本剤は微生物農薬としては対象害虫のスペクトラムが広く、これまでの糸状菌製剤に比べ高湿度の要求度が低いため、野外でも使用可能で使いやすく、ヒトおよび環境に対して安全性が高い薬剤です。
ボタニガードの有効成分はアメリカ農務省(USDA)のVandenberg博士が米国オレゴン州の温室で甲虫コーンルートウォーム(ウリハムシの一種)から分離したBeauveria
bassiana GHA株の分生子です。この分生子の生育適温は25~28℃で、33℃ではわずかに生育しますが36℃では生育しないため、哺乳動物や鳥類の体温では繁殖しないので安全性が高いのです。環境中での生存時間は35℃で数週間、それ以上の高温では数時間~数日間です。
また、分生子は水懸濁液中でpH 5、7および9で48時間生存する。自然水系環境中で分生子は発芽するが、昆虫宿主がいなければ2日以内に死滅します。さらに、分生子は直射日光により急速に破壊されため、実測半減期は2.58時間であり、日光に弱いことが特徴です。つまり環境に長く存在できないということです。
以上の欠点をカバーすべくボタニガードは製剤化され、現在は1年以上の有効期間を達成しています。
Beauveria bassiana GHA株の対象宿主として、日本では圃場試験でコナジラミ類(オンシツコナジラミ、タバココナジラミ)、アザミウマ類(ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ)、アブラムシ類、コナガなどに寄生することが確認されています。
米国ではこれ以外にコガネムシ類、ゾウムシ類、ヨコバイ類、ナガカメムシ類、カスミカメムシ類、ウンカ類、メイガ類等多くの虫が農薬登録の対象害虫となっています。
同社は元来コロンビアのワクチンなどを製造販売する動物医薬品会社で、微生物農薬の開発も行っていましたが、上記USDAの主導するマイコトロール(Mycotrol)社を買収したことにより、数度の社名変更のあと、現在のLAM
International 社になっています。
同社の製造用設備である発酵槽は、USDAの指導のもとに建設された新鋭の機器であり、固体培養では、いまだに世界をリードしているものとされています。
本社は米国北部の鉱山の町であるモンタナ州のButte(ビュート市)。どうしてこの場所で発酵産業が成立したか不思議ですが、当時、微生物の力を借りて、金属を回収しようとするバイオレメディエーション※の技術が盛んだったからいわれています。
今年になって、米国では、ピレスリンとボタニガードの混合剤を開発販売し始めています。即効性を出し、よりボーベリアに感染させやすくするという戦略で、日本でも同様の方法を考える必要があるかもしれません。