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はじめにJAみなべは、和歌山県のほぼ中央部に位置し南部町と、南部川村を管内に持ち農業の盛んな地域である。気候は温暖で年平均気温摂氏16度、年間降水量1,800mmでウメをはじめ農業生産に恵まれた環境にある。その中でも特産のウメは、「みなべの南高梅」として、市場に出荷され、高い評価を得ている。 また近年では、梅干しの消費も伸び、農家で1次加工を行ない、地元の梅加工業者で2次加工された梅干しが全国に出荷され、全国のほとんどのシェアを占めている。記憶に新しいところでは、1996年(平成8年)に病原性大腸菌O-157が大発生した時には、梅干しに含まれるクエン酸の殺菌作用が注目されるとともに、「健康食品」としても脚光をあび消費拡大にも大きく貢献した。さらには、「チョーヤの梅酒」で有名な蝶矢洋酒醸造にも梅酒の原料として供給されている。
▲「みなべの南高梅」美しい紅がさすのが特徴
▲スプリンクラーによる防除が急速に普及してきている
病害虫防除さて、病害虫の防除についてであるが、現在ウメの最も大きなセールスポイントでもある「健康食品」というイメージを守るためにも農薬の使用には十分注意を払い、安全使用基準は厳守するように徹底している。 ウメの主な病害虫は、害虫では、アブラムシ類、ウメシロカイガラムシ、コスカシバであり、年によってはカメムシ類が大発生して大きな被害をもたらす事がある。この中で、コスカシバについては全国に先駆け安全性の高い交信攪乱剤のチェリトルア剤の導入を行ない、現在では完全に定着している。農薬を使う側の農家の健康を守る事もでき、また防除効果も高く大変喜ばれている。 カメムシ類の防除については、県果樹試験場が行なっている越冬量の調査を参考にしながら、発生を見てから防除している。特にカメムシ類の防除では、合成ピレスロイド剤を使う事が多く、場合によってはダニ類や、ウメシロカイガラムシを多発させる事もあるので、不必要な散布はしないよう十分注意している。
病害については、主なものとして、黒星病、かいよう病、すす斑症、紋羽病などがある。以前は、ウメの最も重要な病害は黒星病(地元では俗にみっちゃと呼ばれている)であった。しかし研究が進み、防除適期が解明されてくると共に、防除効果の高いEBI剤などが市販され、また、スプリンクラー防除が広く導入されてくると共に、ほとんど見られなくなってきた。 今では、見たくても見れられないというのが実状である。反面、今最もやっかいなのがかいよう病である。かいよう病は、黒星病などと違い、病原菌が細菌という事もあり、難防除となっている。 近年では、1996年にも大発生し大きな被害を受けた。防除には、発芽前の銅剤と、生育期に3~4回のストレプトマイシン剤を散布しているが、発生要因が重なるとなかなか完全に防除するのが困難なのが実状である。試験場の調査でも、防風ネットの設置の効果が最も高く、耕種的な防除を兼ね合わせていく必要があると考えられる。
さて、かいよう病と共にやっかいなのがすす斑症である。名の通り、果実の表面に「スス」がついたような病斑を形成し、著しく商品価値を低下させる。これは青梅出荷する場合はもちろん、漬け梅として梅干しに加工してもとれる事はない。 また特徴として「病」ではなく、「症」となっている事からも分かると思うが、まだ病原菌が特定されていない。さて、その防除であるが主にオーソサイド水和剤が中心になっている(防除暦参照)。他に登録があり、県の農作物病害虫および雑草防除指針に採用されている薬剤としては第1表のような薬剤がある。 しかし、試験場が数年にわたり調査した結果でもオーソサイド水和剤の効果が高く(第1図)、また1996年に農協営農課が中心になり現地での実用試験を実施したところでも、明らかにオーソサイド水和剤の防除効果が勝っていた。さらには、果実をコンテナに入れた状態の見栄えの面でもオーソサイド水和剤を散布した果実の方が、艶があるように感じられた。
さて、実際面での使用であるが、5月上旬と下旬に、すす斑症防除としてオーソサイド水和剤を散布している。上旬については600倍で使用し、ウメシロカイガラムシの多発園ではDMTP乳剤の1,500倍を混用散布している。下旬の散布は、薬害防止のため800倍で使用し単用散布とし、展着剤を5,000倍で加用している。 この時期は果実の成熟も進み、温度も上がってくる事から薬害の危険性がある。実際に薬害の事例も報告されている。しかし、そのような事例も、どちらかといえば散布時の気象条件の方が大きく影響しているようで、高温多湿時(気温摂氏25度以上)、夕方の散布で薬が乾きにくい状態で発生し易いようである。 そのため、防除暦の備考欄へ注意を促すような文章を入れ、防除講習会でも徹底するようにしている。現在では、薬害の事例報告はほとんど聞かれない。 また、オーソサイド水和剤は黒星病にも効果が高く、防除指針にも採用されている。防除暦では黒星病の防除期は4月までとなっているが、5月に入っての感染も考えられ、オーソサイド水和剤により同時防除的に効果が発揮されていると考えられる。
第1図 ウメ黒星病・すす斑症に対する防除効果(1988)和歌山県果樹試験場
最後にさて、いままで主にオーソサイド水和剤を使ったすす斑症の防除について述べたように、現在ウメの病害防除においてオーソサイド水和剤は重要な役割をはたしている。しかし先ほども述べたように、大きなセールスポイントである「健康食品」というイメージを守って行くためにも、安全使用基準は厳守していく必要がある。 今後もまずそのことを一番に考え、ウメの病害虫防除に取り組んで行きたいと思う。 (JAみなべ)
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