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はじめに昨年(1998年)の8月下旬から9月上旬にかけてイタリア・フランスの両国を訪れる機会を得た。これまで北海道内から数多くのヨーロッパへのテンサイに関する調査・訪問が行なわれてきたが、実際の病害虫が発生している状況を観察された事例は少ないので、参考文献ではなく実際自分の目で病害虫発生状況を見ることができる期待に胸をふくらませて両国を訪れた。
1.イタリア・フランスの農業と農薬イタリアの農業と農薬については主にイサグロ社のDr. A. Giambelli氏より伺った。イタリアの総農地面積は約900万ha。主作物はコムギ(315万ha)、トウモロコシ(130万ha)、ダイズ(25万ha)、ブドウ(主にワイン用95万ha)、果樹(26万ha)、野菜(38万ha)、オリーブ(120万ha)、イネ(25万ha)、テンサイ(25~30万ha)であり、コムギ・トウモロコシ・ダイズ・イネ・テンサイ・果樹・野菜はポー川流域のロンバルディア平野に作付けが多く、ブトウ・オリーブは中部・南部の海岸地帯に多い。水稲が北海道の約2倍もあるのには驚いた。 後に圃場視察を重ねてわかったことだが、作物の栽培管理は粗雑なようであり、テンサイ畑では雑草は多く、褐斑病は平均発病指数3~4程度であった。高温であり病害虫・雑草にとって好条件であること、寛容な国民性など、日本とは違う風土・条件からの現象であろうと思われた。 農薬消費金額は、アメリカ、日本、フランス、ブラジルに次ぐ世界第5位で、約1,200億円。内訳は、殺菌剤33%、殺虫剤23%、除草剤38%、その他6%、と構成は日本と類似しているとのことである。 農薬の流通形態は、Private Dealers 54%、CAP28%、Cooperatives18%。 Private Dealersが日本の「商系」、CAP・Cooperativesが「系統」に相当する。 以下のヨーロッパおよびフランスについての説明をアリスタ ライフサイエンスフランス社の中川氏およびR. Gaillot氏より受けた。 ヨーロッパの主要農業国の作物別作付面積を第1表に示した。フランスは欧州最大の農業国で総農地は北海道の約20倍、テンサイ面積は北海道の約7倍である。特に中央部からロワール地方にかけては大穀倉地帯になっている。イタリアに比べ栽培管理が行き届いており日本同様のきれいな圃場を見ることができた。各作物のha収量も高く、コムギ6.8t、オオムギ6t、トウモロコシ9t、ヒマワリ2.3t、ナタネ3.5t、テンサイ65~72tとのことであった。テンサイはもちろん直播栽培であるが、その安定的多収には驚かされた。 農薬マーケットはヨーロッパ全体で見るとUS$9,349milであり世界の30%を占める。内訳は除草剤25.5%、殺虫剤20.5%、殺菌剤47.5%である。フランスの農薬使用量は約2,600億円で、アメリカ、日本に次ぐ世界第3位。農薬の流通は、Cooperatives66%、Private dealers34%と系統優位。
2.イタリア・フランスのテンサイ事情イタリアのテンサイ事情については、Agronomica(イタリア最大の製糖会社Eridania Beghin-Say社の下部組織で自ら各種試験を実施し技術指導・普及を行なっている。)のMr. P. Merrigi氏およびDr. V. Tugnoli氏(イタリアテンサイ協会、Associazione Nazionale Bieticcoltoriの技術部長)、また、フランスのテンサイ事情についてはアリスタ ライフサイエンスフランス社のスタッフおよびSaint、Louis Sucre社のMr.J.Chassine氏より説明を受けた。 イタリアのテンサイ作付面積は約25~30万haでここ数年は横這いで推移。主産地はポー川流域を中心とする北部地域である。欧州各国の作付面積は毎年、各国代表が集い、配分貼り付けを行なって決定しているとのこと。直播栽培がほぼ100%で、2月播種(8月収穫)もわずかではあるが行なわれている。テンサイ栽培で重要な時期は、2月(耕起・播種)、5月(初期成育。5月中旬時点で畑の50%以上を葉がカバーしていれば成育良好としている。)、7月初旬~8月下旬(褐斑病防除)、8月上旬~10月(収穫)としている。 ●輪作についてテンサイ以外に3作物は必要で、4年輪作栽培が多い。基本はテンサイ―トウモロコシ―ダイズ―コムギの輪作であり、トウモロコシの代わりにソルガム、ダイズの代わりにヒマワリになることもある。また、コムギの後作にヒマワリ・ナタネ・アブラナ科野菜を栽培する場合もあるとのこと。休耕地(牧草、アルファルファ)も珍しくない。 ●収量について主産地におけるテンサイ平均収量は60t/haと高く、糖度は16.5~17%、糖量は6~8t/ha。ただし昨年は極度の乾燥条件が続いており低収量が予想されていた。6月初めから9月上旬までの降雨量がわずか21mmとのことであった。平均年間降水量は600mm、7月は地中海の特徴で高温・募雨である。 ポー川流域のテンサイ栽培地帯は、粘土質土壌が約80%、砂質(および粘土との中間)土壌が約20%、pH7.5~8.0。
▲イタリアロンバルディア平原における水稲 (1筆が20ha以上の大水田)
▲フランスピカルディ-地方のテンサイ畑
▲イタリアアグロノミカの試験圃場
●品種について
現在イタリアには60~70もの品種があり、これといった代表品種は挙げられないとのこと。リストにはDorotea、Naila、Puma、Duetto、Doppa T,B.porto,Susan等の品種名があった。 Agronomicaでは各品種の耐性・収量等を多面的かつ詳細に試験し、品種毎に点数を付けている。農家には点数は数えないが、地域の病害発生に応じて品種を推薦している。種子会社は、Novartis, KWS, VDH等日本で馴染みの会社以外にAgra, Waribo,SES, Strube-Dick-mannなどがある。品種の選択にあたって大事なことの一つに発芽率があり、4日目の発芽率を重視している。 イタリアには三つの大きな「テンサイ協会」があり、ANBは全国の65%のテンサイ耕作者(11,000戸)を抱えているイタリア最大の協会である。その他、CCNB20%、ABI10%に加え、ローカル的協会も存在する。これらの協会は非営利団体であり、活動資金は管轄農家から得ている(テンサイ売上の2%を徴収する。糖業者からは得ていない。)活動内容は、テンサイ価格の設定・調整、農家の技術指導、受入原料品質チェック、各種試験のアレンジ・実施等であり、北海道のテンサイ協会より活動範囲はやや広いようである。 ●テンサイ価格について最下葉痕跡部の1cm下からを対象とし、品質に応じて価格設定をしている。EU共通の価格基準があり、糖度16%でUS$65/tとのこと。 ●秋播テンサイについてイタリア南部に約3万haの秋播きテンサイがある。しかし糖量は春播きが約8t/haに対し約6.5t/ha。秋播きは10~11月に播き、6月の終りから7月に収穫する。品種は抽苔の少ないもの、SUSAN(Betaseed)他、モノトウラ、アンバラ、リンダ、ノラ、ブェイロ(いずれもスペルは不明)など。霜害抵抗性は無いようである。 ●遊離土・ライムケーキの処理イタリアでも日本同様、これらの処理は頭の痛い問題である模様。そう根病の蔓延を防ぐためと、元来アルカリ土壌であるためにライムケーキは施用できるところが無く、基本的に両者とも自治体指定の山間地に廃棄しているが、場所の確保・コストの問題が負担になっている。付着土に関しては、「付着土量に応じた農家へのペナルティー/奨励金(最大でUS$30/ha相当)」、「収穫機などの技術開発」の両面から対策を講じているのが現状である。 フランスの約50万haの広大なテンサイ畑はピカルディ-地方以北の北部地方に集中し、ベルギーへと続いている。最近10年間の平均根重は約65t/ha、糖分17.5~18%。砂糖生産は460万tで世界第8位、輸出は270万tで世界第5位。製糖会社には、Eridania Beghin-Say社(欧州2位)、Saint Louis Sucre社(欧州第5位)など。Saint Louis Sucre社では、広報誌による栽培技術情報の提供の他、指導員(8人/2万ha)が直接農家を訪問し個別指導を行なっている。テンサイ生産地の割当ては、EUの配分クォーターに基づいて製糖業者の組合(SNFS)が工場・農家の配分を決めるシステムになっている。テンサイ価格はEU基準に沿って国毎に設定されているが、フランスでは糖度16%で320フラン(Aクォーター)、Bクォ-タ-で180フランであるが近年は値下がり傾向にあるとのことであった。 (次号へ続く)
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