アリスタIPM通信 スワルスキープラスを利用したハウスマンゴーでのチャノキイロアザミウマ防除
 
 
スワルスキープラスを利用したハウスマンゴーでのチャノキイロアザミウマ防除
 

マンゴーは近年非常に人気の高い果物ですが、このマンゴー栽培でもっとも問題になっている害虫がチャノキイロアザミウマ(以下チャノキ)です。

新梢や新葉、幼果等に発生し、高密度に寄生した場合は新梢の褐変・萎縮や落葉を引き起こし、幼果が加害されると果実表面が象皮状となり商品価値の低下を招きます。近年は農薬に対する抵抗性の発達が著しく、またマンゴーでは開花期に受粉昆虫を導入するため殺虫剤の使用が制限されることが問題となっています。

 
写真1. チャノキイロアザミウマ成虫を捕食 するスワルスキーカブリダニ (提供:鹿児島県農業開発総合センター)   スワルスキーカブリダニ(以下スワルスキー)については、これまで主に野菜類のミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ対象で使用されることが多かったのですが、海外ではチャノキにも防除効果があるとの報告があり、国内においても日本植物防疫協会を通じた公的機関の試験によってマンゴーのチャノキに対する防除効果を確認し、2010年に適用拡大されています。
スワルスキーによるマンゴーのチャノキの防除試験は、主に鹿児島県や宮崎県の現地圃場でも実施され、一部では防除暦にも採用され、スワルスキーを利用したIPMプログラムが確立されてきています。
写真1. チャノキイロアザミウマ成虫を捕食 するスワルスキーカブリダニ
(提供:鹿児島県農業開発総合センター)

 
 
スワルスキーがマンゴーに適用拡大された当初、スワルスキーはボトル製剤しかありませんでしたので、放飼は直接マンゴーの葉に振りかけたり、コーヒーフィルターに砂糖とビール酵母と増量剤のフスマを入れて、これにスワルスキーを1~2振り投入したものをホチキスでマンゴーの枝に設置するというやり方で試験されていました。
しかし直接放飼は定着性が不安定で複数回放飼する必要があり、一方のコーヒーフィルター法は放飼に非常に手間がかかるという問題がありました。そこで今回は、より省力的で効果も安定しているパック製剤「スワルスキープラス」のマンゴーでの利用方法を紹介いたします。
 

スワルスキープラスはスワルスキーの吊り下げ型パック製剤です。2011年11月30日に新たな製剤として新規農薬登録されています。商品の形態としては、スワルスキーカブリダニと餌のサトウダニ、ふすまを小さな紙製のパックの中に入れたものが100個ずつ紙袋に入っています。スワルスキープラスのパックには小さな放出口があけられており、内部で増殖したカブリダニが数日から数週間かけて、少しずつ外部へと這い出てきます(図1)。

スワルスキーのパックから植物体への移動
 
また、吊り下げた枝から他の枝への移動にも日数がかかります(図2)。したがって、これまでのボトル製剤の葉上放飼と比較すると放飼直後の立ち上がりが遅いため早めの放飼を心がける必要があります。
スワルスキープラスから作物へのスワルスキーの分散イメージ
 
 
スワルスキープラスの使用量ですが、登録では1パック/樹となっています。ただ、小さな幼木はともかく、成木ではこの放飼量では足りません。樹の大きさに合わせて追加放飼し、2~4パック/樹となるように放飼量を調整します。追加放飼を含めた総合的な放飼量の目安は10aで200パックです。パックは直射日光が当たらないよう葉の陰の枝に設置してください(写真2)。
スワルスキープラスのマンゴー設置図
 
また、スワルスキープラスを使用する場合は放飼時期が非常に重要になってきます。ボトル製剤で試験をしていたころは主に開花初期と満開期の2回に分けて放飼を行っていましたが、スワルスキープラスでは前述のようにスワルスキーがパックから樹全体に広がるのに時間がかかるため、より早い時期に放飼してやる必要があります。目安としては花芽の萌芽期~花穂伸長期が放飼時期となります。表2に加温栽培マンゴーにおけるスワルスキープラスの放飼時期を示しました。加温栽培では最低夜温が14℃以上になった時点でスワルスキープラスを導入することが出来ます。無加温栽培でも放飼時期は、萌芽期~花穂伸長期となります。この時期にしっかり定着させてやれば、開花期以降に追加放飼をする必要はありません。

なお、夏から秋の新梢期のチャノキに対するスワルスキープラスの利用についての要望も多いのですが、この時期にスワルスキーを使用すると、カイガラムシ防除を徹底することが出来ず、着果期にカイガラムシが発生してしまうことが報告されていますので、夏~秋の新梢期は化学殺虫剤やボタニガードESを中心とした防除とし、開花期にスワルスキープラスを利用してください。
 
表2. マンゴーの開花期におけるスワルスキープラスの放飼時期 (アリスタ ライフサイエンス作成)
 
これまでの試験結果から、スワルスキーの導入前からチャノキが散見される状況では防除効果が安定しないことがわかっています。秋期にしっかりと防除を行い、チャノキノ密度をしっかり下げておく必要がありますが、スワルスキーに長期に影響する剤(スプラサイド、アーデント)の利用はなるべく避け、コテツやスピノエース、ボタニガードESなどを利用してください。また、殺菌剤においてもジマンダイセンは長期に影響が残るので、この時期の炭そ病防除にはオーソサイドなど影響の少ない殺菌剤をご利用ください。また、着果以降に出てくる新梢についてはチャノキの発生源になるのでこまめに取り除く必要があります。新梢でのチャノキの増殖は非常に早く、スワルスキーの効果が追いつかないことがありますので、もしチャノキが増えてしまった場合はスワルスキーに影響が少ないネオニコチノイド系薬剤で防除してください。

また、新梢はアブラムシなどの発生源にもなりますが、マンゴーではアブラムシに登録がある薬剤が非常に少ないのでネオニコチノイド系薬剤でアザミウマと同時防除してください。カイガラムシが発生した場合も同様です。また、ハダニ類も発生することがありますがスワルスキーに影響の少ないカネマイトフロアブルを使用し、サンマイトやピラニカはスワルスキーの放飼前から使用しないようにしてください。チョウ目害虫対策には交信かく乱剤の利用が有効でスワルスキーにも影響がありません。BT剤やロムダンフロアブルも利用できます。
殺菌剤についてはジマンダイセン以外の薬剤はほとんど問題なく使用できます。オーソサイドについては果実に薬害が生じることがありますので、開花期より前の時期に使用してください。

なおスワルスキーの定着・効果の確認についてですが、スワルスキーはカブリダニの中では比較的見つけやすい種類なので、注意深く探すことで葉の裏を動き回っている様子を観察することができます。しかし、マンゴーでのスワルスキーはピーマンなどの野菜類に比べれば定着数はあまり多くないので、探してもなかなか見つからないこともあります。チャノキが少ない時期に放飼してチャノキを低密度のまま抑えている場合はスワルスキーもあまり増えず、観察による定着は難しいので、チャノキによる幼果被害の有無を効果確認の手段としてください。

対象病害虫
スワルスキー放飼後に使用できる薬剤
アザミウマ類
・アルバリン、スタークル
・アクタラ、ダントツ、アドマイヤー、モスピラン (若干の影響あり)
アブラムシ類
上記のアザミウマ剤で同時防除  (新梢へのスポット処理でもよい)
カイガラムシ類
上記のアザミウマ剤で同時防除  (夏~秋に徹底防除しておくことが重要)
ダニ類
・カネマイト
・マイトコーネ (若干の影響あり)
チョウ目
(ハマキ、ヨトウ、ドクガ類)
ロムダン、BT剤  (ゼンターリ、デルフィン、クォークなど)
交信かく乱剤(ヨトウコン、ハマキコン、コンフューザー)
病害
アミスター、オーソサイド、ストロビー、スミレックス、トリフミン、フルピカ、
ベルクート、ロブラール、銅剤、ボトキラー
表3.スワルスキー放飼後に使用できる農薬(アリスタ ライフサイエンス作成)
 
 
【マンゴー開花期の利用ポイント(まとめ)】
処理量は10aあたり200パックが目安。追加放飼してパックを1樹あたり2~4ヶ所の枝にかける。
放飼適期は出蕾~花穂伸長期(この時期より遅いと失敗しやすい)
加温栽培では最低夜温が14℃以上になったらすぐ導入する
影響が長く残るジマンダイセン、アーデント、スプラサイド、サンマイト、ピラニカを放飼前に使用しない(使用していた場合は2ヶ月以上空ける)
天敵を放飼した後は影響の少ない農薬を使用する
開花期以外はボタニガードESを利用
 
 
スワルスキーのマンゴーでの利用は始まったばかりですが、一部の地域では防除暦にも採用され、今後も利用は広がっていくものと思われます。チャノキの薬剤抵抗性の問題はマンゴー以外の作物でも報告されており、今後も頻発してくると考えられます。このような問題を解決するために、より効果的なマンゴーのIPM防除体系を確立できるよう皆様のご協力を今後ともお願いいたします。
 
 
 
※2012年11月27日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。