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1.はじめに長野県のチンゲンサイ栽培における病害虫といえば、病害では白さび病、虫害ではコナガといえる。特に最近では病害の方が問題となっている。その背景には品種の移り変わりとともに多発し問題となっているハクサイ白さび病があげられ、菌系統が同一のためチンゲンサイに対しても病原性があり、少なからず発病に影響があると考えられる。また、白さび病をはじめ、チンゲンサイに発生する病害に対して登録のある薬剤はほとんどない。これらのことから白さび病が難防除化している現状である。 害虫では数年前まで鱗翅目害虫のコナガが多発していた。しかし、最近では多種の薬剤の普及や、また白寒冷紗によるトンネル栽培と、薬剤防除の組み合わせによって、生産者にとって、現状ではあまり問題ではなくなってきている。しかし、現状それほど問題ではないが、現地の取り組みとしては、コナガの薬剤感受性低下より生じる難防除化を回避するため、使用薬剤は作用性の異なるものを用いるローテーション散布を徹底している。その中でもBT剤の占める役割は高いのが実態である。 2.チンゲンサイの栽培状況チンゲンサイは「中国野菜」の名称で過去華々しく宣伝され、長野県、静岡県を中心に栽培されている。長野県内におけるチンゲンサイの栽培は1975年(昭50)頃から始まり、夏秋期を中心に作付面積が急速に増加し、1988年(昭63)には約158ha、1992年(平4年)は267ha、1997年(平成9年)は311ha、生産量も約6千tに達している。栽培労力は10a当り17人で、レタス等との輪作の体系化と計画的な作付体系の確立により、生産の安定と拡大を図っている。同時に、チンゲンサイは安全性を強く求められており、栽培期間が短いことから被覆栽培などを生かした省農薬栽培にも取り組まれている。
▲育苗段階での発病 (写真2)
▲コナガ幼虫と被害状況 (写真3) 3.チンゲンサイの主要病害虫および被害状況チンゲンサイに発生する病害でランクをつけるなら、前述の通り白さび病がまずあげられる。白さび病は主に夏秋期に多発するが、近年では夏の早い作型においても見られることもある。本病は葉の裏面に白色、不整形の小斑点を形成する。本病菌によって作物体が腐敗することはないが、主に商品性の点で問題になる。発病が一部の外葉に見られる程度ならば出荷可能な場所もあるが、発病が出荷部位に見られるような場合は出荷が不可能になる(写真1)。また、最近では育苗段階で発病が見られることもあり、難防除化の原因に初期感染もあげられる(写真2)。 また、当然散布できる薬剤がないのが原因の一つであることは言うまでもない。また、軟腐病も近年多発している病害である。本病は殺菌が起因する病害であり、発病は主に夏場の暑い時期に起こりやすい。葉柄部や葉柄基部に軟化、腐敗が見られ、独特の悪臭を発する。流通過程で本病が進行し蔓延することもあり、収穫時に切り口が水浸状を呈している株についても出荷できないことが多い。 害虫についてはコナガによる食害があげられる(写真3)。チンゲンサイは葉に食害痕があると商品価値が著しく低下する。白寒冷紗による被覆トンネル栽培を行なっていても被害が見られることが多い。これは寒冷紗の裾をしっかりと土で覆わなかったことや育苗期にすでにコナガに寄生されていた苗を定植したことなどいろいろ考えられる。よって育苗期、生育期間を通して被覆資材の利用やある程度の薬剤散布が必要となる。コナガ防除で最も重要なことは、いかに効果のある薬剤を散布するかである。1994~1997年に管内のアブラナ科野菜の主要産地で採取したコナガの現地使用濃度に対する薬剤感受性調査を行なった。調査には各地で蛹を採取し、次世代の2~3齢幼虫を供試した。供試薬剤には有機リン剤、カ-バメ-ト剤、IGR剤、ネライストキシン剤、BT剤を用い葉片浸漬方で行なった。その結果、1997年に行なった南佐久郡南牧村では有機リン剤、カ-バメ-ト剤、IGR剤の感受性低下が認められたが、BT剤およびネライストキシン剤については感受性低下は認められなかった。また、特にBT剤の感受性が高かった。同年の北佐久群望月町および小県郡東部町ではネライストキシン剤のカルタップ水溶剤の感受性の低下が見られた以外は、南牧村と同様の結果であった(第1表)。これらのことからコナガ防除におけるBT剤の役割は大きいと言える。
4.主要病害虫の防除方法白さび病の防除方法としては現状使用できる薬剤がないことから、農薬による防除はできない。よって、まず第一に病原菌を圃場に持ち込まないことが重要である。白さび病菌は罹病組織内で卵胞子および菌糸として生存し、やがて形成された胞子が飛散して、空気伝染し蔓延することから、発病苗は早期に抜き取り必ず定植はせず、定植後も発病が見られた株は抜き取り圃場外へ廃棄することが必要である。また、本病に対しては品種間差があるので耕種的な防除方法としては耐病性の見られる品種を選択する。さらに、最適気温は10℃前後であるので、発病最適時期の作付は避けることや、同一圃場での連作は菌密度の増加にもつながるので、できるだけ白さび 病菌の宿主とならない異科作物と輪作する。このように、耕種的・物理的防除方法を組み合わせることにより発病を回避する。また、効果の期待できる薬剤の登録も早急に進める必要がある。 コナガに対する防除方法については、前記の通り安全性が求められる以上、育苗期から生育期間を通して被覆し、省農薬につとめることが大切である。また、薬剤散布にあたっても薬剤感受性の高いBT剤などを用い、少ない農薬散布で確実に防除することが必要となる。1998年実際に圃場でBT剤の効果試験を行なった(第2表)。試験は長野県営農技術センター内圃場(標高810m)で行ない、供試品種には青帝を用いた。定植は8月13日に行ない薬剤散布は8月27日に行なった。調査は散布前、散布3日後および散布7日後で補正密度指数は10未満で、ゼンターリ顆粒水和剤およびBT水和剤Aともに高い防除効果が認められた。降雨による影響はなく実用性は高いと考えられた。前記のとおり、コナガ防除の最大の敵は薬剤抵抗性虫の出現である。現状長野県内ではコナガに対してBT剤の効果は高いといえども、薬剤抵抗性が発達しないとは限らない。よって、BT剤を軸とした薬剤散布においてもクルスタ-キ-系統とアイザワイ系統を使い分ける必要があり、その点でアイザワイ系統BT剤のチンゲンサイに対する早急な登録が期待される。 (長野県営農技術センター研究部)
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