2015年3月6日に東京農業大学で開催された農薬部会での元農林水産省の研究者である
鈴木 芳人氏の講演サマリーです。
鈴木氏の講演だけですとサマライズしにくかったので、同じ分野での論文を書かれている日本曹達株式会社の山本敦司氏の論も参考にしました。
要約:
日本および世界での殺虫剤抵抗性が発達したトップ10の害虫種は、ナミハダニ(93種の薬剤で報告あり)、コナガ(81)、モモアカアブラムシ(73)、コロラドハムシ(51)、イエバエ(50)、タバココナジラミ(45)、リンゴハダニ(45)、チャバネゴキブリ(43)、オウシマダニ(43)、オオタバコガ(43)であった。
また世界での有機リン剤、ネオニコ剤、ピレスロイド剤の殺虫剤市場におけるシェアはそれぞれ26%、22%、18%であり、この3グループで66%を占めている。
ネオニコ剤は1992年に上市されたが、多くの抵抗性事例(346例)が示されており、近年はトビイロウンカとタバココナジラミの抵抗性が話題となっている。
フェニックス(フルベンジアミド)とプレバソン(クロラントラニリプロル)についてもタイのキャベツでのコナガ、日本のチャノコカクモンハマキでの抵抗性発達が報告されている。
抵抗性回避マネジメント
1)高薬量戦略 抵抗性Rと感受性Sのヘテロ遺伝子をもつ害虫を高濃度で処理し、抵抗性Rをもつ個体数を最小化する。(但しこの濃度は登録濃度の10倍以上であることがあり、現実的に利用できないケースも多い。)
2) 保護区戦略 感受性のSSホモの個体を増やすため、散布をしない保護区を設定する。これは遺伝子組み換え作物ではすでに実行されている。
ローテーション処理の有効性について
異なる作用機作を持つ薬剤を交互に使用することや、混用することは、抵抗性の発現の遅延に有効とされている。しかし、現実的には薬剤混用は一般的に害虫スペクトラムを広げるために行われることのほうが多いのが現状である。
作用機作の異なる薬剤のローテーションでは、通常 交差抵抗性注1は起こらないとされているが、複合抵抗性注2といって抵抗性が発現する場合がある。その理由として、共通の解毒代謝系をもつことがあげられる。
これはダニ剤、クロルフェナピルとエトキサゾール、ピリダベンとシエンピラフェンでも見られている。その他、ローテーションで問題になるのは、抵抗性遺伝子を持つ個体の繁殖能力低下(適応度コストという)を考慮していないことである。
またローテーション防除で使用可能な薬剤はさほど多くあるわけではない。
たとえば天敵への影響の少ない剤が限られている条件のなかでは、ローテーションは困難である。
抵抗性の種類が不完全劣勢であること、高薬量濃度が登録範囲内であることなどの考慮も必要である。この例としての成功例は、ヘキシチアゾクス(商品名
ニッソラン水和剤)がある。
最後に、抵抗性回避のために重要なことは、登録前、登録取得後、抵抗性発現のそれぞれの時期での抵抗性のモニタリング(調査)であり、早めに対処することが感受性の回復に役立つと考えられる。抵抗性は登録される以前の試験だけで発現することがあり、そのようなことがないように、試験中でも慎重に使用するべきであるという意味。登録された後、すなわち登録中で、抵抗性がどの程度発現しているかのモニタリング(調査)は必ずやるべきである。実際はさほどされておらず県や国の試験場が分散的に実施する程度。それをすべきという法的な規制もない。抵抗性が発現した時期においては、どの程度の抵抗性の強さで、どの地域、どの害虫で抵抗性が発現したかの調査と、しばらく使用を控える指導などが必要となる。
注1:交差抵抗性とは作用点がおなじ酵素などを阻害する殺虫剤の場合、一つの剤が効果がなくなったとき、別の剤でも作用点が同じ剤が効果がなくなってしまうこと。英語では
クロスレジスタンス。
注2:複合抵抗性:交差抵抗性以上に広い範囲、つまり、二つ以上の作用点でどちらかに変異が出た場合、もう一つの作用点に効果がある薬剤も効果がなくなるということ。あるいは、広い意味で複数の剤に抵抗性が生ずること。
要約者注: 難しい論文ですが、ただ単にローテーションをすればいいということではなく、モニタリングと感受性検定を常に実施したうえでプログラムを組まないと意味がないということであると理解しました。
要約および文責 和田哲夫