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はじめに施設の野菜栽培においてアブラムシによる被害は、吸汁害による生育不良、排泄物によるすす病の誘発、植物ウイルス病の媒介(伝搬)など生育・収量・品質全てに影響し、甚大である。また、ワタアブラムシでは薬剤抵抗性も発達しており、難防除害虫の一つである。 施設イチゴにおいては、1月頃からワタアブラムシの葉裏への寄生が見られる。3月上旬定植の施設栽培ナスでは4月中旬頃新梢にモモアカアブラムシの寄生が見られ、ついで展開葉にワタアブラムシの寄生が多くなってくる。このようにイチゴとナスではこの2種による被害が主体である。 これまで病害虫防除を薬剤に依存していた生鮮果菜栽培では安全性の確保と省力化、危害防止の面から農薬の使用を減らそうとする栽培者が増えており、天敵を利用する動きが出てきた。 コレマンアブラムシは海外ではアブラムシ類に寄生する天敵農薬として広く利用されている。ここでは天敵農薬として登録されたコレマンアブラバチ(Aphidius colemani、商品名アフィパール)の防除効果のしくみ、寄生能力、その使用方法などについて紹介する。
第1図 コレマンアブラバチの寄生の状況(温度条件:摂氏25度)
1.防除効果の仕組みコレマンアブラバチの雌はワタアブラムシとモモアカアブラムシの幼虫・成虫に寄生する。産卵しようとした雌はアブラムシに近づくと脚を外側に伸ばし、腹部を曲げて脚の間からアブラムシの腹部に産卵管を素早く刺し1卵を産む。産卵されたアブラムシはすぐには死なず、腹部には脂肪分が多くなり膨れ、球形に近くなり動作も鈍くなって死亡し、光沢のある薄茶色ミイラとなる。このミイラ化したアブラムシの死骸をマミーと呼ぶ(第1図参照)。 この間、寄生したアブラバチはアブラムシの栄養で幼虫・さなぎと成長し、摂氏25度では産卵の13日後背中に丸い穴をあけ羽化する(第1表)。また、コレマンアブラバチより産卵の攻撃を受けているアブラムシの集団(コロニー)は異常な興奮状態となり、寄生場所から脱落する個体がよく見受けられる。このことでアブラムシの生息数が少なくなり、被害が抑えられる効果も大きい。 コレマンアブラバチは交尾した雌成虫のみ受精卵と未受精卵を産み分けられ、次の世代も雌と雄だけの発生となる特徴がある。
▲コレマンアブラバチ1、2、3齢幼虫
第2図 ワタアブラムシに対するコレマンアブラバチの寄生率・生存率・1日産卵数 2.コレマンアブラバチの寄生能力コレマンアブラバチのワタアブラムシ密度別寄生能力を、摂氏25度14L-10D条件下で調査した。ポット栽培ナスの葉をプラスチック容器(底面径15cm、上面径14cm、深さ6cm)で覆い、ワタアブラムシ幼虫の密度を10頭、50頭、100頭区を設定し、交尾させたコレマンアブラバチ雌1頭を放飼し、生涯の寄生数、生存期間、産卵数を明らかにした(第2図)。 コレマンアブラバチ雌成虫の生存期間は寄主密度による差はなく、約6日であった。1雌当りの産卵数は密度による違いがみられ、10頭区では、放飼後5日目まで毎日20~30個の産卵をし、ワタアブラムシ1頭に2~3個の産卵をする多寄生の現象も見られた。50頭区では4日目まで約50個程度産卵し、5日目から産卵数は減少した。100頭区では1日目98.0個、2日目94.0個、3日目85.8個、4日目54.6個、5日目30.8個と順次減少した。 1雌当り総産卵数は、10頭区で146.4個、50頭区で249.6個、100頭区では384.0個あった。寄生が多くなるほど1頭当りの産卵数は多くなった。 また、寄生率では、アブラムシが少ないほど放飼後の寄生率は高く維持されているが(10頭区:5日後まで90%程度、50頭区:4日後まで90%程度)、100頭区は90%以上の寄生率を示すのは放飼2日目までであり、4日目には50%程度まで低下した。すなわち、アブラムシの発生初期からコレマンアブラバチを数回放飼すれば寄生率が高まり防除効果が認められることが示された。
第3図 コレマンアブラバチによるワタアブラムシの抑制効果
第4図 コレマンアブラバチ放飼区のマミー数と寄生率
3.ハウスイチゴにおける放飼効果促成イチゴ栽培における1996年の結果では、ワタアブラムシの発生初期(1月8日)から7日おきに7回コレマンアブラバチを1平方メートル当り2頭(約5株に1頭)イチゴの株元に放飼した。農家慣行区は試験開始時に10複葉当り30頭のワタアブラムシが寄生しており、その後増加傾向を示し、試験開始50日後には10複葉当り58頭の密度まで増殖した(第3図、4図)。放飼区は1回目の放飼後からワタアブラムシの密度上昇は抑えられ、最終放飼から40日以上ワタアブラムシの密度を抑制した。 以下次号へ続く。なお1998年の結果については次号で紹介する。 (兵庫県病害虫防除所)
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