上越市から拡がる畦畔の新しい姿
-日本芝「みやこ」の導入と効果-

片山 雄治*  大野 孝**

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.94/G (2000.1.1) -

 


 


 

1.はじめに

 高生産農業実現には農地の集積や作業の省力低コスト化が重要な課題である。とりわけ大規模農家では畦畔、排水路の草刈りなど畦畔管理が集落との軋轢を生じ規模拡大のネックとなっている。

 さらに、上越市は重粘土地帯に位置し、畦畔は崩れやすく、除草剤の使用はその傾向を強めている。

 上越市の大区画圃場整備事業は1993年から進められ、現在872haが整備され、今後2007年まで1,904ha(整備率68.6%)が整備される予定である。これに伴い、畦畔保全に関わる問題点の解決は他府県と同様に上越市の重要課題である。

 その解決策として、上越市では植生被覆、主としてシバ・アジュガなど、土木的工法の被覆シート、土を混ぜたセメント、コンクリート畦畔、また畦畔天端幅の拡大による乗用機械除草など、あらゆる角度から検討した。その結果、本市ではグランドカバープランツ、特にシバに着目した。先進例として、富山県井口村のコウイシバを参考に中江土地改良区を事業主体に評価試験を行なった。特に、(1)シバ種の選定(コウライシバ、みやこ、改良日本芝)、(2)植栽方法(施行法、時期)、(3)刈込み回数などを1996年から3ヵ月年計画で検討した。

 本文では畦畔におけるシバの植栽法から普及までに至る上越市の成功例を紹介する。

2.上越方式の提案

 シバ種は、3種のうち、品種「みやこ」(以下、みやこ芝と称す)に注目した。みやこ芝は、(1)被覆増殖性、(2)土壌保持性、(3)乾燥耐性に優れている事が示され、当該地の気候に適していることも評価された。さらに、試験の過程で、みやこ芝を利用した畦畔の植栽法(上越方式と我々は呼ぶ)が考案された。上越方式は横曽根地区の佐藤吉雄氏の試みに始まるが、植栽効果の即時性と材料費の低減が可能である事が試験により示された。すなわち、本法は畦畔天端のみにロール芝をベタ張りする植栽法1)である(写真1)。まず、灌水手間を省くため十分に天端に灌水し、レーキで泥状にする。その上に、ロール状のみやこ芝(1枚のサイズは36cm×140cm、2枚で1束。通称、ロール芝)をやや延ばしながら足で踏みつけてベタ張りにする。なお、張芝前に基肥として少量の化学肥料を施す。この植付け法は植栽後の苗芝の乾燥が抑えられ、芝の活着も良い。活着は植栽後7日から10日程で確認できる。1ha圃場の畦畔長は125mであるが、張込みは1本当り2人で4時間程度の軽作業で、材料も40束程度(畦畔面積の25%)と少なくすむ。また横曽根地区の広島一義氏は天端を小型ティラーで耕し、灌水しながらロール芝を踏みつけて張ると、さらに楽だという(写真1:昨年6月に張ったみやこ芝の前に立つ著者と氏)。この畦畔は同年11月には全体の6~7割が被覆され、伸長したランナーの先端は1mにも達することになる(写真2)。そして、翌年には畦畔全体が被覆される(写真3)。なお、一般のノシバやコウライシバではそのようにならない。

 苗芝の植付けは夏期高温時を除けば3月から10月まで可能であるが、該当地では植栽培前後の除草や灌水の手間を考慮して、入梅頃より1ヵ月を適期と奨励している。

写真1 畦畔天端に張ったみやこ芝(植栽2ヵ月後)と著者の片山氏(右) 写真2 みやこ芝はランナーが良く伸びる(植栽3ヵ月後)

写真3 みやこ芝の畦畔植栽例(植栽1年後)

3.みやこ芝による植栽の効果

 3年間のまとめとして、畦畔管理に関する農家の意識調査を行なった。まず、芝植栽効果を総括すると、(1)畦畔がくずれない、(2)景観がよい、(3)除草剤散布がなくなり環境に優しい(第1図)、(4)管理作業が楽になった(第2図)、(5)モグラ・ネズミが入りにくい、(6)作業が安全になる(歩経路の確保や小石の飛散防止)、(7)土木的工法に比べ安価である(1m当り約200円の芝代)などが挙げられる。特に、省力効果は植栽後の作業効率の改善により予想以上に高い。本来、大区画化により単純に作業量は増えると考えられるが、実際は畦畔1本における1回当りの作業時間は全て短縮された(第3図)。実に、大規模水田換算で年間の総作業量は4分の1に圧縮される(第1表)。したがって、畦畔の芝植栽は少ない初期投資で、農業経営の効率化を目指した区画整備事業の目的を最大に引き出す力があると言っても過言ではない。


第1図 年間の畦畔保全作業量の変化


第2図 みやこ芝植栽後の畦畔管理作業の軽減感について


第3図 畦畔保全作業別の畦畔1本当りの作業時間の変化

年間作業総量(分) 芝植栽前 芝植栽後
畦畔1本(125m換算)当り 452.8 128.1
水田1枚(1ha)当り 1,518.0 420.3

第1表 みやこ芝植栽前後にみる畦畔保全のための年間作業量の変化

4.現地での芝生産の取組

 植栽法が確立し、畦畔作業の省力化や環境に優しい農業の実践も実証されたが、材料費軽減を望む農家の声は決して少なくなかった。みやこ芝の鳥取県や茨城県で生産されている。したがって、購入費用に占める輸送代は少なく、それだけ農家個人の負担は大きい。そこで、「地元で芝生産ができないか?」の大野孝次長(現上越市副市長)の提案により可能性が検討された。当該地は重粘土地帯で切芝生産は難しいとされていたが、幸運にも水田転作園芸基盤定着化促進事業やベンチャー作物支援事業を利用し、客土による土壌基盤整備が行なえた。さらに、みやこ芝の開発元である(株)ジャパン・ターフグラスから生産の許認可も取得でき、昨年より2,000平方メートルの芝生産を始めた。なお、生産形態は実施主体を中江土地改良区とし、水稲・園芸の複合経営を営む小猿屋地区の篠宮喜英氏が担当である。そして、昨年6月には周辺集落・近隣町村農家の希望に早くも応え始めている。こうして現地生産の目処も立ち、みやこ芝の畦畔普及の下地が確立されるに至った。

 上越市では前述のように、大区画圃場整備の進展により、今後の芝需要増は確実であり、水田転作物として面積の拡大は必須となろう。

5.おわりに

 3年間の試験で、畦畔および排水路法面に行なった植栽実績は2,728平方メートルである。さらに個人購入を含めると5,295平方メートルにもなる。そして、この数字は1ha区画の125m畦畔に換算すると実に、132本が植栽された事になる。このように上越市では今後もシバの植栽を中心に、環境への配慮・景観性の維持向上・作業省力化を見据えた畦畔管理の推進を目指していく。

(*上越市農林水産課 総括推進員)
(**上越市産業部門 副市長)

引用文献

1)「畦畔と圃場に生かすグランドカバープランツ」有田博之・藤井義晴 編著(農文協)