アリスタIPM通信 第60回 日本応用動物昆虫学会に参加して
 
 
第60回 日本応用動物昆虫学会に参加して
 
製品開発部・開発グループ
山中 聡
 
 
例年3月下旬に開催される日本応用動物昆虫学会(以下応動昆)大会に参加し、特にIPMに関連する話題を中心に情報収集を行いました。
これらを報告するとともにIPMに関する今後の方向性を考察してみたいと思います。

スワルスキー前(まえ)・スワルスキー後(ご)と言われるようにスワルスキーカブリダニの登場以前の生物農薬の利用は慣行防除のプログラムの中に生物農薬を代替として使用する考えであり、生物農薬の普及も低い状態でした。本種の登場は安定して増殖、定着することから、抜本的に防除プログラムを作り上げるという考え方に変わり各作物でIPMプログラム利用が高まってきたところです。
このような背景から、生物農薬をより安定して利用できるような技術やそれらを用いたIPMプログラムの発表が多く、施設果菜類(ピーマン、ナス、キュウリ)などから、施設花き類、露地ナス、オクラ、ネギ等の野菜類、さらにカンキツ、リンゴ、ブドウ等の果樹類に到るまでその技術確立と周辺研究の発表の幅や種類が広がってきています。

★施設及び露地におけるカブリダニの利用では、やはりスワルスキーカブリダニ利用の発表課題が目立ちました。
しかし着目すべきはポスト・スワルスキーと言われるリモニカスカブリダニについて鹿児島県農業開発センターならびに弊社の発表内容です。

鹿児島県農業開発センター: スワルスキーカブリダニとリモニカスカブリダニの放飼量(25頭/㎡~100頭/㎡)と温度(平均15℃、18℃、21℃、25℃)条件でピーマンでの増殖性、ミナミキイロアザミウマに対する防除効果を調査し、リモニカスカブリダニはスワルスキーカブリダニと比較して低温条件になるほどその増殖性、防除効果の優位性は顕著だったとのこと。

アリスタ ライフサイエンス株式会社: リモニカスカブリダニはスワルスキーカブリダニに比べヒラズハナアザミウマの捕食量が多く、2齢幼虫も捕食可能。低温条件ではその差はさらに大きいとのこと。

★スワルスキーカブリダニを中心としたIPMプログラムでもタバコカスミカメを併用することでより安定した効果が得られています。このタバコカスミカメに関する発表でも興味ある話題がありました。

近畿大学: タバコカスミカメのミナミキイロアザミウマ幼虫とタバココナジラミ幼虫に対する選択性を比較するとアザミウマの方が有意に捕食されると発表。やはり、動くものの方が捕食され易いのかもしれません。

★露地作物でのIPM防除技術の研究では、土着天敵を強化させるインセクタリープラント(天敵温存植物)の有効性等の発表がありました。

宮崎大学: インセクタリープラントとしてオクラが有効であり、露地ナス圃場にオクラがない場合にはアザミウマ密度が低下すると土着のヒメハナカメムシ類の密度も低下しますが、オクラが存在する場合には長期にわたってヒメハナカメムシが安定して発生し、アザミウマがいなくても密度が持続することが報告されました。
この安定した密度維持はオクラが作り出す真珠体の栄養にあるようです。これを利用するとヒメハナカメムシ1齢幼虫の生存率が非常に高まることが報告されました。

オクラの真珠体(徳島県立農林水産総合支援センター・中野上席研究員提供)
オクラの真珠体(徳島県立農林水産総合支援センター・中野上席研究員提供)
 
学会では夕方から集まる「小集会」がいろいろなテーマごとに開催されて夜遅くまで議論が盛んに行われます。
3日目の小集会では、「第1回天敵利用を考える会・最近の動向と今後の展開」として近畿大学 矢野栄二先生、宮崎大学 大野和朗先生、柿元氏/阿部氏(鹿児島農総セ/近中四農研)の発表と討議がありました。


☆矢野先生の御発表では、天敵利用の経緯と製品の紹介を中心に行われましたが、利用する生物農薬の特徴を活かして使い方を工夫することが重要だという指摘がありました。

☆大野先生の御発表では、一般生産者の現在の栽培システムや防除システムは”天敵が働きにくい”、或いは”天敵が働けない”環境が出来上がってしまっている。これを改善することが天敵利用技術の推進に繋がるとのこと。そのためには、圃場ごと、土着天敵種ごとにインセクタリープラントを栽培するなどして環境を変えて土着天敵を利用すべきであることが指摘された。


☆柿元氏/阿部氏の共同発表では、柿元氏より鹿児島県で新しい天敵製品であるギフアブラバチ(商品名:ギフパール)とヒメカメノコテントウ(商品名: カメノコS)を利用したピーマンでのアブラムシ防除の有効性と具体的使用事例が発表されました。
また阿部氏は、今後の天敵利用は裾野が広がってきたこともあり、あらゆる範囲の作物でIPM防除技術を検討していくべきで、特に葉菜類等に展開していくのはどうだろうとの提案がありました。
又、効果面で実績のあるカブリダニやカメムシ類についてより安定して利用できるように育種を重ねて利用できる作物範囲を広げる検討もすべきとの指摘がありました。


★IPMに関する今後の方向性として、市販天敵、生物農薬では、多くの作物で利用できるようにその適用拡大について新たな作物への適用、新たな害虫への適用など現在の天敵製剤、微生物農薬をより幅広く利用できるような取り組みを行っていく必要があると思います。さらに安定的に利用できるような天敵温存植物の明確化、天敵類の野外環境に対する保護技術の確立も重要でしょう。さらに新たな有効成分(新剤)を利用してIPM技術を広げていくことを考えています。

 
 

※2016年4月15日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。