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(前号より続く) 3.ハウスイチゴにおける放飼効果一続き一引き続いて、1998年は兵庫県加西市の中央農業技術センターのハウスにおいて、ワタアブラムシの多発生区と少発生区の防除効果の比較を行なった(第5図参照)。ワタアブラムシの発生初期(3月3日)から約7日おきに4回コレマンアブラバチを1平方メートル当り2頭(約5株に1頭)イチゴの株元に放飼した。少発生区は1回目放飼の7日前のワタアブラムシ密度は10複葉当り2.2頭、1回目放飼前2.9頭、2回目放飼前3.8頭、3回目放飼前5.3頭、4回目放飼前6.3頭と大きな密度増加を認めず、最終放飼の30日後においても4.7頭であった。寄主率については2回目放飼の前に2.6%であったものが、順次増加し、以降、4回目放飼8日後(4月1日)まで、寄生率は15.4%、27.1%、37.9%と増加した。最終放飼の30日後においても寄生率は21.7%を示し、長期間ワタアブラムシの密度を抑制した。しかし、多発生区の結果で分かるように、放飼前から10複葉当り50頭の寄生を認めた場合はコレマンアブラバチの1平方メートル当り2頭の放飼では効果が上がりにくかった。 4.農薬の影響天敵は一般的に農薬には弱い。コレマンアブラバチも例外ではなく、有機リン剤、合成ピレスロイド剤、カーバメート剤など特に影響が大きい。BT剤、殺菌剤は比較的影響が少ないものがあるが、影響のない薬剤で防除を実施するようにしてほしい(第2表)。
5.コレマンアブラバチの使い方放飼時期:コレマンアブラバチの導入は他の天敵と同様に、対象害虫であるアブラムシが圃場で散見され始めた発生初期(イチゴでは100株の調査で寄生株は1~2株程度、または調査株の平均のアブラムシ数は10複葉当り10頭以下の時)が1回目放飼の適期である。 放飼量と放飼回数:1回の放飼量は10a当り2ボトル(1,000頭、1平方メートル当り1頭)。また、ボトルの開封後7日間はそのまま静置し、羽化成虫がすべて飛び出すようにする。放飼回数は1~2週間おきに3~4回放飼する。 放飼方法:成虫の生存期間は25℃で約6日と短いので、到着後すみやかに放飼すること。放飼位置は1回目アブラムシの散見されるところを中心にボトルを設置し、2回目以降の放飼は圃場に均等に生息させるため、アルミ箔などでカップを作ったり、前回放飼のボトルを利用して、1aに1ケ所程度の割合で、ボトルに入っているマミーを均等に入れ分けて、分散して放飼すると効果が上がりやすい。 放飼場所:ボトルを置く場所は、イチゴは株元に、ナスは生育初期は株元に、生育中期は誘引線などにボトルをひっかけ草丈の中段にくるように工夫して置くと良い。 6.放飼効果の確認放飼効果はアブラムシのマミーの発現で確認する。マミーの発現時期は温度条件によって異なるが、25℃条件の場合マミーの発現は放飼後5日目から見られるが、この天敵をよく利用する2月頃の無加温ハウスでは気温が低く、マミー発現まで2週間程度かかる。私の経験した1996年1月の促成栽培イチゴでは、最低気温8℃最高気温25℃の2重被覆無加温ハウスで、放飼後マミーの確認できるまで25日程度かかり、1998年3月の場合は気温が比較的高く、放飼後15日程度でマミーが確認できた。 調査する株は放飼前にアブラムシの寄生している株を20株程度マークしておいて、1週間おきにアブラムシの生息数とマミーの発生数を調査する。マミーが発現し、アブラムシ密度が減少すれば放飼効果が上がっている。
7.使用上の留意点入手時のチェック:入手すれば保存せずすぐに放飼する。このときのボトル内の羽化成虫数を確認する。羽化している成虫は雄が少数の状態が望ましい。 アブラムシの種の確認:コレマンアブラバチはイチゴとナスの主たる加害種のワタアブラムシとモモアカアブラムシには高い寄生率を示すが、寄生しないアブラムシもあるので、加害種が何であるか確認をしておく。(チューリップヒゲナガアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシには寄生しない)。 活動適温:活発な産卵寄生行動が見られるのは20~30℃である。10℃前後の気温では産卵寄生行動が鈍い。また35℃以上の高温時もアブラバチにとっては活動適温ではない。放飼ハウスでは最低・最高温度計だけはセットして、日々の温度チェックをすることが重要である。 アブラムシ密度:1回目放飼時のアブラムシ密度に注意する。アブラムシ寄生株率50%で、葉裏に10葉当り50以上のアブラムシが認められるようであればコレマンアブラバチによる防除は期待できない。 農薬による影響に注意:コレマンアブラバチに対する農薬の影響は第2、3表に示すとおりで、コレマンアブラバチは飛翔力はあまり強くない。翅が薬液によりぬれても影響があると考える。影響のない農薬の散布でも、放飼から3日間は薬液の散布を控えて欲しい。また、ボトルに薬液が入ったりしないように気を付ける。 ハウス全体に放飼:最終放飼の時期にはコレマンアブラバチがハウス全体に生息するように、ボトル内のマミーを分散して、ハウスの所々に放飼する。(放飼方法の項参照) イチゴのうどんこ病対策に硫黄のくん煙について:くん煙日でもコレマンアブラバチの産卵行動を確認している。ただ、その時々の硫黄濃度により影響度は違うと考えられる。使用しないのが好ましいが、使用する場合、栽培者によってボトル内の死亡個体があるかどうかチェックを行なって欲しい。普通ボトル内には死亡個体は残らないか、残っても1~2頭である。
おわりにイチゴ栽培では良品質果実の生産のためミツバチ導入は不可欠である。そのため、農薬の使用が少なくなり、アブラムシやハダニの発生が坪状に発生することがある。果実収穫中の2月~4月に発生するワタアブラムシはコレマンアブラバチを3~4回導入することにより防除ができ、ハダニにはすでに農薬登録がされているチリカブリダニの導入で対応できる。定植時の粒剤施用からスタートして天敵導入と総合的な害虫防除が、今、可能になった。ナス栽培では重要害虫としてアブラムシ類、ミナミキイロアザミウマ、ハダニ類と害虫の種類が多い。コレマンアブラバチの農薬登録により4月発生のアブラムシ防除は天敵で行なえるようになった。アザミウマ防除には植え付け時の薬剤防除で初期発生時期を遅らせ、発生初期に今回登録になったククメリスカブリダニの放飼で対処。ハダニ類には坪状発生の時期にチリカブリダニの放飼と天敵導入の体系化がそろいつつある。天敵による防除を組み入れるとき重要なのが、適正な使用時期であったか。効果の確認を適正に行なえるかどうかにかかっている。 (兵庫県病害虫防除所)
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