県では、こうした運動をさらに発展させるため「熊本県地下水と土を育む農業推進条例(仮称)」として、平成27年4月施行をめざしている。過って、昭和40年代後半、本県水稲作では、70%以上の作付面積を航空防除に頼るなど、化学農薬中心で農薬飛散もお構いなしといった時代があったが、今日の環境に優しい農業を理念とする本県グリーン農業の取り組みを見ると隔世の感がある。
本大会では、今後の我が国での農産物輸出戦略についての基調講演。現地視察では農村活性化の拠点となるファーマーズマーケットの取り組み等など例年にない企画もあったが、消費者に信頼される安全・安心で品質の高い農産物づくりが何よりも重要で、この生産技術の一つとしてIPMの普及が何より重要であることを確信したシンポジウムであった。
熊本県でも着実に歩み始めたIPM防除技術
熊本県は、トマト、スイカ、ナス、メロンなどを中心に、全国でも有数の施設園芸産地であり、IPMの普及・拡大が期待されているところである。しかし、本県では,これまでトマトやメロン類等で、コナジラミ類やアザミウマ類が媒介するウイルス病が多発し、この抜本的防除を図るため化学農薬への依存意識が高く、天敵や微生物殺虫剤等の生物農薬の利用があまり進んでこなかった。そのような中、今日、試験研究や普及指導機関などの総合的病害虫防除管理としての、IPM技術への研究開発や地域ぐるみの実証・普及活動が着実に進み、ナス・キュウリ・ピーマン・イチゴ作などの施設園芸作で定着し始めた。
今回、事例発表があった熊本市の促成ナスでも、アザミウマ類やコナジラミ類などへの生物防除として、タイリクヒメハナカメムシ、ククメリスカブリダニやスワルスキーカブリダニなどの天敵利用実証調査の試行錯誤を繰り返しながら、今日、物理的防除資材をと共にスワルスキーカブリダニと土着天敵であるタバコカスカメの秋放飼や微生物防除資材利用技術を確立し、組織ぐるみで取り組みが始まろうとしている。
また、この他、キュウリ作でも、県農業研究センターから普及に移すIPM技術が公表され、本県のキュウリの主要産地では、最近になって褐斑病耐病性品種、UVカットフィルム、スワルスキーカブリダニなどを組み合わせたIPM防除技術の利用面積が急速に拡大してきている。
さらに、イチゴ作でも秋からのナミハダニ防除のための、ミヤコカブリダニとチリカブリダニの同時放飼技術等も主要産地を中心に導入が進みだした。また、共通して、アブラムシ類の防除も懸案課題となっているが、促成栽培等を中心にコレマンアブラバチの利用も見られている。
ただ、本県の主要な園芸産地では、ハウスの利用体系としてスイカ、メロン、キュウリ作などが周年栽培され、難防除害虫を「入れない・出さない・増やさない」をモットーにした体系的なIPM技術の確立が課題となっている。トマト作でも、トマト黄化葉巻病耐病性品種の導入、微生物殺虫・殺菌剤による防除、UVカットフィルム、サイドネットの利用等も着実に普及してきているが、より防除効果を高めるための天敵利用としてタバコカスミカメによる防除技術の研究・開発・普及も現場からは期待されている。この他、果樹の分野でも、「ハウス加温不知火栽培でのミカンハダニ防除へのスワルスキーカブリダニの利用技術」も本県果樹研究所から公表され、主要産地でこの実証活動が始まっておりこの成果を大いに期待している。
今回、このシンポ・講演会を一つの契機として、熊本県内全域でのIPMへの関心の高まりと取り組みの機運醸成が一層図られたのではないかと思っている。
IPM防除技術での植物プロバイオティクスへの期待
今回、岐阜大学応用生物科学部・百町先生からの基調講演「生物防除研究の現状と展望」は、今後のIPM技術の研究・開発に貴重な提言をいただいたように思う。
というのも、現場での農家との生物防除談義の中で「害虫を減らしても病害の発生が抑えられない。病害防除は定期的な予防防除が不可欠」という課題がどうしても残る。施設園芸では共通的に、うどんこ病防除が長年の懸案課題である。発生を抑制させるための環境制御や草勢管理、化学農薬防除等まだ抜本的な解決には至っていない。
また、今年、本県では8月から9月にかけての天候不順により、促成作の圃場準備段階で太陽熱消毒等が不十分となり、この結果、収穫初期から青枯れ病が発生し、農家はホトホト困っているものの特効的な対策がないのが現状である。
先生のお話では、植物バイオプロティクスとは、植物の生育を促進すると共に内生性の病気を防ぐためバイオフィルムを形成させる有用微生物とのこと。これら有用微生物である植物生育促進菌類(PGPF)は、その植物に定着することで病原菌の感染を抑え病気を防ぐ役目を果たす。こうした、PGPFの特性を持つ多くの菌類の実用化が進むことにより、生物防除の急速な進展が図られるのではとその思いに胸ふくらませたところである。