トマト葉かび病・灰色かび病の発生生態と
サルバトーレME・ボトキラー水和剤による防除
黒田 克利
- 農薬ガイドNo.99/A (2001.7.31) -
1.病害が発生する条件作物病害の発生には、原因となる病原(主因)、発病に適した温・湿度等の環境条件(誘引)、発病しやすい作物自身の性質(素因)の三つが関与し、これらが重なったときに発生しやすい。中でも、主因の病原は病害発生に最も大きく関与するため、病原を抑えることが病害防除に最も有効であると考えられる。 第1図 病害発生の条件 2.病原別に見たトマトの主要病害 作物病害の病原としては、糸状菌、細菌、ウイルスの三つがあげられる。
第1表 ウイルスによる病害
第2表 細菌による病害
第3表 糸状菌による病害 ▲トマト葉かび病 葉裏の病徴(左)と葉表の病徴(右) 3.トマト葉かび病
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系統 | 薬剤名 |
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ベンズイミダゾール系剤 | "ベノミル、チオファネートメチル" |
ジカルボキシイミド系剤 | "イプロジノン、プロシミドン" |
ポリオキシン剤 | ポリオキシン |
ジエトフェンカルブを含む剤 | "ジエトフェンカルブ・チオファネートメチル、ジエトフェンカルブ・プロシミドン" |
グアニジン剤 | イミノクタジンアルベシル酸塩 |
アニリノピリミジン系剤 | メパニピリム |
フェニルピロール系剤 | フルジオキソニル |
その他の化学合成剤 | "TPN、キャプタン、スルフェン酸系等" |
生物農薬 | ボトキラー |
第4表 トマト灰色かび病の防除薬剤のグループ分け
平成9年 | 平成10年 | 平成11年 |
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52.5 | 63.2 | 55.8 |
第5表 三重県におけるトマト灰色かび病菌の多剤耐性菌(RRR菌)の検出率(%)
5.サルバトーレME液剤の特長と使用法
1)有効成分
一般名 テトラコナゾール(製剤:11.6%液剤)
- サルバトーレMEはエルゴステロール生成阻害を特徴とするトリアゾール系の殺菌剤である。
藻菌類を除く多くの糸状菌は体内でエルゴステロールまたはその類縁のステロールを合成する。エルゴステロールは生体膜のリン脂質の二重層の間に存在し、細胞膜の強度や、透過性、各種の膜酵素の機能に重要な影響を与えている。エルゴステロールは生体内では、酢酸からメバロン酸、スクワレン等を経て合成されるが、この経路のいずれかの反応を特異的に阻害する一連の化合物群をエルゴステロール生成阻害剤という。化学構造から、トリアゾール系、イミダゾール系、ピリミジン系、ピペラジン系、ピリジン系、モルフォリン系などがある。
2)安全性および有用動物に対する影響
- 人畜毒性:普通物
- 魚毒性:B類相当
- 有用動物:ミツバチ、チリカブリダニ、オンシツツヤコバチに影響なし。マルハナバチ、カイコに影響極めて少ない。
- 薬害:テトラコナゾール剤はダイコン、アズキ、インゲンマメにかかると薬害を生じる恐れがあるので注意する(症状は不明)。
3)適用作物および適用病害
キュウリうどんこ病 | 3,000倍 |
トマト葉かび病 | 2,000~3,000倍 |
イチゴうどんこ病 | 2,000~3,000倍 |
カボチャうどんこ病 | 2,000~3,000倍 |
茶炭疽病 | 2,000倍 |
バラうどんこ病 | 3,000倍 |
タバコうどんこ病 | 3,000~4,000倍 |
リンゴ黒星病・赤星病・うどんこ病 | 3,000倍 |
ナシ黒星病・赤星病 | 3,000倍 |
4)剤の特徴
- 浸透移行性が高い
散布後速やかに作物の隅々まで有効成分が行きわたり、散布むらが少ない。 - 予防効果と治療効果
発病後の散布でも防除が可能である。 - 耐雨性がある
植物体内に速やかに浸透するため降雨の影響が少ない。 - 抗菌スペクトラムが広い
子のう菌類、担子菌類、不完全菌類に有効で、特にうどんこ病に卓効を示す。 - 低薬量の散布
EBI剤の特徴である。 - 取り扱いが楽である
液体製剤(ME)のため、薬剤調整が楽で、作物の汚れが少ない。
供試薬剤 | 希釈倍率 | 発病葉率(%) | 発病葉率(%) | 複葉当り病斑数 | 防除価 | 防除価 |
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サルバトーレME | 3,000倍 | 1.4 | 1.4 | 0.02 | 99.1 | 99.1 |
トリフミン水和剤 | 3,000倍 | 4.9 | 4.9 | 0.05 | 97.7 | 97.7 |
無処理 | - | 63.9 | 63.9 | 2.22 | - | - |
第6表 トマト葉かび病の防除試験例 (三重県:平成11年度日本植物防疫協会委託試験) |
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試験実施時期:4月下旬~5月下旬、品種:ハウス桃太郎、接種試験(分生子の噴霧接種)、初発時期散布開始、7日間隔3回散布、最終散布10日後調査 |
6.ボトキラー水和剤の特長と使用法
1)有効成分
細菌の一種、バチルス ズブチリスの芽胞(Bacillus subtilis:和名 枯草菌)・・・1×1011CFU/g
- バチルス ズブチリスの性質
バチルス ズブチリス菌は、自然界に普遍的に棲息する微生物である。植物体表面には多種類の微生物(葉面微生物:糸状菌、細菌、酵母等)が棲息している。一般的にはこれらの葉面微生物は、栄養物の摂取法から腐生菌、共生菌、寄生菌に分けられている。本菌は腐生菌に属し、植物組織の自然開口部、表皮細胞の窪み、毛じの基部等に棲息する。本菌はそこで、植物から分泌される代謝物、葉面で生活する昆虫の排泄物、花粉などを栄養物として利用しながら生存する。生存条件が悪くなると芽胞(硬い殻を持った耐久体)を作り環境に適応する。
2)安全性及び有用動物に対する影響
人畜に影響なし。天敵昆虫への影響なし。
3)適用作物および適用病害
トマト灰色かび病 | 1,000倍 |
ナス灰色かび病 | 1,000倍 |
イチゴうどんこ病・灰色かび病 | 1,000倍 |
4)作用機作
最も重要と思われる作用機作は、植物体表面での感染部位の獲得競合(棲息場所の奪い合い)であり、同時にそこで生じる栄養物の摂取競合(栄養物の奪い合い)である。灰色かび病菌の分生子の発芽抑制、発芽管伸長抑制を引き起こす。
5)剤の特徴
- 予防効果が主体
病原菌より先に植物に住み着いて後から来る病原菌を排除する。したがって、発病前~発病初期に使用する。
- 主な化学農薬と併用・混用が可能
ナス、トマト、イチゴに登録のある主な殺菌剤、殺虫剤と併用・混用散布が可能。ただし、有効成分の植物への定着に影響する場合があることから、混用しないほうがよい殺菌剤がある(該当例:キャプタン水和剤、マンゼブ水和剤、TPN水和剤、フェナリモル水和剤、スルフェン酸系水和剤)。 - 耐性菌に効果がある
ベンズイミダゾール系剤、ジカルボキシイミド系剤、ジエトフェンカルブを含む剤に耐性を示す多剤耐性菌(RRR菌)に対して防除効果がある。 - 化学農薬との体系防除が可能
散布間隔は7~10日で使用し、化学農薬との体系防除に組み入れることにより、化学農薬の使用回数を削減できる。 - 使用時期に注意が必要
バチルス ズブチリスの生育温度範囲が10~50℃であるため、低温条件では効果が発現されにくく、12~13℃以上の温度が確保できる条件で使用する。したがって、冬春トマトでは厳冬期の使用は避け、2月中旬以降の使用が効果的である。 - 保存性にすぐれる
有効成分の芽胞は乾燥に強く、常温で安定に生存する。有効期間は製造日から3年間。
年 度 | 供試薬剤 | 希釈倍率 | 発病果率 | 防除価 | 薬害 |
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7 | ボトキラー水和剤 | 500倍 | 16.70% | 47.3 | - |
1,000 | 20.1 | 36.6 | - | ||
イプロジオン水和剤 | 1,500 | 10.1 | 68.1 | - | |
無処理 | - | 31.7 | - | ||
8 | ボトキラー水和剤 | 500 | 5.5 | 60.4 | - |
1,000 | 6.4 | 54 | - | ||
イプロジオン水和剤 | 1,500 | 3 | 78.4 | - | |
無処理 | - | 13.9 | - |
第7表 トマト灰色かび病の防除試験例 |
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試験実施時期:平成7年度、8年度 2月下旬~3月下旬 品種:ハウス桃太郎、接種試験(罹病果のつり下げ)、発病初期散布開始、7日間隔3回散布、最終散布7日後調査 |
(三重県科学技術振興センター 農業技術センター)
参考資料
- 微生物農薬-環境保全型農業をめざして- 山田昌夫編著、全国農村教育協会
- 野菜の病害虫-診断と防除- 岸國平編、全国農村教育協会
- 日本植物病害大辞典 岸國平編、全国農村教育協会
- 日本植物防疫協会委託試験成績
- 農薬ハンドブック、日本植物防疫協会
- サルバトーレME技術資料