新規トリアゾール系殺菌剤
「サルバトーレME」の
うどんこ病・葉かび病に対する
防除効果と作用特性

本橋 恒樹

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.93/F (1999.10.1) -

 


 


 

1.はじめに

 サルバトーレME(テトラコナゾール液剤11.6%)はDMI剤に類別される新規トリアゾール系殺菌剤であり、キュウリ、イチゴ、バラ、タバコのうどんこ病並びにトマトの葉かび病に対して、平成11年8月24日付で登録取得されたばかりである。

 本稿では、(社)日本植物防疫協会研究所で行なわれた試験結果をもとにサルバトーレMEの防除効果とその作用特性について紹介したい。

▲キュウリうどんこ病 ▲イチゴうどんこ病

▲バラうどんこ病 ▲トマト葉かび病

2.サルバトーレMEのうどんこ病に対する防除効果

(1)うどんこ病

 キュウリうどんこ病はErysiphe polygoniおよびSphaerotheca fuliginea 、イチゴうどんこ病はSphaerotheca humuli、バラうどんこ病はSphaerotheca pannosaおよびUncinula simulansの各病原菌によって引き起こされる。うどんこ病はほぼ周年に渡って発生し、やや乾燥した環境を好むことから、雨が直接当たらない施設栽培での被害が大きいが、露地栽培においても好適環境下では発生する。主な一次伝染源は、前作の罹病葉、同じ科に属する他植物、科は異なるものの病原菌が寄生可能な植物、あるいは、一部草本植物などに発生したうどんこ病菌である。一次感染源からの対象作物への感染はその栽培期間を通じて常におこる。したがって本病の防除は、育苗時からその栽培期間中のすべての時期に必要であると言える。

 うどんこ病による葉での発生は光合成能の低下を引き起こし、最終的には枯死、落葉し被害が大きくなる。また、イチゴ果実やバラ花蕾上に発生すると奇形になり、商品価値を損い被害は深刻になる。

(2)キュウリうどんこ病試験結果(第1図)

 試験開始後の急激なまん延のため、試験期間の2週間で激発状態になった事例である。7日間隔の2回処理(処理量:330リットル/10a)を行なった結果、無処理区発病度97.4に対し、サルバトーレME3,000倍希釈(発病度:0.2)は対照薬剤のキノキサリン系水和剤3,000倍希釈(同:0.1)とほぼ同様の非常に高い防除効果を示した。

 病害の防除に当たって薬剤を有効に活用するためには、初発期からの処理が望ましいことは周知の通りである。サルバトーレMEはその様な処理が行なわれていれば、急激な病勢進展や、激発といえる発病条件に対して、安定的にその結果を発揮するものと考える。

第1図 キュウリうどんこ病 効果試験結果

試験概要

試験地:(社)日本植物防疫協会研究所 高知試験場
供試品種:シャープ1(平成7年3月3日播種)施設栽培
試験期間:5月18日から6月1日
薬剤処理:5/18、25(7日間隔2回処理)
処理薬量:330リットル/10a
供試薬剤:サルバトーレME 3,000倍希釈 
     キノキサリン系水和剤 3,000倍希釈
発病調査:6/1
病勢推移:少発生時より試験開始
     14日後には甚発生
無処理区発病程度:甚発生(発病度97.4)

(3)イチゴうどんこ病試験結果(第2図)

 少発生から中発生への進展時に試験を開始した事例である。7日間隔の3回処理(処理量:240リットル/10a)を行なった結果、無処理区発病果率36.9%に対し、サルバトーレME2,000倍希釈(発病果率:1.4%)は対照薬剤のポリオキシン水和剤1,000倍希釈(同’12.6%)に比較しまさる高い防除効果を示した。

 イチゴは丈が低く葉が繁茂しやすいことから、薬剤を株全体にまんべんなく処理することが難しい植物である。そのため、時期によってはうどんこ病の十分な防除は困難を極める。サルバトーレMEは、やや発生が認められる時期からの処理であっても十分にその効果を発揮し、また、葉で覆われていて十分な薬剤処理がなされにくい果実に対しても、サルバトーレMEが備えている特性(治療効果、浸透移行性等)により安定した防除効果が得られるものと考えられる。また、本剤はポリネーターとしてのミツバチに対する影響はないとされている。

第2図 イチゴうどんこ病 効果試験結果

試験概要

試験地:(社)日本植物防疫協会研究所
供試品種:女峰(平成5年11月4日定植) 施設栽培
試験期間:平成6年4月18日から5月12日
薬剤処理:4/18、25、5/2(7日間隔3回処理)
処理薬量:240リットル/10a
供試薬剤:サルバトーレME 2,000倍希釈
     ポリオキシン水和剤 1,000倍希釈
発病調査:5/9、12
病勢推移:少から中発生への進展時より試験開始 
     24日後には多発生
無処理区発病程度:多発生(発病果率 36.9)

(4)バラうどんこ病試験結果(第3図)

 甚発生下での試験事例である。7日から8日間隔の3回処理(処理量:十分量)を行なった結果、無処理区発病度93.4に対し、対照薬剤のトリホリン乳剤1,000倍希釈(発病度:51.0、防除価45.4)は十分な効果が認められなかったが、サルバトーレME3,000倍希釈(発病度:1.7、防除価98.2)は対照薬剤にまさる高い防除効果を示した。

 バラでは、花、葉など植物全体が出荷対照となるため、ほぼ全ての部位に発生するうどんこ病に対しては極めて高い防除効果が求められる。さらに、観賞用途に用いられることから薬剤による植物表面の汚れは避けなければならない。サルバトーレMEは植物体への汚れがほとんどない薬剤である。また、サルバトーレMEと同様DMI剤に属するトリホリン乳剤が効果を発揮できないような条件下においても、安定した効果を発揮するものと考えられる。

第3図 バラうどんこ病 効果試験結果

試験概要

試験地:(社)日本植物防疫協会研究所 宮崎試験場
供試品種:クリスチャンディオール(3年生樹) 鉢植え施設栽培
試験期間:平成6年4月28日から5月19日
薬剤処理:4/28、5/6、13(7日から8日間隔3回処理)
処理薬量:十分量
供試薬剤:サルバトーレME 3,000倍希釈 
     トリホリン乳剤 3,000倍希釈
発病調査:5/19
病勢推移:少発生時より試験開始
     21日後には甚発生
無処理区発病程度:甚発生(発病度93.4)

3.サルバトーレMEの葉かび病に対する防除効果

(1)トマト葉かび病

 葉かび病はFulvia fulva (Cladosporium fulvum)によって引き起こされ、厳冬期を除き発生の機会がある。多湿を好むことから施設栽培での発生が顕著であるが、露地あるいは雨よけ栽培でも降雨の多い時期には発生する。なお、本病はトマト以外での寄生は確認されていない。

 通常、栽培中期以降に下位葉から発生し上位葉へ進展しながらまん延する。病勢が進むと葉が枯死し、まれに果実にも発生することがある。

(2)トマト葉かび病試験結果(第4図)

 本試験では初発直後より7日間隔の4回処理(処理量:330リットル/10a)を行なった結果、無処理区発病度30.9%に対し、サルバトーレME2,000倍希釈(発病度:0.2%)は対照薬剤のTPN水和剤1,000倍希釈(同:17.3%)に比較しまさる高い防除効果を示した。

 葉かび病の発生時期となる栽培中期には葉がかなり繁茂する。予防効果を主体とする薬剤では十分な効果が得られない。このような処理条件においても、サルバトーレMEはその高い治療効果、浸透移行性などの特性により、十分な防除効果が得られるものと考えられる。また、本剤はポリネーターとしてのマルハナバチに対する影響はないとされている。

第4図 トマト葉かび病 効果試験結果

試験概要

験地:(社)日本植物防疫協会研究所
供試品種:豊竜(平成6年2月21日播種) 施設栽培
試験期間:8月25日から9月21日
薬剤処理:8/25、9/1、8、14(7日間隔4回処理)
処理薬量:330リットル/10a
供試薬剤:サルバトーレME 2,000倍希釈
     TPN水和剤 1,000倍希釈
発病調査:8/21
病勢推移:発生時より試験開始
     27日後には多発生
無処理区発病程度:中発生(発病度 30.9)

4.まとめ

 以上述べた試験結果より、サルバトーレMEはDMI剤としての特性を十分に備えた薬剤であると言えよう。すなわち、急激な病勢進展、病斑形成が認められてからの処理、あるいは、植物体の過繁茂等により予防効果を主体とする薬剤が十分な防除効果を発揮できない、といった諸条件において、本剤はその優れた治療効果や浸透移行性などによって高い防除効果を示した。また、観賞用植物への処理に対して懸念される植物体への汚れがほとんどなく、ミツバチやマルハナバチなどのポリネーターに対する影響もない。しかし、本剤はDMI剤であるため、他のDMI剤ですでに認められている耐性菌の出現に関する可能性を否定することはできない。したがって、耐性菌の出現を抑え、このような有望な新規薬剤を末永く使用していくためには、定められた適用作物および使用方法の範囲内で使用していくことが肝要である。

((社)日本植物防疫協会研究所)