促成ナスにおけるマルハナバチの利用

串間 秀敏

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.91/B (1999.4.1) -

 


 


 

1.はじめに

 宮崎県の促成ナス栽培面積は8haと少なく、この他に抑制キュウリ等の後作としての半促成ナスが20haであり、両作型をあわせて施設ナス栽培面積は30haに届かない状況である。本県の主力品目キュウリ、ピーマン、メロン、トマト等に続く品目としてナスに対する期待は消費地市場からも大きくなっている。ところが、ピーマン等と比較して労力を多く要するというイメージが大きく、面積拡大の芽を摘んでしまっている。

 本県の冬期温暖多日照という気象条件は促成ナス栽培に好適であり、需給バランスからもナスの導入は状来有望と考えられる。そこで、筆者らは1995年度から省力化をキーワードにナス栽培試験に取り組み、2、3成果を得たのでここに紹介する。

2.促成ナス栽培における
  セル成型苗直接定植の定植苗齢、品種、仕立て方法

 本題のマルハナバチに入る前にナスの栽培方法にふれておく必要がある。このことがマルハナバチ利用の成否と関わりがあると思われるからである。

 低温募日照期においてマルハナバチによる授精を順調に行なわせるためには、まず良い花を咲かせることが大前堤となる。良花を開花させるための樹勢の維持、適正品種、栽培法が必要となってくる。

(1)セル成型苗の定植苗齢

 ナス品種「筑陽」、台木「トルバムビガー」を用い、接ぎ木方法は、プラスチック製チューブを利用した断根斜め合わせ接ぎとし、50穴セルによる育苗日数を検討した。その結果、根鉢がほぼ形成された13日間育苗で第1花開花が早く年内収量、総収量ともに多収が得られた。

(2)セル成型苗直接定植の場合の品種

 断根斜め合わせ接ぎで50穴セル内育苗日数15日間で直接定植し、2、3品種を検討した。その結果、黒陽は第1花開花が早く年内収量が多いが、筑陽は上物収量の点で優れた。台木間では、トルバムビガーとアシストはアカナスに比べ、初期生育は遅れるものの、総収量、上物収量で優れた。宮崎のような暖地では青枯病が懸念されるためトルバムビガーがより望ましい。

(3)セル成型苗直接定植の場合の仕立て方法

 主枝仕立て本数を3本、2本、1本として比較検討したところ、第1花開花は3本仕立てが早くなるが、仕立て本数が少ないほど主枝が充実し、年内収量総収量ともに1~2本仕立てが多くなった。

 以上のことから、ナス品種「筑陽」台木品種「トルバムビガー」を用い、断根斜め合わせ接ぎにより50穴セル内13~18日育苗後直接定植、1~2本仕立て栽培とすることで長期間良花の開花が維持でき生産が安定する。

第1表 第1花開花日と総収量(育苗日数)
(注)総収量は11月~5月。交配はトマトトーン50倍。
セル種類と
セル内育苗日数
平均開花日
10月
総収量
重量(kg/a)
50穴13日 18.4 1,701 104
50穴18日 20.0 1,673 103
50穴23日 23.8 1,548 95

第2表 品種別上物収量
(注)収量は11月~5月。交配はトマトトーン50倍。
品種 \ 項目 上物収量
上物量(%) 重量(kg/a)
黒陽/トルバム 76.3 1,304 100.0
筑陽/トルバム 78.2 1,345 103.1
々 /トルバム 77.1 1,285 98.5
々 /トルバム 81.7 1,419 108.8
々 /トルバム 78.7 1,305 100.1

第3表 仕立て方法と時期別収量(kg/a)
(注)収量は11月~5月。交配はトマトトーン50倍。
仕立て方法 年内 年明け
主枝1本仕立て 255 1,532
主枝2本仕立て 243 1,536
主枝3本仕立て 239 1,462


▲セル苗直接定植後初期生育状況(長ナス:筑陽)(左)と(米ナス:クロワシ)

3.促成栽培におけるマルハナバチの利用

 ナスの先進県では早くからマルハナバチの検討が行なわれており、これまで着果の不安定、商品性の低下、病害虫防除の困難さ等が課題として指摘されてきた。着果不良や品質低下は栽培現場における実際の管理温度がやや低めで管理されていることや栽培後半の樹勢低下による不良花の発生も一因と思われる。また農薬では最近優れた農薬が開発普及し、病害虫は以前ほどハチ導入の阻害要因ではなくなってきている。

(1)長ナス

 前述した品種、栽培方法による促成栽培(9月19日定植)においてマルハナバチを放飼し、マルハナバチによる交配とトマトトーン併用とで比較検討した。マルハナバチ放飼はある程度花数が確保できた年末とした。マルハナバチ交配による収穫期間となる2~5月の4ヶ月で比較すると、マルハナバチ単用がトマトトーン併用比120%の収量に増収した。この4ヶ月間における果実調査によると平均1果重156~157g、収穫までの所要日数27~28日、果形比(果長/果径)4.5~4.6と大差ない結果であった。ただ果実先端部がトマトトーン併用区でとがり、マルハナバチ単用では丸くなった。その他外観、色沢等品質的には何ら問題点を認めなかった。マルハナバチ交配では、花弁の抜けが良いため花弁除去労力も省くことができる。

 この時の夜温は最低13℃を確保した。夜温をさらにあげ15℃とするとやや減収し、首細果傾向となる。病害虫対策では定植時に粒剤の植穴施用、マルハナバチ放飼までの防除の徹底が肝要である。

(2)米ナス

 品種はクロワシを用い、他は長ナスと同様の栽培とし、最低夜温を15℃で管理した。ハチ交配による収穫期間となる2~5月の4ヶ月で比較すると、マルハナバチ単用がトマトトーン併用比107%とやや増収した。長ナスで認められる先端の形状差は米ナスの場合認められない。なお、トマトトーン併用における最低夜温13℃管理と15℃管理との比較では、13℃管理でやや肥大日数を多く要し果形がやや長形となった。

(3)小ナス 

 品種は竜馬を用いて、一果重40g程度の小ナスで収穫した場合のマルハナバチ単用とトマトトーン併用とで比較検討した。定植を9月11日、マルハナバチ放飼を11月20日、最低夜温13℃で管理した。マルハナバチ交配による収穫期間となる1~5月の5ヶ月で比較すると、総収量はマルハナバチ単用がトマトトーン併用比103%と若干上回った。果形は、長ナスと同様先端の形状の点で差を認めた。


▲マルハナバチ交配の果実(長ナス:筑陽)(左)と(米ナス:クロワシ)(中央)


▲マルハナバチの授粉状況


▲活着後の細霧処理状況

第4表 交配方法別上中物収量比較
(注)長ナスと米ナスは2~5月、小ナスは1~5月。
交配方法 \ 項目 長ナス 米ナス 小ナス
収量 収量比 収量 収量比 収量 収量比
トマトトーン併用 970 100.0 1,094 100.0 838 100.0
マルハナバチ単用 1,171 120.7 1,172 107.1 878 104.8

第5表 日肥大量と果形
(注)長ナスと米ナスは1~4月交配果実、小ナスは12~5月交配果実。
交配方法 \ 項目 長ナス 米ナス 小ナス
日肥大量 果長/果径 日肥大量 果長/果径 日肥大量 果長/果径
トマトトーン併用 5.8g 4.6 10.2g 2.2 2.3g 2.6
マルハナバチ単用 5.6g 4.5 9.7g 2.2 2.2g 2.5

4.終わりに

 このように筆者らの試験においては、いずれの品種もマルハナバチ単用で十分な収量を得ることができ、品質も良好であった。ただ、ミニトマト等に比べ花数が圧倒的に少なく、大規模栽培の場合においてマルハナバチの適正放飼数、活動方法等がさらに検討される必要があると思われる。

(宮崎県総合農業試験場 野菜部)