I 形態
学名: Amblydromalus limonicus (Garman & McGregor)
和名: リモニカスカブリダニ(新称)
所属: カブリダニ科ムチカブリダニ亜科
雌成虫:成虫は透き通った白色を呈し、卵形の体形である。体長は 0.2〜0.24
mm。
分布域、生息植物など:本種は、北アメリカ、中央アメリカ、南アメリカの他、ハワイ、ニュージーランド、オーストラリアから知られている(Moraes
et al., 2004)。具体的には、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、キューバ、エクアドル、フランス領ギアナ、グアテマラ、ホンジュラス、ジャマイカ、ニカラグア、プエルトリコ、スリナム、トリニダード・トバゴ、メキシコ、アメリカ(カリフォルニア州とフロリダ州)であり、生息が確認されている植物はミカン科やナス科、ブドウ科、マメ科、シソ科など約
30 科に及ぶ(Steiner et al.,2003; Moraes et al.,
2004; Steiner and Goodwin, 2007; Knapp et
al.,2013)。
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Ⅱ 生態
リモニカスカブリダニは、コナジラミ類や植食性アザミウマ類、カイガラムシ類、ハダニ類、ホコリダニ類、サビダニ類の天敵として知られている(Swirskii
and Dorzia, 1968; McMurtry and Scriven,
1971; Houten et al., 1993, 1995a,b, 2008;
Hoogerbrugge et al., 2011; Knapp et al.,
2013))ほか、昆虫の卵(蛾類)や花粉を摂食するので、動物質の餌のみならず、多少の植物質も餌範囲に含まれると考えられている。
本種は乾燥や高温環境における発育が劣るため、温帯から亜熱帯の中でも比較的温暖で湿潤な地域に分布する。相対湿度が
50%RH では卵がふ化しない一方、60%RH で 50%、70-90%RH で
95〜100%がふ化する(McMurtry and Scriven, 1965)。発育可能な温度は
10〜30℃であるが(McMurtry and Scriven, 1965; Hoogerbruggeet
al., 2011)、高温域での発育は阻害される。一方、本種には休眠性がなく、冬季に零下に達する野外では生存できないと考えられている(Houten
et al., 1995a; Steiner et al., 2003)。
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卵から成虫までの発育期間は 25℃で 6 日(Steiner
et al., 2003)、22.2℃で 8.5 日(McMurtry and
Scriven, 965)。日当り産卵数はミカンハダニ摂食で 2.7 卵(26.7℃;
Steiner et al., 2003)、ミカンキイロアザミウマ1齢幼虫摂食で
3.2卵(25℃; Mcmurtry and Scriven, 1965)、オンシツコナジラミ卵の摂食で
3.7 卵(Houten et al., 2008)。日当り捕食数はミカンキイロアザミウマ幼虫摂食で
6.8〜6.9 個体である(Houten et al., 1995a, 2008;
Steiner et al., 2003)。これらの値は、スワルスキーカブリダニ
Amblyseius swirskii (Athias-Henriot)の値に比べて、いずれもやや高い傾向にある。
Ⅲ 委託試験事例の取りまとめ
本種の特徴は、アザミウマ類やコナジラミ類などの微小昆虫を捕食しますが、初期開発ではアザミウマ類を対象に「野菜類(施設栽培)・アザミウマ類」として農薬登録用薬効試験が実施されている。
表 1 には、試験期間中の温度の変化、発生したアザミウマ種、放飼回数、リモニカスカブリダニの定着数、総合判定をまとめた。
① アザミウマ類の捕食範囲
委託試験事例ではミナミキイロアザミウマの発生した圃場が多かったが、その他にもミカンキイロアザミウマやネギアザミウマ、ヒラズハナアザミウマの発生が認められた。防除効果の判定は主に幼虫密度で行われており、種類ごとには示されていないが、どの試験事例でも高い防除効果が認められている。種別に成虫の密度調査が行われた事例では、ミカンキイロアザミウマ成虫の密度抑制効果は確実に出ているものの、ヒラズハナアザミウマ成虫についてはミカンキイロアザミウマ成虫ほどの密度抑制効果が見られなかったことから、成虫の大型化による取りこぼしが原因と考えられた。結論として、捕食範囲はアザミウマの種類を問わないと考えられ、捕食行動はステージにより捕食しにくい場合もあると判断できる。
② 防除効果
委託試験設計では「50 頭/㎡・複数回放飼」とし、実際には「50 頭/㎡」で 2~3
回放飼が実施された。試験の結果、ピーマンやキュウリ、ナスではどの試験でも総合判定が
A 評価あるいは B 評価であり、放飼量(50 頭/㎡)は適切であり、かつ 2
回以内の放飼回数で十分な効果が得られると考えられた。イチゴでは、放飼量と放飼回数は上記の作物と同様であったものの、総合判定が
C 評価または D 評価であった。C 評価である青森県の試験は、5 月に放飼して7月まで試験が実施されたが、試験期間中の温度は開始時期の
13℃から試験後半の 30℃まで上昇していた。試験期間の温度としては増殖に適しており、アザミウマに対して有効に働いたと考察できる。一方、栃木県の試験では、試験期間が短く、かつ試験期間中の温度も
13℃から 20℃であり、リモニカスカブリダニが低温でも活動可能ではあるものの、他の試験事例に比べて全般的に低温が継続したことから、評価が低くなったのではないかと思われる。なお、イチゴという作物種の定着性に対する影響についても、その可能性を否定できないため、更なる検討が必要である。
③ 作物別の定着性
カブリダニの種類によっては非常に定着しやすい作物がある一方、定着しにくい作物もある。表
1 には、公的試験を実施した 4 種類の作物について、ピーク時のカブリダニ個体数を示した。ピーマンとキュウリ、ナスでは、1
部位(葉や花等)当り 1 頭以上が観察される傾向が認められ、カブリダニの定着や増殖に適した作物であると言える。これに対して、イチゴでは
2 つの試験ともに葉における発生が認められたものの、花では生息が確認されなかった。葉の生息数は温暖な時期に試験が実施された青森県の試験において、害虫を抑制するのに十分な密度まで増加していた。ただし本種は非常に狭い隙間に隠れ潜む性質を有しているらしく、イチゴ果実のガクの裏で観察される傾向がある。また、ガクの裏にはアザミウマ幼虫も食害に訪れる場合が多く、花での生息は観察されないものの果実への被害を軽減しており、青森県の試験のように、効果判定には被害果率を考慮した総合的な判定が望まれる。
Garman, P. and E.A. McGregor
(1956) : Bull. South. Calif. Acad. Sci.
55: 7〜13.
Hoogerbrugge, H. et al. (2011) : Bull. IOBC/WPRS
68: 65〜69.
Houten, Y.M. van et al. (1993) : Bull. IOBC/WPRS
16: 98〜101.
Houten, Y.M. van et al. (1995a) : Entmol.
Exp. Appl. 74: 225〜234.
Houten, Y.M. van et al. (1995b) Entmol.
Exp. Appl. 77: 289〜295.
Houten, Y.M. van et al. (2008) : Bull. IOBC/WPRS
32: 237〜240.
Knapp, M. et al. (2013) : Acarologia 53:
191〜202.
McMurtry, J.A. and G.T. Scriven (1965) :
Ann. Entomol. Soc. Amer. 58: 106〜111.
McMurtry, J.A. and G.T. Scriven (1971) Ann.
Entomol. Soc. Amer. 64: 219〜224. Moraes,
G.J. de et al. (2004) : Zootaxa 434: 9 〜230.
Steiner, M.Y. (2003) : Austr. J. Entomol.
42: 131〜137.
Steiner, M.Y.and S. Goodwin (2007) : Acta
Hort. 731: 309〜315.
Swirskii, E. and N. Dorzia (1968) : Israel
J. Agric. Res. 18: 71〜75.
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