
第4回農業普及活動高度化全国研究大会  農林水産大臣賞受賞事例
収益の高いイチゴ産地の育成 ~若手研究部組織を核とした産地育成~

茨城県鹿行農林事務所 経営・普及部門
川村 武さん 横山 早苗さん

1 普及活動の課題・目標
JAほこた苺部会は,H22年度の部会員数104名、作付面積47ha、販売額約16億円であり、1戸当たりの経営面積は45aと規模が大きく、40歳未満の若い生産者が約20%を占める部会である。

当部会は、これまでイチゴを12月から3月下旬まで収穫し、その後にメロンの収穫に移行する「メロン+イチゴの複合経営」が主流だった。近年は,イチゴを11月から5月下旬まで収穫する「イチゴ専作経営」に移行してきており、これまで以上にイチゴの収益の向上が求められていた。

そこで、単価の高い年内出荷の拡大に有効な栽培技術の導入や、出荷後期の収量・品質向上につながる病害虫防除の効率化を図り、部会平均の10a当たり出荷量を3.6t(H22年度)から4.0t(H27年度)へ、10a当たり売上高を340万円(H22年度)から400万円(H27年度)へ向上することを目標に取り組んだ。

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(ア)部会研究部を核とした活動展開
JAほこた苺部会研究部は、部会全体の問題解決に先駆的に取り組み、産地に技術を導入するための研究実証を行う役割を担っている(写真1)。また、成果を生産者大会で部会員へ周知するなど、技術導入の核となっていることから、研究部を中心に活動を展開することとした。

(イ)ハダニ対策には関係機関・民間会社と連携
IPM技術の確立では、課題解決のために高度な専門的知識が必要であったため、専門技術指導員(農業革新支援専門員)や研究機関、普及センターで構成する「技術体系化チーム」の設置や、民間会社の持つノウハウや営業力を活用した普及活動に取り組んだ。 


(2) 年内出荷拡大のための育苗期夜冷処理技術の推進

(ア)夜冷処理技術への理解促進
部会員全員の夜冷処理導入面積率と年内売上高の関係についてデータを整理し(図2)、夜冷処理導入の経営的メリットを明らかにした。
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(イ)導入経費の少ない夜冷処理技術の選択
当地域は太平洋岸に位置し、茨城県内陸部に比べて海風の影響で平均気温が約1℃低く、夜温が下がりやすい気象的条件や地下水が豊富であるなどの地理的なメリットがあった。
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この特性を活かし、かつ早期に夜冷処理を普及することを優先し、夜冷処理には追加投資が少なく、低コストであることを考慮し導入が比較的容易なウォーターカーテンを用いた「簡易夜冷処理」(図3)を推進することとした。

(ウ)効果的な簡易夜冷処理技術の確立
簡易夜冷処理技術は既存の技術であったが、生産者により処理方法が異なっており、花芽分化時期に差が出るなど、効果にバラツキを生じていた。そこで5名の生産者の簡易夜冷処理方法を調査し、最適な処理技術を明らかにした (表1)。
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(エ)簡易夜冷処理技術の導入推進
これらの活動で明らかにした簡易夜冷処理技術の導入メリットや、効果的な処理方法を栽培資料にまとめ、現地講習会で部会員に周知した(写真2)。講習会は、地区別に少人数で実施し、確実に部会員に伝わるよう工夫した。
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一方、簡易夜冷処理は、多量の水を使うので、ハウス内湿度が高まり炭疽病の多発が懸念されたため、炭疽病対策の実態調査をもとに、炭疽病防除のポイントとして、
①これまで基本であった薬剤散布の頻度「7日に1回」よりも短い間隔で薬剤散布を行う
②苗の株元の通気性を確保することを部会員に周知した
さらに、育苗期の個別巡回により効果的な夜冷処理が確実に行われるよう支援した。


(3)安定したイチゴ生産のためのIPM技術の推進
産地の収穫期後半の最大の問題であったハダニ類の防除に着目しハダニ類の薬剤感受性検定と天敵ダニによる防除方法について検討した。
(ア)ハダニ類が防除困難な要因の解明
薬剤の防除効果を確認するため、農業革新支援専門員と研究員、普及指導員で構成する技術体系化チームでナミハダニの薬剤感受性検定を実施した。その結果、主要なダニ剤6剤のうち4剤については、防除効果が低いこと が確認された(表2)。また、散布方法にも問題があり、散布ムラにより効果が得られないほ場も多かった。
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(イ)天敵ダニによる防除方法の実証
天敵ダニによるハダニ類の防除技術を研究部で実証したその結果、天敵導入前のハダニ類防除の徹底、天敵の放飼時期(11月中旬)、放飼量の増加等により、ハダニ類の発生を抑えられることを実証した(図4)。
一方で、天敵ダニを導入することで、使用できる農薬が制限されるため、アザミウマ類の被害増加が懸念された。そこで、アザミウマ類の物理的防除法として、ハウス開口部への防虫ネット(0.6mm目合い)展張による侵入抑制効果を検討したところ十分な効果が得られた。懸念されたハウス内の温度上昇については、イチゴの品質や生育に悪影響を及ぼさない、という実証結果が得られた。

これらの結果から、ハダニ類は天敵ダニで防除し、アザミウマ類はハウス開口部への防虫ネットの展張で防ぐという技術を組み立てた。
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(ウ)IPM技術の導入推進とフォローアップ
IPM技術の導入に積極的な研究部員のもとで実証した結果、その部員が推進役となり、自ら、天敵ダニの効果を積極的に広める役割を担うようになった。並行して普及センターは、実証範囲を広げながら、講習会において部会全体へ推進した。
また、技術体系化チームにおいて、天敵による防除の成否要因や薬剤感受性検定等の調査結果をまとめ「イチゴIPM導入マニュアル」を作成し、天敵ダニ導入後のフォローアップ活動に活用した。
さらに、個別巡回では、普及センターやJA営農指導員のほかに、民間の生物農薬メーカーと連携し、天敵ダニ導入を支援した。マニュアルに基づく体系防除とメーカーから的確な助言を得ることで、天敵ダニ活用の成功者は着実に増加した。


3 普及活動の成果
(1)年内出荷拡大のための育苗期夜冷処理技術の推進

簡易夜冷処理導入面積率は、H22年度の37%からH27年度に55%まで増加した。
その結果、部会全体の年内出荷量は、H22年度の80万パックからH27年度の92万パックへと15%増加し、年内販売高は24%増加した。また年内の部会平均10a当たり販売高も57%増加した。

(2)安定したイチゴ生産のためのIPM技術の推進
天敵ダニの導入戸数は、H22年度の4戸(全体の4%)からH27年度の48戸(全体の62%)へ増加した。コスト面では、10a当たりの農薬費用・労力費を比較すると18,000円低くなり、費用負担を増加することなく、高い防除効果を得ることができた(表3)。
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IPM技術の導入推進により、当産地の最大の課題であった収穫期後半の害虫防除技術が確立され、長期の安定生産が可能となったため、 3月~5月期の部会出荷量はH22年度の256万パックから、H27年度の289万パックへ13%増加した。販売高も49%増加した。

(3)イチゴ経営の収益向上と産地の拡大
JAほこた苺部会は、H22年度と比較し、栽培面積は1,059a、部会員数は26名減少したが、部会全体の販売金額は、H22年度の16.1億円からH27年度の18.8億円へ17%増加した。
部会平均10a当たり出荷量は、H22年度に対してH27年度は19%増加し、売上げも51%増加した。1戸当たりの平均作付面積はあまり変わらないなかで、1戸当たりの売上高は、H22年度に対してH27年度は56%増加し、イチゴ経営の収益の向上が図られた。

4 今後の普及活動に向けて
本普及活動は、JAほこた苺部会研究部を核として現場の実態をつかみ、問題解決に取り組んだ結果、早期の技術確立が収益の向上につながり、産地の発展につながった。
産地では1戸当たりのイチゴの売上高が増加したことにより、複合経営からイチゴ専作経営への転換が着実に進んでいる。
若手の研究部員が主体的に新技術導入に取り組むなかで、産地をけん引するリーダーとして成長し、現在は部会本部役員の半数が研究部員から選出されている。
普及センターと研究部では、新たな技術として、確実に花芽分化の促進が期待できる「夜冷専用エアコン」による早期出荷技術や、ハダニ類防除効果の高い「高濃度炭酸ガス処理」技術について検討し、さらなる収益の高いイチゴ経営を目指している。 

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農業普及活動高度化全国研究大会とは
全国の農業改良普及センターにおける普及活動の創意工夫・改善や独創性に富む優良事例等を通して、普及活動の高度化に向けた研究を行う大会で、全国農業改良普及職員協議会と一般社団法人全国農業改良普及支援協会の共催により開催しています。
本記事は、「第4回農業普及活動全国研究大会」発表資料を再編集したものです。
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※2017年2月2日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。