茨城県におけるレンコンの病害虫防除

長塚 久

- 農薬ガイドNo.99/F (2001.7.31) -

1.はじめに

 茨城県では、約1,600haの面積でレンコンが栽培されている。霞ヶ浦や北浦などの湖沼に面する町村が主な産地で、露地栽培を主体に、ハウス栽培やトンネル栽培が行なわれている(第1図)。レンコンは高温性の作物で、平均気温15℃以上の日が6ヵ月以上ある地帯が適地とされ、茨城県が北限である。そのため、水温や地温を保つための水管理の必要性と腐敗病対策から、レンコン田は常時湛水状態に維持されている。
 レンコン栽培では各種の病害虫が発生するが、湛水状態のレンコン田内に入って薬剤散布をすることは困難である。植付時にはレンコン田に入って薬剤処理ができるが、その後は薬剤散布を畦畔から行なわなければならず、使用できる薬剤も制限される。そこで、茨城県のレンコン栽培における主な病害虫の発生生態とその防除対策について紹介する。)

第1図 茨城県におけるレンコンの作型

▲レンコンの栽培状況

2.レンコンに発生する病害虫の発生生態

 レンコン栽培では、地下部の根茎を加害し、商品となるレンコンに直接の被害を与えるイネネクイハムシや腐敗病など、また地上部の葉または葉柄を加害し、地下部の根茎の生育に影響を及ぼす間接的な被害を与えるクワイクビレアブラムシ、褐斑病、褐紋病などの病害虫が問題となる。

1)クワイクビレアブラムシ

 体長が2mm前後で、暗赤褐色または暗緑褐色のアブラムシである。夏季はハス、スイレン、クワイ、オモダカなどに寄生し、冬期はバラ科のウメ、モモ、スモモ、サクラなどに寄生する。卵で越冬し、春期になると卵からふ化した幼虫が新梢や葉裏で増殖する。3月~4月頃、高密度状態になると有翅虫が発生して、水辺の水生植物へ移動する。レンコン田へは5月頃から侵入し、レンコンの茎葉や雑草に寄生して、10月頃まで生息しているが、加害のピークは5月~6月である。
 被害は主に吸汁加害で、生育初期に加害されると、葉は正常に展開できずに変形する。また、展開した葉では、吸汁加害された部位が弱くなり、風で葉は破れやすく、葉柄は折れやすくなる。葉や葉柄が破損すると、地下部のレンコンの生育が阻害される。

▲ クワイクビレアブラムシ(左)と寄生状況(右)

▲ クワイクビレアブラムシの被害(葉の変形と茎折れ)

2)イネネクイハムシ

 成虫は、体長が6mm程度の細長いハムシで、金属光沢のある黒褐色をしている。卵は細長く、長さが0.5mmの乳白色で、ふ化直前では淡黄褐色になる。幼虫は白色のうじ虫で、老熟幼虫の体長は8mm程度。蛹は白色で、植物の根に固着したアズキ粒に似た繭の中にいる。年1回の発生で、幼虫がレンコン田や水田などの土壌中で越冬する。レンコンでは、根が伸び始める5月下旬頃から越冬幼虫が発根部に集まって根を食害する。6月上旬~下旬に繭を作って蛹になり、約1週間で成虫になる。6月下旬~7月中旬に成虫が現れ、レンコンの浮葉を表面から食害し、不規則な小さな穴をあける。しばらくすると成虫は、浮葉の裏側に卵を半月形に並べて卵塊として産み付ける。卵は約1週間でふ化し、水中に落下した幼虫はレンコンの根を食害して成長し、越冬する。
 レンコンでの被害は、主に幼虫による被害が大きい。特に、伸び始めた根が越冬幼虫によって食害されると、浮葉や立葉の数が少なくなり、葉も小さくなる。そのため、レンコンの生育が著しく阻害され、収量が少なくなる。商品となるレンコンも加害され、傷物が多くなり、さらに食害されたレンコンでは、腐敗病を併発することが多い。

3)腐敗病

 病原菌は土壌中のフザリウム菌またはピシウム菌である。6月下旬頃から発生し、梅雨明け後から被害が目立ってくる。特に、8月下旬に被害が最も多くなる。
 発病すると、葉の縁が淡褐色になり、しだいに葉の内側へと広がり、ついには葉全体が枯れ、葉柄も枯死して折れる。地下部のレンコンは褐色または黒色に腐敗するが、被害症状は、病原菌によって異なる。地下茎節部から生じた吸収根の先端から侵入するフザリウム菌による腐敗病では、淡褐色または暗褐色の腐敗症状が維管束から広がってくる。これに対して、レンコンの傷口から侵入するピシウム菌による腐敗病では、表層部の傷口から紫黒色または黒色の腐敗が広がってくる。

▲ 腐敗病による茎葉の被害

▲ フザリウム菌によるレンコンの腐敗症状

4)褐斑病

 病原菌は不完全菌類のコリネスポラ菌で、被害茎葉が伝染源となる。4月下旬頃から被害茎葉で越冬した菌の胞子が飛散し始め、高温多湿条件下で多発生する。早い年は6月中旬から発病するが、曇雨天が続いたあと、台風など強い風雨があると広域で大発生する。
 主に葉に発病し、はじめは葉の表面に暗褐色の小斑点ができ、のちに直径5~20mmのやや角張った褐色の病斑に拡大する。病斑は周辺部が黄緑色で、古くなると内部に輪紋を生じ、中央には淡褐色の中心部ができる。発病が激しい場合、葉が黄化し、枯死する。

5)褐紋病

 病原菌はアルタナリア菌で、被害葉などで越冬した菌が伝染源となる。
 葉に発生し、はじめは葉の表面に輪郭の明瞭な赤褐色または暗褐色の円形の小斑点ができる。病斑は葉の周縁部に多く形成され、しだいに拡大し、不明瞭な輪紋を生じる。梅雨明け後、葉が密生してくると発生が多くなり、多発生すると葉枯れを生じる。

▲ 褐紋病による被害

3.防除対策

 レンコン栽培では、腐敗病の防除が最も重要である。腐敗病が発生すると、商品となるレンコンに直接の被害を与えるだけでなく、その後のレンコン栽培にも大きな影響を及ぼす。フザリウム菌による腐敗病の発生防止では、レンコン田を常時湛水状態で管理し、できるかぎり土壌を乾燥させないようにしている。また、発病の多い場合、植付前にオーソサイド水和剤3~5㎏/10aを土壌に混和する。傷口から侵入するピシウム菌による腐敗病は、イネネクイハムシ幼虫によって加害されると発生が多くなる。そのため、植付時にエチルチオメトン粒剤の植溝処理を行ない、イネネクイハムシを防除し、ピシウム菌による腐敗病の発生を防止している。
 クワイクビレアブラムシ、褐斑病、褐紋病は、年や場所によって発生が変動する。そのため、発生状況に応じて、アブラムシではモノクロトホス粒剤、褐斑病ではチオファネートメチル粉剤を散布し、防除を行なっている。畦畔から散布するため、粉剤はレンコン田の中央部までは届きにくく、防除は十分とは言えない状況にある。また、モノクロトホス粒剤は製造中止になり、新たな粒剤が必要になっている。そこで、モノクロトホス粒剤と同様に、浸透移行性が大きいオルトラン粒剤の防除効果について検討した。その結果、生育期のオルトラン粒剤散布は、モノクロトホス粒剤とほぼ同等の効果があり、新たなアブラムシ防除剤として期待できることが認められた(第1表)。なお、レンコンの葉は薬害が発生しやすいため、葉に粒剤が付着すると褐変し、葉が破れやすくなるので、散布機の出力を最大にするなど、葉に付着しないように散布する必要がある。

試験場所 薬剤名 散布量 寄生程度
散布前 3日後 7日後 14日後
ほ場1 オルトラン粒剤 4kg/10a 26.3 14.3 5.1 14.6
モノクロトホス粒剤 4kg/10a 29.6 19.2 9.8 12.7
無散布   23.9 46.2 41.2 20.6
ほ場2 オルトラン粒剤 4kg/10a 21.3 13.4 1.9 13.8
モノクロトホス粒剤 4kg/10a 15.6 0.2 0.2 2.2
無散布   28.6 32.9 23.7 35.1

第1表 レンコンのクワイクビレアブラムシに対する防除効果(茨城園試)

(茨城県農業総合センター)