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はじめに平成10年8月にテンサイ褐斑病に対する新薬剤であるホクガード乳剤(テトラコナゾール乳剤・15%)が登録された。登録内容は1,000~1,500倍液を100~120 リットル/10aで収穫21日前まで2回以内散布である。筆者が本薬剤の登録に際して効果試験の一部を担当した関係で本記事を担当することとなった。まずはじめにテンサイ褐斑病はどのような病害であるのかについて紹介し、次にホクガード乳剤の防除効果について述べたいと思う。 テンサイ褐斑病テンサイは砂糖の原料として約68, 000haが作付けされており、コムギ、ジャガイモと並び北海道の畑作の基幹作物である。一般的にはペーパーポットで育苗された苗を5月中旬に移植し10月下旬に収穫を迎える。 生育中期から葉と葉柄に内部が淡褐色で周囲が紫褐色の直径2~5mmの円形病斑を多数形成する病害がテンサイ褐斑病である(写真1)。本病の病原菌は不完全菌類に属するCercospora beticolaである。古くから発生が認められており、現在でも各地で常発し、テンサイの最重要病害の一つである。最近の発生状況を第1図と第2図に示した。初発は地域あるいは年次により異なるが、ほぼ7月中旬頃からみられる。進行すると多数の病斑が融合し葉が枯れ込む場合も認められる(写真2)。7月から8月が高温多湿の年に発生が多い傾向にある。 種子伝染することも知られているが、本病の主な伝染源は前年の被害茎葉である。したがって連作すると初発期が早まるとともに発生量が増える。また、病斑上にも多数の分生胞子が形成され二次伝染源となる。 北海道では発生程度を0~5までの指数(第1表)を用いて調査しているが、9月下旬の発病指数が1ないし1.5(発病度で20~30)を越えると収量(糖分と根重)を低下させると考えられている。発病指数1.5は半数程度の葉に病斑がみられる状態であるが、収穫期近くの一般圃場の中には多数の病斑が融合し、葉の一部が枯れ込んでいる株が大部分を占める多発生圃場も散見される。
テンサイ褐斑病の防除法耕種的防除法として、無病種子の使用、3~4年の輪作、罹病残さをすき込まないことが挙げられるが、薬剤防除も有効である。褐斑病防除に用いられる薬剤としては主に硫黄系薬剤、抗生物質・銅系薬剤およびDMI系薬剤が挙げられる。防除回数は3回から7回と幅があるが、一般的には4回が多い。最も一般的な防除体系としてはマンゼブ2回、抗生物質・銅系1回、DMI系1回を組み合わせたものを挙げることができる。発生推移が急激である連作圃場でなければ、発病株率50%に達した時期からの茎葉散布で被害許容水準以下に抑えることが可能である。
ホクガードの防除効果1993年と1995年に道立北見農試でホクガード乳剤のテンサイ褐斑病に対する防除効果を検討した。1993年は8月10日、19日、30日、9月8日の4回散布、1995年は8月3日、8月14日、8月23日、9月4日の4回散布であった。両試験とも3反復乱塊法で実施し、希釈倍数1,000倍、散布水量は100リットル/10aであった。また、発生を助長するため、7月上旬に前年度の罹病葉を乾燥したものを畝間に散布し接種を行なった。 試験結果を第3図および第4図に示したが、両年とも対照薬剤(マンゼブ水和剤75%・500倍)より優る防除効果が認められた。 1996年には、ホクガード乳剤の防除効果を、他剤と組み合わせた防除体系の中で検討した。マンゼブ水和剤(500倍)-カスガマイシン・銅水和剤(800倍)-ホクガード乳剤(1,500倍)の順に3回散布した区(MKH区)と、マンゼブ水和剤(500倍)一カスガマイシン・銅水和剤(800倍)-ジフェノコナゾール乳剤(3,000倍)の3回散布区(MKP区)およびマンゼブ水和剤(500倍)マンゼブ水和剤(500倍)-カスガマイシン・銅水和剤(800倍)-マンゼブ水和剤(500倍)の4回散布区(MMKM区)の防除効果を比較した。ここでは残効期間をマンゼブ水和剤は約10日、カスガマイシン・銅水和剤では約15日として散布間隔を設定した。 試験は3反復乱塊法で行ない散布水量は120リットル/10aとした。ホクガード乳剤(1,500倍)を含むMKH区はマンゼブ水和剤(500倍)とカスガマイシン・銅水和剤(800倍)の4回散布区であるMMKM区とほぼ同等の防除効果を示し、また、ホクガード乳剤の代わりにジフェノコナゾール乳剤(3,000倍)を散布したMKP区とも同等であった。無散布区では9月18日と25日の調査の間に急激な発病度の伸びが認められているが、MKH区とMKP区では最終散布が8月26日であったにもかかわらず、このような伸びは認められず、発病度の増加は一定に抑えられていた。ホクガード乳剤およびジフェノコナゾール乳剤の残効期間は20日間程度であることが報告されている。本試験のデータもこれらの薬剤の残効性の高さを示唆するものと考えられる。 DMI剤は防除効果および残効性の高いことから、現在の褐斑病防除体系の中で中心的な役割を担っている一方で、耐性菌出現に対する懸念が常に存在している。このような状況下において新規のDMI剤であるホクガード乳剤の登場は薬剤の選択肢を広げることとなり、テンサイ褐斑病防除に対する貢献は大きいと思われる。 (北海道北見農業試験場) |