キュウリにおける
ククメリスの利用と防除効果

黒木 修一

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.94/B (2000.1.1) -

 


 


 

1.はじめに

 ククメリスカブリダニ(Amblyseius cucumeris)はアザミウマ類の有力な天敵として知られ、国内でも生物農薬(商品名:ククメリス)として登録された。

 宮崎県総合農業試験場ではキュウリとピーマンにおける主要害虫の生物防除法を検討しており、ここでもアザミウマ類の防除にククメリスカブリダニを利用して良好な成績を得ている。そこで、キュウリにおけるククメリスカブリダニ(以下ククメリスとする)の使用法と防除効果についていくつかの知見を紹介する。

2.なぜククメリスを使用するのか

 ククメリスは体長1mm足らずのダニで、アザミウマの幼虫を捕食し、その他にもハダニ類などの微小な害虫類なども捕食する(写真1)。

 一般的に、天敵を放飼するときには、その天敵の餌となる害虫などが必要であり、これらの餌が無いときには、天敵は餌を求めて圃場外へ移動してしまうことが多い。しかし、ククメリスの体長は1mm足らずであるうえに、翅が無いため歩行して移動しなければならず、餌を探して到達するためには相当苦労しなければならない。しかし、そのおかげで飢餓に強いという性質を持ち、餌が無くてもしばらくは放飼した場所の付近に定着して害虫を待ち伏せるという戦略をとっている。このため、アザミウマ等の害虫が極めて低密度にしか存在しないときにも利用でき、定植直後などの害虫類が極めて低密度のときなどに害虫の密度をモニタリングする必要なく利用できるのである。天敵を使用するとき、使用する天敵をいかに圃場に定着させるかという問題は最初のハードルである。ククメリスはこのハードルを容易にクリアできる天敵なのである。


写真1 アザミウマ幼虫を捕食中のククメリスカブリダニ


写真2 ククメリスカブリダニの葉上への放飼

3.ククメリスカブリダニの製剤と放飼法

 ククメリスは極めて微小なダニであるために、頭数を数えて放飼することは、ほとんどの人には不可能である。そこで、放飼し易いように増量剤とともに製剤化されており、製剤ボトルを一振りすると、調味料のようにククメリスが増量剤とともに放飼されるようになっている。

 放飼する場所は、株元もしくは葉上である。実験的には株元放飼の方が定着が良いが、作物には灌水を行なう必要があるため、実際には地中灌水チューブなどを使用している環境でなければ実行は困難である。そこで、通常の灌水を行なう環境では、ククメリスは葉上に放飼することが必要になる(写真2)。

 先に述べたように、ククメリスは待ち伏せ型の天敵であるので、アザミウマ類などの害虫が存在しないとあまり分散しないことが考えられる。そこで、餌となる害虫が存在しない条件でククメリスを葉上に放飼してみた。その結果、放飼した葉を含めて上下3葉(合計5葉)程度には分散したものの。必ずしも株全体には分散しなかった(第1図)。このことから、ククメリスを放飼する位置は防除効果に大きく関係すると考えられる。


第1図 キュウリにおけるククメリスカブリダニの分散試験(放飼14日後の生息虫数)
:放飼葉 100頭放飼

4.雨よけ栽培におけるアザミウマ防除試験

 キュウリの雨よけ栽培は、一般的にアザミウマ類の発生が多い作型であり、アザミウマの被害が最も多い作型でもある。そこで、第20節で摘心を行なう雨よけ栽培キュウリにおいて、ククメリスによるアザミウマ類の防除効果を検討した。試験区はイミダクロプリド粒剤(アドマイヤー)の定植時処理とククメリスの放飼を組み合わせた体系・区、アザミウマに殺虫活性のないピメトロジン粒剤(チェス)の定植時処理とククメリスの放飼を組み合わせた体系・区、対照としてイミダクロプリド粒剤の定植時処理を行なった区および無処理区とした。薬剤処理量は各区とも1gであった。先に示したククメリスの分散試験の結果から、ククメリスは本葉第3葉から約5葉間隔で3回、1回当り100頭/株を放飼した。

 その結果、ククメリスのアザミウマ類に対する防除効果を示す体系・区と対照区は定植1ヵ月後の防除効果は同等であった。また、ククメリスと薬剤処理の相乗効果を示す体系・区は体系・区および対照区に優る防除効果であった。(第2図)。


第3図 体系・区における各葉位のククメリスカブリダニ生息数(定植29日後)
:放飼葉位100頭/株

 体系・区におけるククメリスはすべての葉では確認できなかったが、第16葉までは葉当り約1頭以上が確認された。第17葉以上にもククメリスが分散していたが、その数はわずかで、先に述べた分散試験とほぼ同様の傾向であった(第3図)。したがって、本試験のように20節で摘心する栽培では、あと1回の放飼を追加することが望ましいと考えられ、その場合、5葉間隔ではなく、4葉間隔4回の放飼により主枝の全葉にククメリスを分散させることができると考えられる。

 本試験において、キュウリではククメリスの3回放飼はイミダクロプリド粒剤の3回放飼を組み合わせることで、イミダクロブリド粒剤の単用処理と比較して更に高い防除効果が得られることが明かとなった。アザミウマ類に高い殺虫活性を持つイミダクロプリド粒剤とククメリスを体系処理することは一見無駄なことのように思えるが、ミカンキイロアザミウマに対してはイミダクロプリド剤の防除効果が低いこと、アザミウマ類のイミダクロプリド剤に対する薬剤抵抗性の獲得が懸念されている現状があることを考えると、両剤を組み合わせることは極めて重要な意味を持つと考えられる。

5.おわりに

 いうまでもないことだが、ククメリスは生物農薬である。生物農薬の使用には絶対の前提があって、(1)害虫が低密度の時期から放飼すること、(2)使用する天敵に影響のない薬剤と組み合わせることがある。そして、先に述べたククメリスの放飼位置など使用する天敵の利用条件が別に附随する。生物農薬を利用する生産者はそれぞれ目的を持っていて、ある人は減農薬栽培を、ある人は防除効果の安定を、またはその他の目的を目指しているはずである。ククメリスを単用で使用するか、薬剤と体系化して使用するかは、その生産者の目的に合わせて行なえばよいが、天敵を使用する条件だけは自分の都合に合わせることが難しい。今回発見した知見だけが全てではないので、今後様々なククメリスの使用法が開発されることであろう。ククメリスをはじめ、天敵を利用してみたいと思う人には、これらの前提・条件があることを是非頭に入れておいてほしい。

(宮崎県総合農業試験場)