アリスタIPM通信 ハウスミカンにおけるIPMプログラム ~愛知県蒲郡市の実証試験より~
 
 
ハウスミカンにおけるIPMプログラム
~愛知県蒲郡市の実証試験より~
 

2011年11月30日にスワルスキーのパック製剤であるスワルスキープラスの農薬登録が取得されました。これまでにスワルスキーカブリダニのミカンハダニに対する効果が高いことから、ハウスカンキツでの実証圃試験を実施してまいりましたが、昨年はパック製剤の登録が取得されたこともあり、本製剤を用いて生産現場を中心に多くの試験を実施することができました。

今回はそれらの試験の中から愛知県JA蒲郡市での試験結果について紹介致します。
本試験は、愛知県農業総合試験場広域指導室、東三河農業普及指導センターとJA蒲郡市が共同して  (社)全国農業改良普及支援協会・全国農業システム化事業で2012年から3か年をかけて取り組んでいる「ハウスミカンにおけるIPMプログラム」実証試験の結果の一部であり、『技術と普及』2013年1月号(発行:(社)全国農業改良普及支援協会)に掲載された内容です。

愛知県蒲郡市は本州のほぼ中心に位置し、渥美半島と知多半島に囲まれた温暖な気候の海辺の街で、沿岸一帯が三河湾国定公園に指定されています。また、温暖な気候を活かしたフルーツ栽培がさかんで、特に「蒲郡みかん」の生産では日本国内で有名で、温室栽培の「蒲郡温室みかん」の出荷量は全国屈指であります。(Wikipediaより抜粋)
JA蒲郡市には温室みかん生産者が146名おり、栽培面積は約40haを超えており、防除技術についてもJAの指導のもと、防虫ネットや循環扇など物理的防除資材の積極的な推進、減農薬への取り組みを推進されています。

今回の実証試験では、11月以降の加温開始より5月中旬のハウスの側窓開放までの期間の殺ダニ剤防除回数の削減を目的とした、様々な作物におけるIPMプログラムと同様に、天敵放飼前にミカンハダニの密度をできるだけ少なくする(ゼロ放飼)ためにJA蒲郡市で推奨しているマシン油とダニカット乳剤の散布を開花期に行いました。

スワルスキープラスを使用するに当たっては有効成分のスワルスキーカブリダニ(以下:スワルスキー)に影響の少ない薬剤を使用していくことになりますが、ダニカット乳剤はしばらくの間、スワルスキーに影響が出ると予測できたので、この開花期のマシン油とダニカット乳剤の散布30日後以降にスワルスキープラスを放飼することとしました。また、ちょうどこの頃に薬剤の残効が切れ始め、ミカンハダニの発生が増えてくるため、天敵放飼に適している時期と考えました。

実施圃場は4か所で、11月下旬~12月上旬に加温を開始したハウスです。満開期は12月下旬から1月中旬、マシン油+ダニカット乳剤の散布は満開期に合わせて12月下旬から1月中旬までに実施されました。スワルスキープラスの設置はいずれも2月17日で、開花から30~55日経過しての放飼となりました。調査は放飼日の2月17日から5月中旬までほぼ1週間ごとにミカン葉上に寄生するミカンハダニとスワルスキーを計数しています。

結果として、いずれの圃場もマシン油散布から調査終了の5月中旬まで殺ダニ剤の散布は実施せずにすみました。 前述のように本実証試験ではハウスの側窓を開放する前までの減農薬効果の実証としています。これは側窓を開放するとアザミウマ類の成虫の飛び込みが激しくなり、ミカンハダニ防除主体からアザミウマ類の防除を主体に切り替えていくこと、またその場合にはスワルスキーに影響が少ない薬剤だけではアザミウマ類による被害を抑えきれないと考えているためです。

以下に(社)全国農業改良普及支援協会・全国農業システム化事業成績検討会でまとめられた試験成績を掲載致します。

ハウスミカンにおけるIPMプログラム ~愛知県蒲郡市の実証試験より~
 
ハウスミカンにおけるIPMプログラム ~愛知県蒲郡市の実証試験より~
 
実証試験4圃場ともスワルスキーは放飼後から徐々にミカン葉上で定着が確認され、ミカンハダニの密度を低く抑えることがわかりました。通常であれば開花期のマシン油散布から2か月後(3月中旬頃)にはミカンハダニが増加し始めるため、5月中旬までに1~2回の殺ダニ剤散布が必要ですが、試験期間中殺ダニ剤散布を必要としなかったということはスワルスキープラスを利用したIPMプログラムがある程度実証できたと考察できます。

本実証試験から、スワルスキープラスをハウスミカンで上手に使用するポイントとしては、本製剤の設置前に有効な殺ダニ剤を利用しミカンハダニの密度を下げて、その影響がなくなる時期にスワルスキープラスを設置することが重要であると考えられます。現時点では側窓開放後はアザミウマ類中心の通常防除となりますが、今後のハウスミカンにおけるIPMプログラムの技術確立に向けての課題としては、物理的防除による5月中旬以降の側窓開放後のアザミウマ類の侵入の抑制、スワルスキーに影響の少ない薬剤の利用などを検討して収穫終了までにより軽労化を図る手段を検討していくことだと考えています。

試験実施に当たって、放飼直後はスワルスキーの密度が低く、見つけにくいという声が聞かれました。ある地域では叩き落とし法(枝を軽く10回ほど叩いて黒色板の上に落とす)が有効ではないかという意見も出ていますが、今後はミカン樹上で簡便にスワルスキーを見つける方法を考えていきたいと思います。
 
 
 
 
※2013年2月28日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。