アリスタIPM通信 天敵(スパイカルEXとスパイデックス)を利用したイチゴ親株床(ハウス)のハダニ防除について
 
 
天敵(スパイカルEXとスパイデックス)を利用した
イチゴ親株床(ハウス)のハダニ防除について
 
近年、促成イチゴのハダニ対策として、天敵スパイカルEXとスパイデックスを利用した防除方法が広がっています。特にここ数年で、以前は難しかった暖候期のハダニ防除も、天敵を圃場に十分定着させることで安定した防除効果を得られることがわかってきました。これにより薬剤散布回数を削減できることから省力化や、授粉昆虫であるミツバチへの薬剤負荷の軽減等を実現することができました。さらに、天敵利用者の増加に伴い理解が深まってきたことで、天敵の特性を活かしたイチゴでの新たな使用場面が模索・展開され始めています。

今回は最新事例として、イチゴの親株床での天敵利用技術について紹介いたします。

弊社がイチゴの親株床~育苗期の天敵利用に取り組み始めたのは3年前になります。当時、栃木県のある農協のイチゴ育苗担当者からハダニ防除に天敵を利用したいとのご相談を受けました。

ハダニの薬剤抵抗性獲得を避けるために防除効果の高い薬剤をなるべく使用しない取り決めがあり、生産者に配布する苗のハダニを防除しきれないことが理由でした。多少コストをかけてもハダニ防除を優先的に行いたいということでしたので、2週間毎にスパイカルEXとスパイデックスを放飼したところ、ハダニは数ヶ所発生しましたが、その後天敵の働きにより殆ど発生が見られなくなりました。無事に健全な苗を生産者に配布することができ、大変好評でした。
その後、栃木県内のウィルスフリー苗の育苗を中心に使用場面が増え、生産者からも自分の育苗床で使用したいという問い合わせが増えるようになりました。そこで、本格的な技術確立を目的とした現地試験を行ったところ、天敵放飼時期のハダニ密度が少なければ、親株300~500株当りスパイデックス2000頭を2~4週間毎に放飼することで高い効果が得られました(図1)。
また、現地試験を通して得られた結果をまとめました。

天敵(スパイカルEXとスパイデックス)を利用したイチゴ親株床(ハウス)のハダニ防除について

◆導入メリット
・高いハダニ防除効果が得られる
・育苗期に天敵に影響の少ない農薬を温存できるため、薬剤抵抗性が付きにくくなる

◆利用方法
1.天敵導入前にハダニを徹底防除しておく
(放飼2週間前のコロマイト、放飼直前にマイトコーネorスターマイトorダニサラバは必須)
2.親株300~500株当りスパイデックスを1~2本放飼
3.2週間後に親株1000株当りスパイデックスを1~2本放飼
4.ハダニの減少が見られたら1ヵ月後に親株1000株当りスパイデックスを1本、ハダニが減少しない場合は、選択性殺ダニ剤を散布して2週間毎にスパイデックスを追加放飼。

◆成功のポイント
・ハダニが確認できなくても、スパイデックスを継続的に放飼すること。定期的に放飼し、目に見えないハダニ増殖予備軍や、外から侵入してくるハダニを防除することが重要。
・スパイカルプラス(右写真)を併用するとより効果的。ハダニ発生 前に設置し、その後ハダニが発生したら天敵に影響の少ない殺ダニ剤を散布してスパイデックスを追加放飼。
・天敵に影響が強い農薬は使用しない。

天敵(スパイカルEXとスパイデックス)を利用したイチゴ親株床(ハウス)のハダニ防除について
 
◆天敵利用時の注意点
・特に炭疽病の予防を定期的に行う。アントラコールは天敵に影響があるが残効は短いため(約7日)、散布後にスパイデックスを追加放飼する。
・育苗期に放飼した天敵を本圃まで持ち越すのは非常に困難なため、定植後に再度天敵を放飼する。(以下に理由を示します)

1. 多潅水により天敵が定着・増殖しにくい
2. 餌不足による天敵のハウス外への移動
3. 定植時の粒剤の影響
4. 天敵に影響が少ない農薬のみで、ランナー切り離し後から栽培期間を乗り切るのは非常に困難。開花後に天敵を放飼するまでは、天敵に影響がある農薬を優先的に使用して、天敵に影響が少ない農薬は温存する

また、育苗期に天敵でハダニを抑えられていると、定植後のハダニ防除がおろそかになる例が見られました。その結果、天敵導入前にハダニが増殖し本圃でのハダニ防除に失敗する可能性が高くなります。まずは天敵の利用は親株床のみに限定にし、ランナー切り離し後は化学農薬を利用した通常の防除に切り替えて、炭疽病とハダニを中心とした定期的な薬剤防除をお願いいたします。

イチゴ親株床での天敵利用は始まったばかりですが成功を重ねており、ハダニの薬剤抵抗性の問題が年々深刻な問題となる中、今後さらにこの技術が広がっていくと考えられます。天敵の利用がハダニ防除の一助となり、皆様のイチゴ栽培のお役に立てれば幸いです。
 
 
 
※2013年7月29日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。