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はじめに ボトキラー水和剤は、ナス・トマトの灰色かび病に対する生物農薬として、本邦で初めて開発された微生物剤である。本剤は、納豆菌の仲間のbacillus subtilisの芽胞を有効成分とし、安全性が高い。作用機作は、植物体にあらかじめ先に住み着き、あとから来る灰色かび病菌の侵入を防御することによって、防除効果を発揮する。その効果は、既存の化学合成農薬とほぼ同等の効果を有するが、効果を最大限に引き出す、すなわち、微生物の活性を高めるためには、10~35゚Cの温度と水分(結露など)条件、そして予防的散布が必要不可欠である。また薬剤感受性菌および耐性菌の区別なく効果が認められる。ここでは、本剤の効果的な使い方について述べてみたい。
ナスおよびトマト灰色かび病に対するボトキラー水和剤の防除効果本剤は1994年から日本植物防疫協会の生物農薬委託連絡試験において、その実用性の検討がなされてきた。ナスの場合、試験例11件のボトキラー水和剤の平均防除価が56.2であったのに対して、対照の化学合成農薬散布の防除価は69.9であった。化学合成農薬に比べ効果はやや低いものの、無処理に比べ十分防除効果が認められ実用性があると判断された。また、トマトの場合、試験例26件のボトキラー水和剤の平均防除価は43.1、対照が60であった。トマトも防除価がナスよりやや低い原因については、作物の形態的な特性とBacillus菌の定着および増殖の関係が、ナスの場合よりやや不適であったと推察される。しかしながら、ボトキラー水和剤は両作物の灰色かび病に対して、化学合成農薬に比肩する実用性が認められた。
第1図、2図に、ナスおよびトマトの灰色かび病に対するボトキラー水和剤の処理開始時期と防除効果の関係を示した。作型や作物のステージ、散布液の調整法がやや異なるが、灰色かび病の発生時期を考慮すると、ナスでは3月下旬から5月下旬がもっとも効果の発揮されやすい散布時期であることがわかる。またトマトでも3月下旬以降が使用適期であり、気温の上昇に伴い効果も高くなる傾向が認められる。しかし、10月以降は気温の低下とともに防除効果が低くなる。このことは有効成分であるBacillus菌の活性が低下する温度域と一致している。厳寒期の散布は効果があまり期待できないだけでなく、薬剤散布によって施設内の湿度を高め、逆に灰色かび病の発生を助長しかねない。このような低温期の防除は化学合成農薬の利用を優先し、Bacillus菌が十分活動できる気象条件になってから、ボトキラー水和剤の使用を開始することが望ましいと考えられる。
ボトキラー水和剤を組み入れた体系散布によるナス灰色かび病の防除無加温半促成栽培ナスにおいて、ボトキラー水和剤を用いた灰色かび病の体系防除を検討した。散布スケジュールは第1表に示した。1996年から1999年にかけて4回試験を実施し、慣行9回散布に対してボトキラー水和剤の体系処理区(以下、体系区)では化学農薬の使用を6回削減し、代わりにボトキラー水和剤を散布した。年次により灰色かび病の発生程度は異なるが、試験期間中の体系区の平均発病果率は、慣行と比較して同程度であり(第1表)、化学農薬の使用回数を慣行の3分の1に削減しても十分防除効果が得られた。また、灰色かび病菌の薬剤毎の耐性菌の割合をみると、ベノミル(またはチオファネートメチル)耐性菌の割合は、慣行散布区に比べ体系区で低く、プロシミドン耐性菌についても体系区で低く抑えられた(第3図)。これは化学農薬の代替にボトキラー水和剤を用いたことにより、薬剤の淘汰圧が低減したことと、ボトキラー自体が耐性菌に対して有効に働いたことにより、体系区で耐性菌の発生が抑制され、慣行散布に比べて耐性菌の割合も低くなったと考えられる。耐性菌が少なければ、それだけ化学農薬が効きやすくなるわけで、ボトキラー水和剤の体系散布は、灰色かび病防除を難防除から易防除へ導くことができると考えられる。
おわりにボトキラー水和剤を主体にして化学農薬を補助的に使用する体系により、慣行防除と同等の効果を保持しつつ、耐性菌の発生による防除効果の低下に歯止めをかけ、灰色かび病の環境保全型防除が推進できると考えられる。ボトキラー水和剤の効果的な使用法を簡単にまとめると、次のようになる。 ●低温条件では微生物の活動が弱く防除効果が低いので、10゚C以上の環境が確保できる条件で使用する。 ●発病前から撒きむらがないように植物体に十分散布する。発生後は化学農薬との体系防除を図り、耐性菌の発達を防止する。 ●一部の殺虫、殺菌剤との混用では効果が発揮されなくなるので、混用適応表を注意する。 ●薬液による汚れが生じやすい場合は、ニーズ、スカッシュ、ダイコートなどの展着剤を加用する。 ボトキラー水和剤の価格は既存の灰色かび病防除剤とほぼ同等であり、散布労力も同じなので、防除コストは慣行と同等であるが、今後、さらに低コスト防除を検討する必要がある。 (大阪府立農林技術センター)
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