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はじめにBT剤は、園芸分野ではコナガの防除薬剤として広く利用されているが、チャではこれまでほとんど使用されてこなかった。静岡県の病害虫防除基準に、BT剤がチャのハマキムシ類(チャハマキ、チャノコカクモンハマキ)の防除薬剤として掲載されたのは、平成6年度とまだ最近のことである。しかし、それ以降新しいBT剤がチャにも登録となったことなどから、平成10年度は、ハマキムシ類、ヨモギエダシャクの防除薬剤として7種類のBT剤が掲載された。 ところで、静岡県でのチャハマキとチャノコカクモンハマキの発生回数はいずれも年4回でほぼ同時期に発生する。そのため、防除は毎世代1回両種を対象に薬剤散布が行なわれている(第1図)。しかし、近年IGR剤の効果が低下してきたことやチャハマキ第3世代の発生が多いために追加散布が必要なことなどから、現場では新しい薬剤を求める声も強い。そのため、BT剤は平成9年には一部の地域で使用されたが、本県のハマキムシ類に対する効果が十分確認されていないことなどから、全県的にはあまり普及していない。しかし、他作物同様チャにおいても環境保全型栽培体系の確率が求められており、今後環境負荷の少ないBT剤をうまく活用していくことが必要である。ここでは、BT剤のハマキムシ類に対する効果試験の結果と静岡県におけるチャでの利用方法を紹介する。
第1図 静岡県におけるチャハマキの発生消長と防除時期
1.チャハマキに対する殺虫活性1997年に静岡県茶業試験場の茶園より採集したチャハマキ3齢幼虫に対するBT剤の効果をチャ葉を餌として食餌浸漬法により検定し、その結果を第2図に示した。BT剤の種類により死亡率に差が見られ、最も死亡率の高い薬剤で80%程度、低いものでは50%を下回るものもあった。ゼンターリ顆粒水和剤の効果は供試したBT剤の中では高い方であったが、死亡率は60%程度とあまり高くなかった。また対照に用いた有機リン剤のクロルピリホス乳剤に比べていずれのBT剤の死亡率も低かった。このことから、BT剤のチャハマキに対する殺虫活性はあまり高くないことが明らかとなった。
2.チャハマキ1齢幼虫に対する残効性ハマキムシ類の防除は、各世代1回の薬剤散布しか行なわないので、防除薬剤にはある程度の残効性が要求される。そこで、ふ化1~2日後の幼虫に対するBT剤の残効性を調査し、その結果を第3図に示した。ゼンターリ顆粒水和剤は散布1日後で80%の死亡率を示し、その後緩やかに効果が低下した。この傾向は、もう1つのBT剤もほぼ同じであった。一方、対照のクロルピリホス乳剤は4日後までBT剤に比べ効果が勝ったが、その後効果は著しく低下した。このことから、BT剤の残効性は決して長くはないが、効果の低下具合は緩やかで、有機リン剤に比べればある程度の期間効果が維持されると思われた。
3.チャハマキに対する圃場での効果1997年7月第2世代の幼虫ふ化期にBT剤の防除効果を検討した。茶園におけるチャハマキ幼虫の分布は均一ではないので、区により発生のばらつきがみられるが、平均値で防除率を求め第1表に示した。対照には、静岡県でチャハマキの防除によく使用されるクロルピリホス乳剤とテブフェノジドフロアブルを用いた。3齢幼虫を対象とした室内検定では、クロルピリホス乳剤との効果差は大きかったが、圃場試験ではほぼ同等の効果を示した。また、1993年に行なった第1世代幼虫を対象とした圃場試験でも、BT剤は対象のメソミル水和剤とほぼ同等かやや勝る効果を示した(第2表)。BT剤は室内検定を行なうと、生きてはいるが摂食をしないために成長しない幼虫がよくみられる。そのため、室内検定の死亡率は高くないが、ほ場試験ではそのような幼虫が死につながるために室内検定に比べ高い効果が出るのではないかと考えられる。
4.チャノコカクモンハマキに対する殺虫活性1997年に静岡県島田市初倉の4地区の茶園より採集したチャノコカクモンハマキ3齢幼虫に対するゼンターリ顆粒水和剤の効果をチャハマキと同じ方法で検定し、その結果を第4図に示した。 ゼンターリ顆粒水和剤の死亡率は60~85%を示し、採集地区による死亡率の差はあるもののチャノコカクモンハマキに対する効果は、対照のクロルピリホス乳剤と同程度かやや劣る程度であった。このことから、BT剤のチャノコカクモンハマキに対する殺虫活性は高く、チャハマキに比べて勝っていることが明らかとなった。今回、チャノコカクモンハマキを採集した地区では、1980年代後半カーバメート系殺虫剤に対する抵抗性が発達し、それ以降ハマキムシの薬剤感受性が全般的に低下している。そのため、その地区のチャノコカクモンハマキに効果が高ければ本県の他地区の虫に対しても効果が高いことが推測される。また、チャハマキでは室内検定での殺虫活性があまり高くはないが、圃場試験では室内検定で殺虫活性の高い殺虫剤とほぼ同等の効果を示すことから、チャノコカクモンハマキでも同様に圃場では高い効果が見られると思われる。
5.ゼンターリ顆粒水和剤をはじめとするBT剤の利用方法静岡県におけるハマキムシ類の防除にBT剤を用いる場合、次のような使用が効果的であると考える。 (1)第1世代での使用 BT剤のハマキムシ類に対する殺虫活性は、他の有機リン剤やIGR剤に比べ優れるものではなく、また残効性もIGR剤等に比べると短い。ハマキムシ類、特にチャハマキでは世代が進むにつれ発生期間が長くなり発生量も増加するので、BT剤の使用時期は発生量が少なく、発生期間の短い第1世代での使用が効果的であると考えられる。その際には、誘蛾灯などによる成虫の発生消長データに基づいて幼虫ふ化最盛期に使用することが大切である。 (2)第3世代の2回目の防除薬剤としての使用 静岡県では、チャハマキの第3世代は発生量も多く成虫の発生が長期に渡るため、現在使用しているIGR剤でも十分効果が上がらず追加散布が必要な場合がある。本県での防除歴ではこの時期までに有機リン剤、合成ピレスロイド剤が使用されているので、薬剤のローテーション使用を考えるとBT剤を使用することがよいと考えられる。 (3)チャノコカクモンハマキ優占地区での使用 静岡県では、チャノコカクモンハマキの発生がたいへん少なくチャハマキの発生量の多い地区が大部分であるが、中には反対にチャノコカクモンハマキの発生が多い地区がある。ゼンターリ顆粒水和剤をはじめとしてBT剤のチャノコカクモンハマキに対する殺虫活性はチャハマキに比べ高いので、そのような地区での使用は有効と考えられる。
おわりにBT剤は、農林水産省の有機農産物等の表示ガイドラインにおいて使用が認められている資材の一つである。そのため、有機農産物に対する需要が拡大するにつれ、今後使用は増えると思われる。しかし、その一方で農産物の低コスト生産も求められており、薬剤費を下げる必要もある。現在、チャで使用されている殺虫剤の標準的な小売り価格を調査してみると、BT剤は価格が高いものが多い(第3表)。そのことが、チャではBT剤の使用が進まない原因の一つともなっている。今後、チャでもBT剤の使用を推進するにあたり、農家に効果や使用方法を周知徹底させるとともに、メーカー側の価格引き下げの努力も必要と思われる。
(静岡県茶業試験場)
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