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はじめにカキノヒメヨコバイEmpoasca nipponicaは1950年代初めに京都で採集された標本をもとにDrakowska(1982)により記載された種である。 ミドリヒメヨコバイ属EmpoascaはジャガイモヒメヨコバイE.fabaeを模式種とした属で、北アメリカでジャガイモ、アルファルファ等を加害する重要害虫で、ジャガイモヒメヨコバイの他、日本でもチャノヒメヨコバイE.onukiiはチャの重要害虫となっている。 カキノヒメヨコバイによる被害は新葉が巻き上がり周縁から枯死する症状を示し、展開中の若い葉には薬害が生じやすいことと症状が薬害による葉の枯死と酷似していたこと等から、当初はこの症状を薬害と判断していたようである。ところが、1995年になって病害虫担当専門技術員の田口義広氏が現地調査を行なったところ、被害枝には多数のヨコバイが寄生していることが判明した。このヨコバイを林正美博士(埼玉大学)に同定していただいたところ、Empoasca nipponicaであることがわかり、和名がなかったことから、田口ら(1998)によりカキノヒメヨコバイが提唱された。現在までに岐阜、静岡、愛知の各県から本種に対して発生予察特殊報が発表されており、比較的広い範囲に分布しているものと思われる。今回はこのヨコバイの生態と防除について報告する。 形 態カキノヒメヨコバイの体長は2.8~3.2mmで雄はやや小さい。形態は近似種と肉眼では区別できない(第1図)。同定は、他のEmpoasca属の種と同様に雌では非常に困難である。雄では前翅先端の脈相、第2腹板甲の顕微鏡観察により比較的簡単に行なうことができるので、その手順を説明する。 前翅先端の脈相は岡田(1970)によれは、第2図のように11種類のパターンに分類されている。本種の場合はC2型である。次に、実体顕微鏡で腹部先端腹側を観察すると、雌にはセミと同じ様な産卵管があるので、容易に雄と雌を区別することができる。 第2腹板甲の観察にはアルカリ処理が必要である。70%エチルアルコール水溶液に水酸化カリウムを7~10%溶解させたものを60℃に保ち、この中で虫体を1~2時間処理すれば虫体が透明になるので、水洗後、透過光下で検鏡する。カキノヒメヨコバイの第2腹板甲は第3図のようである。
第1図 カキノヒメヨコバイ成虫(円内は若齢幼虫)
第2図 Empoasca属の前翅脈相の変異(模式図)(岡田、1970) 生態、被害および発生消長調査法寄生としてカキの他にナシ、リンゴ、ササゲ、ケヤキ、フジ、ダリア、ヤツデ、アジサイ、ヒマワリ等が記録されている。 カキの新梢が展開し始める4月上旬頃からカキ園に飛来を始め、新梢の葉や茎を吸汁する。硬化した葉を積極的に加害することはなく、葉が硬化した後は徒長枝や地際からの枝を加害する。 被害の症状は、(i)枝の伸長が止まる、(ii)葉が巻上がる、(iii)葉が周縁から枯死する(第4図)というもので、北アメリカのジャガイモヒメヨコバイによるジャガイモの被害と非常によく似ている。 果実への加害は早生品種で認められているが、果実は好適な餌ではないようであり、例外的なものと考えている。 秋遅くになり、カキの葉が落葉すると越冬場所へと移動していく。越冬態は成虫で、完全に休眠するのではなく、暖かい日中には活動している。越冬場所はツツジ、サツキ、ツバキ、サザンカ等の主に庭木の葉裏である。 年間5~6世代を繰り返すが、第1世代成虫発生後は継続的な成虫の飛来により、成虫とその他のステージが混在して世代は不明瞭となる。
第3図 カキノヒメヨコバイの腹部左の弓状の部分が第2腹板甲
成虫の発生消長調査には黄色平板粘着トラップが利用できる。大きさ120×235mm、厚さ1mmの板をポリエチレン袋に入れ、袋の表面に粘着スプレーを吹き付けて粘着板とする(第5図)。 このトラップを地上約1.5mのカキの枝につけて、5~7日ごとに誘殺されるカキノヒメヨコバイの数を数えれば、発生消長を把握することができる(第6図)。トラップの色として濃青色、白色、黄色を比較したところ、黄色の誘殺数が圧倒的に多く、発生消長調査に適している。黄色の色コードはu-27-80-T 7.5y 8/10(JIS '97)である。 越冬密度は水稲のウンカ・ヨコバイ払い落としに準じて、サツキ等を10回払い落とし調査することにより把握することができる。
防 除カキノヒメヨコバイの加害が明らかになった当初はかなり深刻な被害の例もあったが、田口氏らの調査の結果、適切な対応策をとることにより、大きな被害は防止可能であることがわかってきた。 カキの場合、新芽が加害を受けて枯死すると、その年の収穫は激減する。新梢の枯死後に再び新芽を出すことから、翌年の結果にも大きな影響が出る。カキノヒメヨコバイは硬化した葉には加害しないので、6月下旬までの間に新梢の被害を防止して葉を硬化させることが第1のポイントとなる。 第2のポイントは薬剤の選択と防除時期である。現在のところカキノヒメヨコバイに対する登録農薬はないので、主要害虫との同時防除ということになる。防除効果の認められた殺虫剤としてはアセタミプリド、アセフェート、ピリダベン、ブプロフェジン、DMTP等がある。 岐阜県では授粉のために開花時期にはミツバチをカキ園に導入するのが一般的である。このため、開花時期の殺虫剤散布はできず、開花前の散布もミツバチに影響の少ない薬剤を選ぶ必要がある。開花前の主な害虫としては4月下旬のブランコケムシ(マイマイガ)、5月上旬のカイガラムシ類があり、これらの防除の際にカキノヒメヨコバイに効果のある殺虫剤を使用する必要がある。ミツバチをカキ園から引き上げた後は、カキミガ、カイガラムシ類、カメムシ類との同時防除を行なう。 また、越冬は主として人家近くの庭木などで行なわれると考えられるため、越冬密度が高い場合は越冬成虫防除を3月中旬までに行なう必要がある。 平成11年には被害発生地域の3ヵ所において試験を行なったが、いずれの結果も同様であったので、ここでは大野町宝来の結果のみを第1表にまとめた。第1表の3日後のデ―タから、どの薬剤も効果が認められた。DMTP水和剤はやや虫が残るようで、今後この原因解明が必要と思われる。薬害はいずれの薬剤にも認められなかった。現在、数薬剤が農薬登録拡大申請準備中と聞いており、近い将来には農家の選択肢が広がるものと期待している。
終わりに以上述べたように、カキノヒメヨコバイ対策は一応のめどがついたところである。しかし、総合的害虫管理の視点からは、殺虫剤のみしか対応策がないのは物足りない気がする。天敵や物理的手段の利用等が、次のステップでは必要になるだろう。また、成虫の移動実態等の詳しい生態やなぜ害虫化したのか等不明な点も残されている。これらについては、今後の研究により解明されると期待している。 (岐阜県農業技術研究所)
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