4.Metarhizium属糸状菌の新機能
今まで昆虫を対象として研究されてきた昆虫病原性糸状菌の多くが、植物のエンドファイトとして機能していることが次々と明らかになってきた。
Metarhizium属糸状菌は植物の根圏に生息しており、同時に昆虫に病原性を有している。
Metarhizium属糸状菌の分生子を植物の種子あるいは苗に処理した場合の効果については様々な報告があるが、それらは害虫への影響と植物の生育促進の二つに大別できる。
まず、害虫への影響であるが、オウシュウトウヒの苗に処理した場合、根圏においてM.
anisopliaeは増殖し長期間にわたってキンケクチブトゾウムシをコントロールする。
M. anisopliae 分生子をトウモロコシの種に処理した場合、処理区(9.6MT/ha)の収量が無処理区(7.6MT/ha)より大幅に増加した。これは、トウモロコシの害虫であるハリガネムシをコントロールできた結果と考えられる。
セイヨウアブラナの第4葉に処理した場合、処理しない葉、葉柄および茎よりM. anisopliaeが再分離され、処理しない葉におけるコナガが有意に死亡した。
ソラマメの種子に処理した場合、エンドウヒゲナガアブラムシの増殖が有意に低下した。
つぎに、植物への影響であるがM. anisopliae分生子をトマト苗(播種後14日)に処理した場合、根などに成長促進が認められ、根およびシュートなどから再分離される。
土壌にM. anisopliae菌糸を混和して大豆を生育させたところ生育が早まり、塩類ストレス条件下ではその効果が一層顕著に認められる。
スイッチグラスの根にM. roberstii分生子を処理すると根毛が著しく促進される。
最近の研究では、Metarhizium属糸状菌は植物のエンドファイト(編集部注:植物内生菌)あるいは植物病原菌から進化したものと推定されている。昆虫への病原性に関連した遺伝子をどのように獲得してきたかに興味がもたれる。
M. anisopliaeは広範囲の昆虫に病原性を有するが、M. acridumはサバクトビバッタに特異性がある。昆虫のクチクラの分解に関与するトリプシンの両者の遺伝子数は、それぞれ32個と17個で、2倍程度の差があり、他の糸状菌と比較すると6~10倍多く遺伝子を有している。このことから、昆虫への病原性に関与する遺伝子数を増加させているのもその理由の一つであると推定されている
。
5. おわりに
Metarhizium属糸状菌のエンドファイトとしての研究は少なく、始まったばかりと言うことができる。しかし、Metarhizium属糸状菌は根圏に高密度で生息することから応用価値は高いものと考えられる。例えば、種子に様々な微生物を処理し、根圏微生物相を操作して植物の病気を防除する技術はすでに実用化されているが、その対象に害虫を加えた病害虫防除剤の素材としてMetarhizium属糸状菌が仲間入りすることも比較的早く実現でき、
新しい病害虫の微生物的防除法の確立に寄与できるものと考えられる。
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