従来天敵利用研究会の開催は11月下旬~12月上旬でしたが、今年度開催は8月中旬に早まり阿波観光ホテルで開催されました。大会事務局の徳島県立農林水産技術総合支援センター
中野さんが各方面に働きかけて従来以上に活気のある研究会だったと感じました。
事務局の情報では、参加者212名で、その内訳は生産者22名、JA関係15名、大学関係(学生含む)8名、国立研究開発法人21名、都府県関係88名、農薬メーカー、天敵資材メーカー、農薬・資材・苗取扱業者等50名、その他団体6名とのことです。
今年度から運営に(一社)全国農業改良普及支援協会も参加していただいたことで都府県関係でも試験場の研究員の方々だけでなく普及指導に当たる皆さんの参加も増えたと感じました。
特に私たちアリスタ ライフサイエンス株式会社では、2006年からIPM普及技術研究会を通じて(一社)全国農業改良普及支援協会・全国システム化研究会IPM実証調査で各地域・作物での天敵利用を中心としたIPM防除プログラムの技術確立を実施しており、そこで一緒に活動している皆さん方と新たな情報交換もできました。
今年度のシンポジウムテーマは「現場力を生かした天敵利用」ということで、いかに生産現場で天敵を利活用していくか各地の取り組みについて以下4県からの発表がありました。
「施設インゲン(高知県)」、「露地、施設ナス(徳島県)」、「露地オクラ(鹿児島県)」、「露地ナス(群馬県)」です。どの発表でも防除体系に市販天敵、土着天敵を組み合わせて化学農薬の使用量の削減、抵抗性発達の遅延、省力化、安全、安心を目的に検討しており、期待できる技術となっています。
今後さらに検討して行かねばならないのは、これらの技術をできるだけ面として広げていくこと、即ち普及できるかどうかということだと思います。
パネルディスカッションでも、「普及していくために農業改良普及指導員の経験を向上させていく」ことの重要性が指摘されましたし、普及現場でのIPM実証試験の実施に際しては「多くの生産者とのコミュニケーションを通じて進めていく」ことが相互の理解に繋がるとのことでした。
IPM防除技術は、これまで多くの事例が施設栽培でしたが、近年の発表内容は露地野菜での天敵利用の発表件数も多くなってきました。特にスワルスキーの露地ナス登録は天敵利用での防除効果をより安定的にする1つのツールとなっていると感じました。
一般講演(24題)では、冒頭、「農林水産省におけるIPM推進に向けた取り組み状況」と題して消費・安全局植物防疫課の藤井氏より「強い農家を育てる」ための重要な取り組みというベースで農水省のIPM推進に対する研究、施策等の説明がありました。国を挙げてIPM推進を実施しているという力強いアピールだったと思います。
新規素材という面からは、リモニカ(リモニカスカブリダニ)の促成イチゴにおける春季のアザミウマ防除で活用できるという結果が示されました(アリスタ
ライフサイエンス(株) 光畑)。また、本種とスワルスキーカブリダニの定着性を促成ピーマンで比較したところ前者の方が低温でも速やかに増加しアザミウマを低密度に抑える点などが優れているとの結果も示されました(松本氏・高知県中央西農業振興センター)。
新たに農薬登録されたギフパール(ギフアブラバチ)の効果的な利用方法について農研機構野菜花き研究部門太田氏より詳細な説明があった。本剤の利用としては促成ピーマンのジャガイモヒゲナガアブラムシ、カラーピーマン・トウガラシ類でのモモアカアブラムシ防除にも利用可能性が高い。
天敵利用技術の面からは、各種天敵温存植物の有効性などの発表があった。
スカエボラ、バーベナを利用したタバコカスミカメの増殖能力の向上は有意義な手法であると感じた(近畿大学農学部)。タバコカスミカメは利用が容易な土着天敵の筆頭であり高知県のナス栽培での本種導入率は93%であるとのこと。
このナス栽培では殺虫剤を利用する機会が少なくなったためにクモの巣が目立ち始めて、そのクモの巣にタバコカスミカメがトラップされる頻度が高まったという発表もあった(安達氏・高知県農技センター)。
将来的にも現在の畑作中心で普及してきている天敵を利用したIPM防除体系も果樹類や花き類へと広がるとともに、栽培場面も「施設栽培」から「露地栽培」にもますます広がっていくと考えられる。
さらに防除体系に合致した新たな天敵資材の開発も期待される興味深い発表もあった。
大会内容、プログラムなどの詳細情報は、こちらからご覧ください。
最後に、今回の活気ある大会を運営頂いた大会関係者に敬意を表します。