スワルスキーカブリダニとの出会い
鹿本地域はじめ県内の施設園芸地帯では、タバココナジラミによる退緑黄化症やアザミウマによる黄化えそ症などが発生し、収量や品質にも影響を与えるなど大きな問題となっており、県の防除指針などをもとに地域ぐるみで頑張っていますが防除が難しいのが現状です。
我が家では、アールスメロンを植替え方式で周年3作栽培しており、害虫の侵入を防ぐための0.4ミリ目の防虫ネット、循環扇などを装備し「入れない、出さない、増やさない」の工夫をしていますが、周年栽培のため害虫が途絶えることがありません。
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西岡 裕治さん
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特に春夏作(5月定植・8月収穫)と秋冬作(9月上旬定植・12月上旬収穫)では、コナジラミ類やアザミウマ類が多発し、化学農薬でも十分な防除ができず退緑黄化症なども発生し、収穫前になるとコナジラミが口や鼻に入るくらい蔓延するなどホトホト困っていました。 近年、県内でもIPM防除について徐々に関心が寄せられ、管内でも「JA鹿本・植木大長ナス部会」では スワルスキーカブリダニが組織ぐるみで利用され、私もメロン栽培に天敵が使えないかと相談したところ、農業普及・振興課やJAからの指導、アリスタさんからの協力などを得て、本格的な実証調査に取り組むことができました。
本当に効果があるの・半信半疑の思い
実証調査は秋冬作から実施し、9月5日定植後天敵放飼前のリセット防除をしながら9月27日に スワルスキーカブリダニをボトル換算で3本/10a(約550株に1本)を放飼。また、放飼前の防除には微生物殺虫剤 ボタニガードES を利用し、ハウス内には害虫誘殺用に粘着板 ホリバー ブルー・イエロー 各100枚/10a を吊り下げました。葉の表に一株一株ほんの少しずつ振りかけるだけで「本当に効果があるの?天敵は増えるのかな」と半分信じられない思いもありました。
その後、2週間間隔で害虫や天敵密度調査をしてもらいましたが、途中でコナジラミ類が増え(1頭/葉程度) ベストガードを1回散布。収穫前には、コナジラミ・アザミウマ類は殆ど見えず、収穫前の葉も実にいきいきと緑がきれいで、スワルスキーカブリダニも1葉に4頭程度定着しているなど防除効果を確認することができました。
慣行防除ハウスでも比較のため収穫前に害虫密度を調査しましたが、アザミウマ類の幼虫が13頭/葉、 コナジラミ類の幼虫が5頭/葉と相変わらず多く、化学農薬中心の防除法の限界を実感したところです。
またスワルスキーには、ボトル剤とプラス剤(パック式で徐放性)があり、両者比較してみましたが、いずれも同様に増殖したと感じています。
農薬使用が少なくなり別の病害虫で思わぬピンチ
天敵放飼後、思わぬピンチがやってきました。天敵放飼ハウスでは、これまでの農薬散布と違い定植時の薬剤処理と微生物殺虫剤のみしか利用しなかったことから、思ってもいなかったチャノホコリダニやうどんこ病が発生し防除に苦労しました。
チャノホコリダニには殺ダニ剤を3回ほど散布し抑えることができましたが、新たな薬剤散布が必要となりました。
ただ、うどんこ病には従来、硫黄粉剤を利用していましたが、天敵に影響があるということで別の薬剤を散布してみてもなかなか防除できませんでした。このため天敵が減ることを覚悟のうえで、硫黄粉剤を2回散布し思わぬピンチを切り抜けることができました。その結果「スワルスキーカブリダニは減ったのか」と心配しておりましたが元気に動き回っており、密度が高くなれば、あまり心配しないでも良いのではと思ったところです。
今後三つの課題を試行しながら本格的導入を
今回の実証調査で、メロン栽培での天敵利用について効果が確認できましたが、私自身いくつかの課題について、今後試行しながら本格的に利用できればと考えています。
まず一つは天敵放飼前の防除の仕方です。予想しなかったホコリダニの発生などにも対応するため、微生物殺虫剤と化学農薬混用防除。また、うどんこ病についても抵抗性品種の利用や硫黄粉剤による予防防除を徹底したいと思っています。
二つめは、周年3作で3回とも天敵放飼が必要かということです。今回、冬春作(1月上旬定植・5月収穫)でも 調査しましたが、害虫の発生はほとんど見られず、殺虫剤の利用は定植時の苗処理のみで、栽培期間中殺虫剤の散布をしなくて済みました。
この要因は、前作での防除効果が高く害虫密度を低く抑えることができたことと、冬期で害虫の外からの飛込みもなかったことにあるではと思っています。 また、この期間中、スワルスキーカブリダニの密度も低くあまり増加も見られないことから、この作型では慣行防除でも良いのではとも思っております。
三つめは放飼量の問題です。メロンの立体栽培の場合、10aあたりの栽植本数は、1,600本以上で標準のボトル 2本/10aでは少ないと、3本/10a*(約550本に1本利用)の放飼をしましたが、コスト面からも標準の放飼量で防除効果を実証する必要があります。
いずれにしても今後、人にも環境にも優しいIPM防除技術は不可欠と考えており、これからも関係指導機関の協力を得て、我が家でも本格的な導入を進めながらJA鹿本地域全体に大いにアピールしたいと考えています。農業の抱える大きな問題の一つとして後継者不足があります。若者が就職先を決める動機として主に「経済的な利点」や「やりがい」が挙げられます。我々は農業をこれらを満たすような事業にできるようなソリューションを構築し、より若者が農業に入ってきやすいような環境作りをしたいと考えています。
*適用("標準”)は「250~500ml/10a(約25,000~50,000頭/10a)」、すなわち1~2本/10aとなりますが、天敵であり使用回数の制限はありません。
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