房採りミディトマトの品種と栽培特性

河合 仁

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.93/B (1999.10.1) -

 


 


 


1984年(昭59)、完熟トマト「桃太郎」が発売されて以来、消費者のトマトに対する一般的な好みは、より赤く甘いものになってきた。また、果実が硬く日持ち性が良いことから、コンビニエンスストア等でも新たに販売されるようになり、トマト消費の裾野が広がった。同じように、ミニトマトは、甘みが強いことや形が小さくて色が鮮やかなことから、子供を中心に消費が伸び、トマト全体の消費拡大を担ってきた。

このようにトマトの形態は、大玉系完熟トマトとミニトマトの二つに代表されているが、どちらも甘みが強く食味の良いものを指向している。

このような中で、これらのトマトの中間サイズで品質の優れた「ミディトマト」が、デパート等で販売されるようになり注目を集め、現在では、大手スーパーの店頭に置かれるようになってきている。また、オランダからは、ミディトマトが「つる付きトマト」として1996年(平8)3月から輸入され始めている。オランダからの出荷は、日照時間の長くなる5~8月を中心とした3月から11月初めまでとなっており、日本の夏秋栽培の出荷時期と重なっている。

第1表 レンプラント、ファン・ゴッホの病中害抵抗性
(注)8段摘心栽培による収量(kg/株)
病害虫抵抗性 レンブラント ファン・ゴッホ
Tm タバコモザイクウィルス(レース0,1,2)
C5 葉カビ病(レース1~5まで)
V 半身萎ちょう病
F2 萎ちょう病
Fr 根腐萎ちょう病
N センチュウ
wi シルバリング(生理障害、日本未発生)












第2表 収穫方法と収量(促成栽培)
  房採り収量 個採り収量
レンプラント 2.56(8果/房) 3.84
ファン・ゴッホ 2.91(7果/房) 4.08

1.ミディトマトに求められる商品性

愛知県物産東京情報センターが、市場担当者や量販店からの意見をまとめたところでは、

  1. 大きさ:1玉40~50・程度
  2. 糖度:7~8度(年間を通じて)
  3. 内部:切ってもゼリーが流出しにくい
  4. 出荷時期:周年出荷体制が必要

     以上がミディトマトに求められている商品性である。

2.ミディトマトの現状

ミディトマト(大玉系トマトの節水栽培による小玉高糖度トマトを除く)を出荷している代表的な産地は、福井県の「越のルビー」と静岡県のJA遠州夢咲の「トムトム」、茨城県や佐賀県の「華クイン」などである。

「越のルビー」は、果実重が40~50g、子室数が3~4、糖度は7度程度で夏秋栽培が主体の品種であり、11月下旬になると1果重が20g程度の小型のものが出荷されてきている(「越のルビー」は、福井農試育成品種で苗は福井県内限定販売である)。

「華クイン」は、果実重が20~30g、子室数が3~4、糖度が7~9度と高くなりやすい。しかし、ミニトマトと同程度の小果(20g以下)の発生率が13%にもなってしまう。

「トムトム」は、品種名を「レッドオーレ」(カネコ種苗)と言い、果実重が35~45g、子室数が2、糖度が7~8度でミニトマトを大きくしたような果実形態である。栽培は周年化されているが、やや裂果の発生がみられるため、房採りには向いていない。 

以上が、代表的な品種であるが、いずれもその出荷形態は、パックや袋であり、形態から、やや大きいミニトマトの位置づけとなっている。また、「華クイン」はTMV抵抗性を持たず台木が限られてしまうため、長期1作型栽培には向かないと考えられる。

3.ミディトマトの房採り栽培

(1)「房採りトマト」のイメージ

オランダで消費者(主婦)からの感想を聞いた報告によると、

1) 新鮮に見える
2) 見た感じが美しい
3) フルーツ感覚でかわいい

 と言う意見が多く、日本の主婦にも受け入れ易く、新たな消費拡大に繋がるのではないかと思われる。また、新たな産地化には、房採り出荷による差別化は、有利であると考えられる。

(2)「房採り」品種

現在、安定した「房採り」栽培が可能な品種としては、「レンブラント」と「ファン・ゴッホ」が考えられる。

1) レンブラント
果実直径35~45・、果重35~40g、房採り可能果実数7~9果、抵抗性TmC5VF2+wi(抵抗性および収量性は、第1、2表を参照)
2) ファン・ゴッホ
果実直径45~55・、果重45~50g、房採り可能果実数6~7果、抵抗性TmC5VF2FrN+wi

(3)レンブラントの房採り栽培

レンブラントの果実は、果形が常に球形で、ガクは緑で肉厚のため萎れにくく、真っ赤な果色とのバランスが優れている(写真1)。また、裂果し難いため房採り収穫による省力化が可能である。

1) 育苗
トマトの連作により土壌病害(青枯病、根腐れ萎ちょう病等)の発生が懸念される場合は、接ぎ木を行なう。レンブラントは、TMVに対する抵抗性がTm-2因子型であるため、台木は、がんばる根、影武者、新メイト、ジョイントなどを用いる。
接ぎ木までの日数は、スーパーウイズ23を用いる幼苗接ぎ木の場合、播種から20日程度で本葉3葉となり適期となる。ミニトマトより生育が早いため、台木は、穂木と同時播きとする。


写真1 レンブラントの房採り出荷

2) 栽培管理
吸肥力はおとなしく、草勢はやや強いが生育は安定しており、異常茎や芯止まりの発生は見られない(写真2)。生育はミニトマトと同じように早いので、施肥、かん水、整枝および摘葉等の管理は、ミニトマトに準じて行なう。夏秋栽培等で草勢が低下し、花や果実が小さくなってきた場合は、1度摘心し、草勢の回復を待って最上段直下の側枝を立てる主枝更新仕立てを行なう。


写真2 レンブラントの栽培状況(抑制栽培)

3) 交配
促成栽培では、1花房に12~14花程度着果(写真3)する。第1花の開花からほぼ毎日1花ずつ開花し、2週間程度で終了する。果実の揃った房採りのためには、適期に交配することが必要なため、省力化を考えてマルハナバチを利用することが望ましい。


写真3 房当りの着果状況(促成栽培)
(摘果しなかった場合)

4) 房作り
1花房には、平均14果程度着果するが房採りした果房内の果実品質を保つためには、7~8果程度が望ましい。これは、第1果の収穫適期から房採りができるまでに1週間程度を要するため、第1果の品質が低下する前に収穫するためである。
1. 省力的房採り法(摘果法)
果肉内の株元から8果までで房作りを行なう。8果の着果と揃いが確認できたらこれ以降の果実は早期に摘果する。
2. 個採りと房採りの組み合わせ法(無摘果法)
果肉内の株元の4~5果を個別に収穫し、以降の8果で房採りを行なう方法である。収穫回数は増えるが、収量は増加する。しかし、草勢が低下すると果実が小さくなりやすいため、栽培管理には注意が必要である。

4.ミディトマトの今後

ミニトマトの消費が停滞している現在、ミディトマトは新しい商品として市場から期待されている。

しかし、果重が40g前後、そして糖度が高いというミディトマトの商品としての条件を満たすためには、品種の選定がポイントであるが、同時に高品質を確保するための栽培管理の確立が望まれる。更に、ミディトマトの導入にあたっては、房採り出荷等の新しい商品開発、そして周年安定出荷のできる産地体制の確立が重要であると考えられる。

(愛知県農業総合試験場豊橋農業技術センター)