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1.はじめに高知県では人と地球にやさしい農業をめざして、環境保全型農業を積極的に推進している。これまでの化学農薬に頼りきった農産物生産から脱却し、安全で、安心できる農産物の安定生産を目指している。中でも高知県芸西村では普通ナスにおいて、1999年(平成11年)からマルハナバチの導入が急激に進み、同時に天敵昆虫等の生物農薬が積極的に導入されている。今回ご紹介する促成ピーマンにおいても積極的に天敵昆虫が導入されており、高知県の環境保全型農業の先進地となっている。
2.芸西村の農業について安芸郡芸西村は県東部に位置する。昭和20年代から施設園芸が営まれており、施設園芸による村づくりが進められてきた。生産者は農業生産に対する意識も高く、昭和30年代から基盤整備が実施されるなど、ゆとりある農業経営をめざしてさまざまな取り組みがなされてきた。主な作目は促成ナス、促成ピーマン、ミョウガ、メロン、花き類で、なかでも促成ピーマンは県下でも有数の一大産地となっている。 ピーマン部会は部会委員47名、約16haで栽培されている。定植時期はおおむね9月上中旬、6月中旬まで収穫を続けるビニールハウスによる促成栽培が中心で、主な品種はトサヒカリD、みはた2号が導入されている。 |
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第1図 花におけるアザミウマ類の推移(平成11園芸年度) |
第2図 花におけるアザミウマ類の推移(平成12園芸年度) |
3.ククメリスの実証試験結果(アザミウマ類の密度推移を中心に)1)平成11園芸年度(平成10年9月定植)実証試験は1998年(平10)12月から開始し、3圃場で調査を行なった。ククメリスはA圃場では12月9日に3本/10a、1月13日に5本/10a放飼した。B圃場では12月16日、1月13日にそれぞれ4本/10a放飼、C圃場では12月24日、3本/10a放飼のみであった。 第1図に栽培期間中の花におけるアザミウマ類の推移を示した。A圃場ではククメリス放飼時には極めて低密度で成虫、幼虫とも確認できなかった。しかし、1月中旬には密度が増加したため、1月23日に薬剤散布を行ない、アザミウマ類密度を下げた。以後調査終了まで定期的にアザミウマ類密度は増加し、ククメリスによる密度抑制効果はみられなかった。B圃場では1月上旬にアザミウマ類密度が急激に増加したため1月16日に薬剤散布を行なった。以後4月までアザミウマ類は低密度で推移した。4月以降はハウス外からの飛び込みも増加したこともあり、成虫、幼虫とも密度は上昇し4月3日、4月20日に薬剤散布を行なったが、アザミウマ類密度は定期的に上昇した。C圃場ではククメリス放飼時にはアザミウマ類は高密度であった。そのため12月31日と1月9日に薬剤散布を行ない、密度を下げた。以後調査終了時まで3月4日、4月3日の薬剤散布のみでアザミウマ類は低密度で推移した。 平成11園芸年度の試験結果を生産者を交えて検討した結果、ククメリスのみでは栽培期間中を通してアザミウマ類密度抑制は無理であるが、ククメリスに影響の小さい農薬と組み合わせることにより、アザミウマ類密度を抑制することは可能であるという感触をつかんだ。平成12園芸年度は栽培初期から取り組むことになった。 2)平成12園芸年度(平成11年9月定植)第2図に花におけるアザミウマ類の密度推移を示した。平成12園芸年度には約30戸の生産者で取り組み、うち3圃場で調査を行なった。A圃場においては10月19日に3本/10aの割合でククメリスを放飼した。放飼直後にアザミウマ類の密度が上がったため、11月19日、12月23日に薬剤散布を行なった。以後3月下旬まで圃場内でアザミウマ類は確認できなかった。ククメリスの定着もよく、葉上で常に確認できた。しかし、3月下旬にハウス外からの飛び込みの増加によりアザミウマの密度は増加した。B圃場においては11月2日に5本/10aの割合でククメリスを放飼した。やはり放飼直後にアザミウマ類が増加したため、薬剤散布により密度を抑制した。以後ククメリスの定着もよく、1月中旬までアザミウマ類の密度は低かった。1月中旬以降アザミウマ類は徐々に増加し、2月28日に薬剤散布を行なったが、急激な密度低下にはならず、4月上旬まで高密度で推移した。4月以降もアザミウマ類は定期的に増加した。ククメリスは2月上旬以降確認できなかった。C圃場においては10月28日ククメリスを4本/10aの割合で放飼した。他の実証圃場同様、放飼直後にアザミウマ類の密度が上がったため、11月8日薬剤散布を行なった。以後アザミウマ類は2月中旬まで低密度で推移したが、2月下旬から徐々に増加したため、3月10日、4月4日に薬剤散布を行なった。以後5月にアザミウマ類密度は再び増加した。
4.平成13園芸年度に向けてククメリスを防除体系に組み込むことにより防除回数は確実に削減でき、省力化にもなった。また農薬の被爆回数が減ったことにより生産者の健康面からも評価は高い。経費面は慣行防除と比べて労力、安全性等を考えると決して高いものではないという声が多い。過去2カ年間の実証試験からククメリスのみで栽培期間を通してアザミウマ類の密度を抑制することは難しい。特に3月以降のハウス外からの飛び込みが増加する時期には薬剤との組み合わせが必要と考えられ、薬剤散布のタイミングの把握、種類の選定が重要である。 これまでの結果からピーマン部会ではククメリス使用方法を以下の方法で普及していくことになった。
ククメリスは乾燥に非常に弱いようで、栽培管理上ハウス内湿度は最も注意しなければならない。幸いピーマンは夜温が高いため(約20゚C)、栽培期間中を通して比較的高湿度状態での栽培であり、温度、湿度ともにククメリスカブリダニの増殖には適しているものと考えられる。
5.残された問題ククメリスを防除体系に組み込むことにより、他の害虫についても積極的に生物農薬が導入された。アブラムシにはアフィパール、ハダニ類にはスパイデックスが導入され、一定の成果が得られた。しかし、これまでの防除体系ではあまり問題にならなかったチャノホコリダニ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ、ミカンコナカイガラムシ等が問題になった。今後、生物農薬の導入がますます進むと新たな問題が浮上するものと考えられる。また、生産現場においては虫害だけでなく、病害も大きな問題であり、今後病害も含めてもっと総合的に病害虫全体をコントロールできるように組み立てていく必要が感じられた。 (高知県安芸農業改良普及センター)
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